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眠れない夜

家までの車の4時間で
明らかにリョウコのようすが
おかしいことが分かった

ラインの返信がうまくできない
ちゃんと文章が書けない
全く意味が分からない言葉の羅列になっていた

また、寝ていないから眠いはずなのに寝ない
寝そうになると起きる、の繰り返しだった

うわごとのようになにかよくわからないことを
ずっと言っていたりする

コミュニケーションがほとんどとれない
食いしん坊のきょうこが
全く何も食べない

ようやく帰ってきて
何とか風呂には入ったが
ぼーっとしている
もしかしたら、風呂の入り方もわかってないようだった

おなかがすいているはずだが
少し食べてたと思ったら
すぐに動き出す
じっとしていない

あんなに食いしん坊なリョウコが
ほとんど食べずに
何かしようとする
じっとできない

そして夜

全く眠らない
一睡もしない

何か叫ぶ
騒ぐ
ずっと何かおしゃべりしていた

ふっと一瞬寝たと思ったら
5分するかしないかのうちに
目覚めて
そして歌を歌ったり
叫んだりしだす

最初はうるさいよ、というと
黙ったりもしていたが
そのうち、止められなくなってきた

そして全く寝ないのはつらい
私もほとんど眠れなかった

翌日は何とか家にいることができたが

その夜くらいからもっとひどくなり
叫ぶ声が大きく
言っていることが支離滅裂
誰かが殺しに来ると言ってものすごく怖がる
何度か窓から降りようともした

そして、お気に入りの緑のコートを着てきたかと思ったら
外に出てくる
どこに行くかわからない
死んでくる
といって
出かけようとした

私も一緒に散歩するからと付き合って
歩いた

歩いているときのリョウコは
おとなしくなっていたが
ぼーーっとしていた
おそらくねていないからだろう

いったい
リョウコの頭の中がどうなっているのかが
全く分からない

妄想の世界の中に入り切っていて
怖い夢の中で
怖いものに追いかけられていたり
恐怖につつまれていて
必死で逃げようとしているみたいだった
血や虫やらそんなものが襲ってくるような
そんなことをうわごとのように言っている
じっとできない
眠れない

私も怖かったが
リョウコはどんなにか恐ろしい世界にいたんだろうか

ほぼ一睡もせずに帰宅後2日目の夜が明けた

仕事だったが
朝から叫び声をあげることが止まらず
これは病院に行くしかないと
決めた

近くの有名な心療内科に行くことにした

叫び続けるリョウコを車に乗せて
急いでいったが
大声で叫びながら医院に入ったがその時点で
「当院では対応できません、精神科にいってください」
といわれる
そうかもしれない、ここはそんな人は一人もいなさそうだ

その前に小さな医院でも何とかなるんではないか
と思い、探した町の精神科
すぐに対応してくれたが
さっきの満員の診療内科とちがって
非常に静かだった
心療内科と精神科はここまで違うのか

医院にたどり着いたリョウコは
そこでは、思いのほか静かだった

あんなに騒いでいたのに
なぜかとても静かになった

診察に呼ばれた
診察室は
非常に静かだった
普段感じたことのない空間の雰囲気は
異様な静けさ
押し込められた空間という感じを受けた
空気の流れすらない
机の上には必要最低限のものしか置いていない
異次元の空間

自然の部屋とはある程度散らかっていて
どうでもいいものが
良くわからないところに置いてあったりするもんで
それが普通なんだと
その時感じた

自然の揺らぎのような
少しいらないものが入ってる
雑音が入っている
それが自然なんだと
その時感じた

その先生はリョウコに問診する
短めの質問をいくつか聞いた後

「おかあさん、精神科の病院を紹介します
すぐにでも入院しないといけません
典型的な統合失調症です
今から入院できるように紹介状を書きます」

やっぱり、と思った
やっぱり入院か
それにしても
統合失調症???

できれば入れたくなかったが
仕方ない

私は驚くほど冷静だった
今リョウコは静かだし
後は入院となれば
一安心だ
そうだ、眠れる

私は自分が眠れる、ということがうれしかったんだと思う

そして、界隈では有名な
精神病院に入院することになる
まさか
リョウコが
私の娘があの病院に入院することになるなんて

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