愛ゆえにミスった漢。でも俺はその勇気を称賛する。

あれは高校時代のこと。

俺は理系のクラスだった。
理系なのでオタクが多いクラスではあったが、オタクではないやつもいる。俺は、オタクではないけれども、オタクと話すのも楽しくて好きだ。だから仲よく過ごしていた。

そんな中、クラスで一番体がでかい(というか、まあまあデブ)大山という男がいた。

ぶっちゃけ、顔は全然カッコよくないのだが、オタクも多かったせいか、自分はイケている方だと勘違いしている節があった。

イケている方だといっても、俺らは理系。
しょせん、文系クラスで、女子が多くキャピキャピした高校生活を送っているやつらの足元にも及ばない。

でも大山はなぜか自分のことをイケメンだと思っていたようで、文系に進んでいたら彼女が余裕で出来たと思っているようだった。

本人がそう思ってて、幸せならば、俺はそれでいいと思っている。

自分を好きになる方が、絶対に人生は楽しい。

しかし、大山は欲を出してしまった。

「タロの助~俺さぁ~明日髪切ってくるぜ?」

クソどうでもいい情報を連れションの時に話してきた。

ちなみに大山はボウズが伸びたような髪型だ。今さらどこ切るねん、ボウズしかなかろうが!と思ったが、俺は心が広いから楽しみにしてるぜ、とだけ伝えた。

このとき、俺は知らなかった。
大山が恋をしていたことを。
意中の女性をゲットしたいがために、いつもはバリカンでお母ちゃんにボウズにしてもらっているのに、頑張って美容室にいったことを。
その愛を、勇気を………

俺は知らなかったんだ……

翌日、俺はいつものように登校し、朝から席の周りのやつらとグダグダとエロい話をしていた。

そういえば、大山髪切ってくるぜとか言ってたな。
どんな髪型になったんだ??俺は気になった。

大山はまだ登校していない。

そろそろ朝のホームルームが始まるので、みんな席に座っていた。大山休みかな?と思っていると、ガラガラガラと教室のドアが開いた。

クラスはざわめいた。

「えっ、なにあれ?」
「はっ、えっ!うそ!?」
「なっ!!なんやあれ!?」
「うそだろ!?」

そこには、タマネギみたいな髪型の大柄な男がいた。

大山だ。

大山は
「うぃーす、ちょっと目立っちゃうかなぁ!?」

と、ドヤ顔だ。

えっ?なんでドヤ顔!?

たぶんクラス全員が思った。

「俺さぁ、別にいつも通りで良かったのに、ベッカムヘアーにされたぜ。まったく。」

えっ!?ベッカムヘアーなの!?

「はぁ、だり、マジ、髪のセットに時間かかるぜ……」

えっ!うそ!?それ時間かかるの!?

みんなの心の声が聞こえる。

でもみんな優しいから、口では何も言わなかった。
タマネギヘアーだけど、本人がベッカムヘアーと思っているならそれでいい。そう思った。

先生が来た。

「みんな、おはよー!って大山っっ!!?あははははははは!!!!」

えっ!先生!?笑っちゃダメだろ!!

たぶんみんな思った。

「大山!どうした!?なんだその髪型!?」

先生それ言っちゃダメじゃね!?

俺は心配して大山を見た。

大山は笑っている。そして言う。

「先生?知らないんですか??ベッカムヘアーですよ?これ。今、はやりですよ。」

いや、流行ってねぇよ。タマネギだよ。
たぶんクラスの8割が思った。

先生は言う
「ほぉ、そうなんだぁ。知らなかった。流行ってるんだな!」

先生も素直だから、それが流行りだと信じて、そのままホームルームに突入した。

一難去った。良かった。

そして、一時間目の授業が終わった。

俺はちょっと恥ずかしいけど、大山と連れションに行った。

廊下で通りすぎるみんなが大山を見る。

中には吹き出すやつがいる。

廊下の前方から文系女子の花山さんが歩いて来た。
大山が一方的に気になっている女子だ。

大山は意気揚々と彼氏気取りで、「花山、おはよう!」
と言った。

「えっ?どうしたの?」花山さんは言う。

大山は嬉しそうに、「いや~勝手にベッカムヘアーにされちゃったよ」とドヤっている。

「えっ?タマネギじゃん??笑」

そう言うとそのまま花山さんは去っていった。

ぼーぜんと立ち尽くす大山……

俺はオロオロしながら、一生懸命フォローの言葉を考える。

「いやいや、大山?大山!?全然タマネギじゃないよ、大丈夫!大丈夫だよ!?」

しかし、大山の耳には入っていない。

大山の目から一粒の涙がこぼれた。

大山はそのまま走ってトイレに行ってしまった。
後を追う俺。

トイレの鏡の前で大山はボーゼンとしていた。
そして、ぽつりと言う。

「あれ、俺、タマネギだ………」

そして、その小さな目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

俺はただ、ただ、泣くタマネギのそばにいることしかできなかった。

翌日、大山はただのボウズになって戻ってきた。

大山と連れションに行くとき、廊下で花山さんとすれ違った。

大山は下を向く。
そのまま通り過ぎようとすると、

「そっちが似合うよ!!」
花山さんが眩しいほどの笑顔で言う。

大山は顔を上げ、照れ臭そうに
「ああ!!」と言った。

タマネギを食べると思い出す。
愛する人のために、必死にカッコつけようと勇気を出した 、一人の漢を………。

終わり

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