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塀の中の住人

リョウコの入院中の病院は
精神科

その中の人々が大広間にいる時
多くの人がいるはずなのに

一様に静かで動きが感じられない
動いているのに
動いてないように感じる

まるで置物のようだった

座っていろと言われたら
ずっと座っているような
感じ

動くときも
足が動いているだけで
それ以外は動いていない

顔の表情もない
どちらかというと
暗い

なぜだろうって不思議だった

そういうリョウコも
良く似た雰囲気を醸し出していた

静かで表情がなかった

クッキーを食べているときが
とてもやさしいいい顔していた
私が帰ろうとすると
少しだけさみしそうな表情を見せる

他の住人よりも
可愛かった

そこの住人になって長い人は
薬を長く飲んでいる

リョウコもそうだが
薬は興奮を抑える薬が多い
それは興奮を抑えるというより
感情を抑え込むようだ

感情

うれしい
喜び
ときめき
ワクワク感
そして
悲しみ
苦しみ

そういった感情がなくなる

だから静かだし
動いているけれど動いていないように感じるのは
エネルギーが動いていないからだと
わかった

こどもがいると
目につくのは
良く動くから、ももちろんだが
エネルギーが同時に動いているから
なにか伝わるものがある
気配がある

薬を長く飲んでいると
それがなくなるようだ

ひとは
感情があってこその生き物だと
その時分かった

当たり前じゃない
感情というもの

感情があって初めて
人なんだ

薬はその感情をなくす
つらいことやかなしいことが
わからなくなる
どうじに嬉しいこと幸せな気持ちも
なくなる

それって
一時的に良いかもしれないけれど
長期に飲むことで
本来のその人じゃなくなる

わたしは
おとなしいリョウコの横顔を見て

この子じゃなくなってしまうとしたら

あの、うるさいくらい
ワクワクドキドキをもとめる
コンサートばっかり言っていた
好きな男の子を追っかけていた
あのリョウコが
戻ってこないことがあるとしたら

恐ろしい

リョウコが退院しても

本来のこの子のほんとの人生がもう戻らないとしたら

そんな恐ろしいことがあるのか
私が奪ってしまったのかもしれない
この子の人生を私が
奪ったのかもしれないと思うと

恐ろしさに背筋が凍る

個々の住人たちは長いことここに住む

リョウコはこの住人じゃない

お家に帰らないといけない
一緒に連れて帰らないといけない

そして本当のリョウコに
戻らないといけない

一刻も早く

どうしたらいいのかわからないけれど
この子の人生を取り戻してあげなければ
と思った

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