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クッキー

病院内ではみんな何を食べてもよい
精神科入院中の皆さんは
薬のせいかどうかわからないが
とても良く食べる
そして
ぽっちゃりしている人が多い

売店に行ってみたことがあったが
頻繁に人が出入りする
そして、おやつがたくさん売られている
みんなおやつが大好きだ
甘いものから
ポテトチップス系
また
いつもカップ焼きそばを食べている人を
見かけたこともある

りょうこも
もともと若い女性ならほとんどがそうであるように
スイーツ好きだった

入院してから
閉鎖病棟に入っていたこともあり
また、
お金を渡していなかったこともあり
約1か月くらいは
出される食事以外は
何も食べていなかった

入院していることを
少なからず知っていた
知人の方から
お見舞いのクッキーをいただいたので 
そろそろいいかな、と思い
持って行った

りょうこは本当においしいと言って
とてもうれしそうに食べていた

でもあんまり食べられなかった
残りはまた明日ねと
残した

ほっそりした横顔だった

入院する前は
スイーツの食べ放題に毎週のように
友達と行っていた
ケーキを一度に15個とか
食べられるくらいの
大食いだった
高校時代にそれは始まった
演劇科というストレスの高い高校
憧れとは裏腹の
激しい特訓や
共同作業の毎日
なれないダンスや
演劇
初心者の不器用さを
勝気な同級生から
からかわれても
それでも元々いったんやりかけたことは
決して辞めない
粘り強性格さで
カバーしていたんだろう
勉強も必死でやっていた

皆と一緒が好きなリョウコ
皆の中で楽しくやりたいリョウコ
小学生の時に仲間外れにされ
いじめられたことがずっと残っていたんだろう

毎日毎日
気が休まることがない日々を
3年間過ごして来た

卒業と同時に全く何もしたくない
演劇に関係することは一切したくない
今は何をしたいとか全くない
と言い切り
何のために演劇科に行ったんだと
言い争いをした結局
私自身が
レールを引いたけれど

近くの女子大学があった
あまり勉強が得意ではなかった良子は
国立大学を受験することは途方もなく無理で
そこならいけると判断した私は
何の展望もなかったリョウコに
その大学を勧めたんだ

リョウコは特に何の抵抗も見せずに
大学に入学することができた

働くことも考えていなかった

食べ過ぎるなとよく言っていたけれど

激しいストレスに耐えるためには
それしかなかったんだ

りょうこにとって
あまいクッキーは
美味しいだけじゃなくて
ほっとするもの
安心感
安らぎ

それを食べすぎるなっていいすぎるのは
ちょっと違うんだ

リョウコの気持ちを私は何も
全くわかろうとしてなかった

ふと

私もリョウコの年頃
いつもいつも食べすぎていたこと思い出した

私もそうだったのか

愕然とした
自分のストレスの解消だったんだ
リョウコは私の写し鏡だったんだ

リョウコは身体を張って
私に見せてくれているのか

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