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【note神話部2022年夏の企画】~恋は心のバカンスです

 
 
 
本日、2022年8月2日。

note神話部恒例の『2022年夏の企画』参加作品です。

今回のテーマは、神々の『バカンス』『ひと夏の恋』!
片方のスパイスだけが効いていても、両方のスパイスが効いていても構わないルールですが、どちらにしても夏らしいテーマになっています!

そして、『ギリシャ神話の神様と他の神話の神様を必ず物語に入れる』のもルール。

この夏、神様たちの間にどんな恋やバカンスが繰り広げられるのか楽しみです!(^^)!

ひとまず2日目の本日は、タワシめの語りをお聞き戴ければ幸いにて。いろいろアレがアレしてるのはデフォですwww
 
 
 

✵°⿴⿻⿸✧✵✧⿴⿻⿸°✵

 
 
『恋は心のバカンスです』

 
 
 蝉が全力で鳴いている。夏真っ盛り。

「じぃちゃーん!」

 近所の子らの声が蝉の鳴き声と重なった。

「おお、来たのか。冷えた甜瓜まくわうりでも切ってやろう。ちぃと待ってなさい」
「うん!」

 人の好さそうな老人が奥へ消えると、優しい風が汗で湿った子らの髪をふわりとなでてゆく。

「すずし〜」
「さっきまで風なかったのにね~」

 やがて床が軋む音が近づいて来る。

「……何だ。おんしら、来たのか」
「えっ?」

 子らが振り返ると、いつの間にか4人の若者が座っていた。

「恒例の暑中見舞い」
「そんな時季か。ちょうど良い。おんしらも食うてゆくがいい」
「お、美味そう!」

 瓜にかじりつく若者を見、警戒していた子らも手を伸ばした。

「ねぇねぇ、じぃちゃん。お話聞かせてよ」
「ふむ……では異国の女神様と恋に落ちた国神様の話でもするかの」

 若者4人は黙って瓜を齧っていた。



 次々起こる問題やっかいごとに、各地を飛び回っているオオナ(仮名)は辟易ウンザリしていた。

 「24時間働けますか」とリ○インを地でゆく、365日セ○ムも真っ青の勤怠。ブラックにも程がある。

「休暇欲すい!」

 わめくオオナに相棒が呆れる。

「美しい女子おなごの噂を聞いちゃ、飛び回っておるくせに」
「大事なことだ! 美しい女人にょにんを見過ごすなど出来まいぞ!」
「……構うておれん。行くぞ」
「あ! おれの……おれの話を聞けぇ!」

 慌てて相棒を追いかける。

「次は集落同士の仲裁じゃ。まとめられたら休暇を取って良いぞ」
「ヒャッホーイ!」

 今度の出張は西の果てである。

「ここは国中で最も遅く暁が訪れるそうだ」
「それはオツ……いや、どうせなら世界で一番遅い暁を見たいな」
「……そうか?(一番早いと言うならわかる)」

 オオナと言う男はつくづく変わり者だと思う。いつもヘラヘラニコニコして滅多なことでは怒らない。仲裁もヘラ~っと話を聞いているうちに当事者たちが毒気を抜かれ、「しょうがねぇなぁ」とほこを収めるのだ。

 そのくせ美女を見ると目の色が変わる。いやさ、鼻の下が三割伸びる無類の女好きと来ている。
 各地で女とねんごろになっては奥方の逆鱗げきりんに触れ、半殺しの目にっているのに一向にりない。ある意味、感心する。

 とりあえず今回は、相棒から聞いた『最も遅い暁』を観ようと海辺の高台へ足を運んだ。暁までは今少し。まだ空も海も暗い。
 日が昇る方を向いて両腕を大きく伸ばしていると、やがて少しずつ景色の色が変わり始めた。

「この国で最後に夜明けを見ているぞぉー!」

 海に向かって叫ぶ。
 刻一刻と変化するビロードのような空の色。それを映して変化する海。早かろうと遅かろうと暁は美しい。

「どうせならホントの西の果てで拝みたいなぁ……ん?」

 思わず目を凝らす。

「何、あれ?」

 まだほのかに暗い彼方から何かが近付いて来る。まるで暁を引き連れているかのようなそれを捉え、オオナは仰天した。

「え? 人? 人なの?」

 しかも、女の姿に見える。

「ちょ、待って、待って! どーゆうこと、あれ!?」

 背後で薄幕のようなきぬがなびくたび、空の色が明るく変化してゆく。だが、オオナの目を引いたのはそこではなかった。

「めっちゃ美人! めっちゃ美人! 誰誰!?」

 世に言う、『鼻下三割増デレデレ現象』である。

 一方、暁の幕を引いていたエオス暁の女神は、遥か下界のオオナに気づいた。

「?」

 男は自分に向かって手を振っている。

(あのひと……わたくしの姿が見えるの? ただ者ではあるまいが、確かめてはいられない)

 役目の途中では抜けられず、エオスはそのまま西へと向かった。

(一体、何者か……名のある神の一柱ひとりであろうか)

 思い起こしながら神殿に降り立ったエオスは、ふと、何かが近づいて来る気配に外を見やり、驚愕した。

「……!」

 遠い東の地で見かけた男が砂埃を立てて走って来るではないか。

「山を飛び谷を越えわたくしの神殿にやって来るとは……!』〈平地も走ってます〉

 不審者への疑心より興味が先に立ち、息も絶え絶えで神殿の前にヘタった男に近づく。

『そこな方……先刻、東の地でお見かけした方でございますな? 名のある御方とお見受けするが、何用にございましょう?』

 息を整えていた男は、神々しい女の声に勢い良く顔を上げた。

「「…………」」〈沈黙〉

(何とあっさり薄味平坦な顔……)〈エオス心の声〉
「何とメリハリのある目鼻立ちの美しい女人ひと……」〈オオナ漏れずる心の声〉

 普段、油絵のような顔立ちばかり見ていたエオスは、墨一筆でさらりと刷いたような顔立ちに目を見張った。

何故なにゆえここまで?」
「おれ……いや、我は東の国をべる御方につかえるオオナと申します。貴方様のあまりの美しさに矢も盾もたまらず、こうして追って参りました次第……」
「ま……!」

 眉唾なウソくさい話だが、あまりの美しさに追いかけて来たと言われて悪い気はしない。〈そこは女神なので怖いとか思わない〉
 周りの男と比べれば平坦な顔だし小柄だが、ムキムキ過ぎず引き締まった身体も悪くない。〈そこは某神話の女神なので目の付け所が違う〉

「とは言え、貴方様のご身分を証明するものはなく……ゴニョニョ……持久力は人並み外れておられるようですが……(色んな意味で)」
「持久力には(色んな意味で)自信がございます!」
「それが本当かどうかは……」
「ぜひ、お確かめくだされ(色んな意味で)」〈曇りなきまなこ
「ま……」〈必殺の半眼開き〉
「貴方様へのこの熱き想い、如何様いかようにも証明して見せましょう」
「……では、こちらへ……」

 差し出された手をうやうやしく取り、オオナは導かれるままついて行った。〈と言うか『大した持久力』は既に証明されているのだが、『これ以上、何を確かめるのか』と言う突っ込みはなかった〉

「君の名は……?」
エオス……」

 扉は二人の背後でパタリと閉じられた。

 いざ。〈何をだ〉

 すっかり夜も更けた。

 だらしないあられもない格好の二人がうっとりと見つめ合う。

「エオス……素敵だ(色んな意味で)。はっきりとした瞳も、くっきりとした二重も、暁の色合いを映した髪も全てが美しい……」
「オオナ……あなたこそ(同上)。セクシーな黒髪も、引き締まった身体も(胸毛も少ない)…………ああ、夕顔に爪を突っ立てたような目も愛おしい……」
「エオス……離れがたい……もうじき君は暁を届けるために行ってしまうのか……ずっとこうしていたい……」
「オオナ……わたくし今日から休暇よ……」
「素敵だ……! このままこうしていられるなんて……!」
「オオナ……!」
「エオス……!」

 ひしっと抱き合った二人は飽きもせずに夜が明けるまで(明けてからも)くんずほぐれつ……(以下自主規制)。

 ちなみに、エオスが言った『休暇』の仕組みはこうである。神々には管轄領域があり、エオスも担当領域に暁をもたらした後、次の地域の担当者に引き継ぐ。そうしてバトンを繋ぎ、この世のどこかが暁を迎えるようになっているのだが、時に突発的な事故(主に寝坊)が起きる。また、盆暮れには交代で休むために代行がある。
 つまり、東国担当者の代行だったエオスがたまたまオオナを見かけたのが事の始まりだった。

 二人は束の間の休暇アバンチュールを満喫した。まあ、部屋にこもっていただけだが。〈深読み箇所〉

 しかし、休暇バカンスにはいつか終わりが来る。

「エオス……君と過ごせるのも今宵が限り……この夏は永遠とわに我が心に」
「オオナ……わたくしも忘れないわ」
「エオス……!」
「オオナ……!」

 最後までくんずほぐれつ二人の休暇アバンチュールは終わった。

(オオナ……今まで出会った誰よりタフだった♡(色んな意味で))

 エオスはオオナが見えなくなるまで見送った。

(エオス……素晴らしいひとだった。我が妻に勝るとも劣らない(色んな意味で))

 ワリとクソな感傷に浸りながら国に帰り着いたオオナを迎えたのは、相棒からのお小言と奥方からの粛清フルボッコだった。

 その後オオナは、エオスが星空の神アストライオスとの間に神々を産んでいたとかいないとか、風の便りで聞いたとか聞かないとか……。



「……こうして、ひと夏の恋はふたりの夏物語になったのじゃ」

 老人は見事なアレンジで、子ども向けにふつくしく話をまとめた。

「さて、そろそろ帰らないと家族が心配するぞ」
「「「は~い」」」

 子らを見送ると、4人の若者が顔をおおっていた。それどころか1人は卓袱台ちゃぶだいに突っ伏している。

「どうした? 腹でも冷やしたか?」

 すると、若者たちの肩が小刻みに震え出した。

「いや、もう、ずっと笑いこらえてたんだよ」
「超ウケた……」

 4人は爆笑した。

「すげぇよ。昔話をあんなに美しく語れるなんて」
えつってたよな」

 涙を流して笑う若者に、老人が反論する。

「何を言う。彼女は本当に美しかった。わしを本当に愛してくれたし、わしも彼女が愛おしかった。添い遂げることは叶わなんだが、嘘はひとっつもついとらん」
「「「「知ってる!」」」」

 4人の声がハモった。

「今でも好きなの?」
「もちろんじゃ」〈そもそも嫌いになった女はいない〉

 そんな老人に、まいったと言うように4人が肩をすくめる。

冥利みょうりに尽きるな。じゃあ、予定通り行くか」
「ああ」
「何じゃ?」

 うなずき合う4人を老人が不思議そうに見た。

「母さんのトコに連れてく。久々に再会を楽しんでくれ」
「!」

 何を隠そう、彼らは風の上位神アネモイでエオスの息子たちだった。西風ゼフュロス南風ノトス北風ボレアスの父親は星空の神アストライオスだが、東風エウロスだけは違う。

 つまり、そう言うことだ。

「その前に擬態ぎたいけw」
「そもそも何でじーさんの格好してるんだw」
じーさんの父親なんていらんw」

 ニンマリと笑った老人は、突如、打って変わって若々しい姿へと変化へんげした。

「逢わなくて良い。遠くから彼女エオスの姿を見せてくれぬか」

 思い出は思い出のままに。

 オオナを連れた4人アネモイが遥か上空へと舞い上がる。

 永い歳月としつき、オオナはようやく西の最果ての暁を拝むに至った。

 ちなみに、このオオナこそ、大己貴命おおなむちのみことを始めとする数多あまたの異名を持ち、少名毘古那神すくなびこなのかみと共に国土経営に著しい功績を残した大国主命おおくにぬしのみことその人である。
 
 
 
 
 
~おしまい~
 
 
 

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朝っぱらからこんな話で申し訳ない🤣
しかもヘッダーのイメージ裏切り過ぎてるww

実は、現在の日本の最西端に於ける、2022年8月2日の日の出は 6時17分 なのだそうで、出来るだけ近づけようと目論んだ結果です(笑)
それだけwww

さて、ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございました❢ 

明日は笹塚心琴さんです❢
どうぞお楽しみに❢‎⁦‎⁦‪(嬉〃∀〃)ゞ

 
 
 
 
 

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