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はじめての万年筆を手に取る方へ

はじめての万年筆は何がおすすめか、という記事を少し前に書いたのですが、

  • そもそも万年筆って他の筆記具と何が違うの?と思っている

  • 万年筆が気になるけど、扱いが難しそうで手が出せない

  • はじめての万年筆を手に入れた(または、手に入れる予定がある)けど、使い方がよくわからない

という方向けに、万年筆について最初に知っておくとよさそうなことをざっくり書いてみます。
少し長いので、もう知ってるよ!という部分は読み飛ばしつつ、万年筆への入口として参考にしていだければ嬉しいです。


万年筆と他の筆記具の違いは?

私が思う大きな違いは以下です。

  • ペン先の機構によって文字が書ける

  • インクを入れて使う

  • 筆圧をかけずに軽い力で書ける

  • メンテナンスが必要

ひとつずつ書いていきます。


①万年筆のペン先

万年筆のペン先の金属部分は「ニブ」と呼ばれますが、今回はわかりやすく「ペン先」と記載します。
万年筆は毛細管現象を利用し、ペン先の細い溝を伝ってインクが紙の上に流れ出ることで文字が書ける筆記具です。
ペン先の素材や加工方法などによって、書き心地や書ける線に大きな違いが出てきます。

ペン先の種類

一般的に万年筆のペン先は、

  • 金でできたもの(通称金ペン)

  • ステンレスでできたもの(通称鉄ペン)

の2種類があります。
金ペンは紙に当たる感触が柔らかく、書き心地の良いものが多いですが、比較的高価。(日本製だと1万円以上、海外製だと2〜3万円以上の予算は必要)
鉄ペンは金ペンと比べるとペン先の硬さを感じる書き心地ですが、安価で1000円未満から買えます。
「万年筆は金ペンか鉄ペンかで書き心地が別物」と言われることもあり、それはある程度事実なのですが、どちらが好きかは人それぞれです。
可能なら文房具店でどちらも試筆してから検討してほしいのですが、それも最初はハードルが高いので、まずは鉄ペンで慣れてから金ペンを検討してみるのがいいかもしれません。

字幅

字幅、とは書ける線の太さのことで、アルファベットで表記されることが多いです。
モデルによって字幅のバリエーションは異なりますが、よくあるのは以下でしょうか。

  • EF(極細字)

  • F(細字)

  • M(太字)

万年筆によってはEFより細いUEFやFとMの中間くらいのMF、Mより太いBやBB、などがラインナップされていることもあります。
海外製と日本製の万年筆では、同じ字幅でも海外製のほうが線が太いことが多いです。(海外ではアルファベットなどの画数の少ない文字が多く、漢字のような線の多い細かい文字を書く需要が少ないため、と言われます)
また、日本製の万年筆でもメーカーやモデルが違うと、同じ字幅でも微妙に太さが異なります。
字幅に悩むときは試筆するのが確実ですが、SNSなどの写真付き投稿も参考になるので、気になる万年筆の名前で一度検索してみるのがおすすめ。
手帳などの細かい文字を書く用途で使いたいなら細めの字幅が向いていますが、字幅が太いほうが書くときにカリカリ感がなくてインクも出やすく、なめらかな書き心地を味わえます。
字幅は用途と好みで選んでみてください。

参考までに手持ちの万年筆の一部で比較。
メーカーやペン先の個体差、入れるインクによっても
実際の字幅は異なるので、字幅表記はあくまで目安です。

②万年筆とインク

前述の通り、万年筆はペン先からインクが流れ出ることで文字が書けます。
ボールペンの場合はメーカーや製品ごとに決まった替芯を買ってインクを補充しますが、万年筆には

  • 瓶インク

  • カートリッジインク

のどちらかが必要。
どちらを使うかは万年筆自体の仕様と使う人の好みを踏まえて決めることになります。

インク吸入方式

万年筆にインクを入れる方法は、大きく分けると以下の3つです。

  1. インクカートリッジを取り付ける

  2. コンバーターを使って瓶インクを吸入する

  3. 万年筆本体に直接インクを入れる

ほとんどの万年筆は1と2の方式に対応しています。
3ができるのは、「吸入式」や「アイドロッパー式」などの特殊な機構を持つ万年筆だけです。
もし気になっている万年筆があったり、既に手元に万年筆があったりする場合、その万年筆の製造メーカーとインク吸入方式をぜひ調べてみてください。
1,2に対応している万年筆の場合、
◎最低限で始めたい!
 →万年筆と同じメーカーのインクカートリッジを買えばOK
◎瓶インクを使いたい!
 →万年筆と同じメーカーのコンバーター+好きなインクを買えばOK
3の方式の万年筆の場合、好きな瓶インクを買うだけでOKです。
厳密にはこれだけではないのですが(メーカーが違っても使える規格のカートリッジがあったり、空きカートリッジにスポイトでインクを入れる方法があったり……)、気になる方は調べてみてください。
1はいちばん簡単で手や万年筆が汚れにくく瓶インクが不要、2,3は使えるインクの幅が大きく広がることがメリット。

インクの選び方

基本的に好きなインクを選べばいいのですが、知っておいたほうがいいことは以下です。

  • メーカーは基本的に自社製インクを推奨している

  • ラメ入りや香り付き、強くフラッシュするなどの特殊インクは万年筆には不向き

  • 薄い色のインクも万年筆では発色しづらいことがある

こちらもひとつずつ説明します。

◆メーカーは基本的に自社製インクを推奨している
メーカーは自社製のインクを売りたいから、というだけではありません。
各社の万年筆は、基本的に自社製のインクを基準にインクフロー(インクの出やすさ)や字幅を調整して作られているので、インクの粘度や成分が異なる他社製インクを入れた場合、使い心地も異なってくるのです。
他社製だと書けない、ということはまずありませんが、メーカーによっては他社製のインクを入れた万年筆は保証対象外になることも。
個人的には、「初めて使う万年筆に最初に入れるインク」は万年筆本体と同じメーカーのインク(純正インク)がおすすめ。
もし調子が悪いとき、インクとの相性が悪い、という可能性を考えなくてよいためです。
2回目以降も純正インクにこだわるかどうかは人それぞれで、私は金ペンには純正インク、鉄ペンにはメーカーを気にせず色んなインクを入れていることが多いです。

◆ラメ入りや香り付き、強くフラッシュするなどの特殊インクは万年筆には不向き

各社からたくさんの素敵なインクが発売されている中、「インクを使いたい」という理由で万年筆デビューを考えている方もいると思います。
気になっているインクや既に持っているインクがある場合、そのインクが特殊インクでないかは要注意です。
ラメ入りインクはラメが詰まる可能性がありますし、香り付きやフラッシュの強いインクも通常のインクと成分が異なるため、インクが出にくかったり固まりやすかったりすることがあります。
特殊インクはメーカー側で「万年筆には入れないで」という注意書き表示があることもありますが、表示がなくても大切な万年筆には入れないほうが安心。
安価な万年筆や太字の万年筆・洗いやすい万年筆などで特殊インクを楽しんでいる人もいますが、あくまで自己責任です!

◆薄い色のインクも万年筆では発色しづらいことがある
初めて万年筆を買う場合、手帳やメモなどに使いやすいEFやFの字幅を選ぶ方も多いと思います。
特に国産万年筆のEFやFはかなり細いので、淡い色のインクを入れると予想以上に色がわかりづらく、インクを楽しめないことがあります。
また、例えばセーラーの「ゆらめくインク」のような、紙質や時間経過によって色味が変わったり、水でぼかすと元のインクと異なる色が現れたりするインクがあります。(遊色インクや揺色インクなどとも呼ばれます)
私も大好きなのですが、ゆらぎ系インクも細字の万年筆だと発色しづらかったり、インクがペン先に弾かれて出にくかったりすることがあります。
薄い色やゆらぎ系のインクはガラスペンやつけペンで楽しむか、太字や特殊ペン先の万年筆を使うのがおすすめ。(いつか別の機会に紹介します)
ちなみに私は万年筆を始めたての頃、何も知らずに買ったばかりのTWSBI ECOにゆらぎ系インクを入れ、次に香り付きインクを入れ、どちらもインクフローが悪く無意識に筆圧をかけてしまい、首軸にヒビが入って一度修理に出しました……。

色々と書きましたが、特に使うインクが決まっていないならメーカー純正のインクを買うのが間違いないです。
純正インクが手に入りにくかったり好みの色がなかったりする場合、個人的には国内メーカー(パイロット、セーラー、プラチナ)のインクがおすすめ。
傾向として国産インクは粘度が低く、どの万年筆に入れても比較的フローが安定するためです。
特にパイロットの色彩雫やセーラーの四季織シリーズは種類も多いので、お気に入りの色を探してみてください。


③万年筆の書き方・持ち方

万年筆は他の筆記具と違い、正しい持ち方・書き方をしないとそもそもインクが出ません。

万年筆はペン先の金属の部分(刻印などが入った部分)が上に来るように持ち、ペン先を傾けて紙に当てます。
紙に当てる角度は45°〜60°くらいと言われますが、インクが出やすい角度も万年筆の個体差によって異なるので、使いながら書きやすい角度を探っていきましょう。
紙に当てたら手の力を抜いて、紙の上にペン先を滑らせるようにして書いていきます。
ペン先と紙が触れるだけでインクが出るので、筆圧はかけずに書きます。
慣れるまで書きづらいかもしれませんが、書く人が使い慣れていくことと万年筆にインクが馴染んでいくことで使うほどに書きやすくなっていく、というのも万年筆の魅力のひとつなので、ぜひ楽しんでみてください。

ちなみにパイロットのカクノやラミーのサファリなど、エントリー万年筆にはグリップ部分に握り方の目安になる凹みがあり、自然に正しい向きで握りやすく作られているので、持ち方がわからない方にはおすすめ。
持ち方にこだわりのある方や左利きの方は上記のタイプは逆に使いづらい、という話も聞くので、その場合は最近セーラーから発売されたTUZU(ペン先とグリップを回して、自分の持ちやすい角度でペン先が紙に当たるように調整できる)や、各社から発売されている左利き用の万年筆などもチェックしてみてください。


④万年筆のメンテナンス

万年筆はお手入れが面倒、という印象がある方も多いのではないでしょうか。
他の筆記具より面倒なことは事実なのですが、覚えてしまえば難しい作業ではありません。
ひとまず3つのポイントをお伝えさせてください。

日々使ってみる

万年筆はペン先が空気に触れる構造上、ペン先周辺のインクが乾いて固まるとインクが出なくなってしまいます。
使うことでペン先周辺のインクが動き、固まることを防げるので、「線一本書くだけでもいいので毎日使うのがベスト」と言われます。
個人的には毎日でなくても、数日〜週に一度くらいは使うようにするとインクが乾きづらいです。
もし乾いてしまった場合でも、短期間であればペン先を軽く水で濡らすだけで復活することも多いので、慌てて筆圧をかけたり振ったりはせずに対応してみてください。

そんなに使えない!乾いてしまいそうで不安!という方は、プラチナ万年筆製のモデルをぜひ調べてみてください。
スリップシール機構という気密性の高い機構が使われているモデルは、1年以上もインクの乾燥を防いでくれるそうです。
なんと最安値のプレピーにもこの機構が搭載されているので、たまにしか使わないかもしれないけど気軽に万年筆を試してみたい!という方は、ぜひプレピーを候補に。

定期的に洗浄

誰でも簡単にできる上にそこそこ多くの不調を解決できる、最強のメンテナンスが洗浄。
といっても単なる水洗いです。

まず、今入っている(または使い切った)インクとは別のインクを入れる場合には、一度洗浄するのがおすすめ。
異なるインクが混ざると本来の色と変わってしまうことに加えて、成分が変わって万年筆自体のトラブルにもつながる可能性もあるためです。
(似た色なら混ざっても気にしない、とか同メーカーなら成分も似てるだろう、とかで洗わず使う方もいますが、自己責任です!)
また、インクがかすれる・出ないなどのトラブルが起きたときも一旦洗浄してみましょう。

いちばん簡単な洗浄方法は、

  1. プラスチックカップなどに水を入れる

  2. コンバーターで水を出し入れする

  3. 何度か水を替えて繰り返す

  4. 水に色がつかなくなったら、余計な水分を拭き取って乾かす

でOKです。
コンバーターがない場合や長期間使わずにインクが固着してしまっている場合は、ペン先部分を胴から外し、カートリッジやコンバーターも外して水に漬けましょう。
数時間〜1日ほど置いておくとだいたいインクが落ちます。

時にはプロに相談

自分で調べてみても解決方法がわからないトラブルは、万年筆のプロに相談してみましょう。

まず、購入直後なのにどう頑張ってもインクが出ない、落としたりぶつけたりしてペン先が曲がってしまった、などなど、明らかな不調や故障に遭遇したとき。
実店舗で買った場合も通販で買った場合も、まずは購入元へ連絡してみると、多くの場合はメーカーの修理窓口へつなぐなどの対応をしてくれます。
初期不良の場合は無償で交換や修理をしてもらえることもありますし、有償修理の場合でも先に金額目安を教えてもらって修理してもらうか判断する、などもできるので、ひとまず購入元のお店に連絡してみてください。

明らかな故障ではないけどなんとなく書きづらい、という場合もあると思います。
それなりの頻度で書いてみて、時々洗って、ある程度の期間使い込んでみて、それでもなんだか書き心地がいまいち、というとき。
その場合は、専門の技術を持った方にペン先を調整してもらいましょう。
大きめの文房具店などでは「ペンクリニック」というイベントが定期的に開催されますので、お近くでペンクリニックの機会がある方はそこに持ち込んで相談してみるのが簡単。
(担当者やイベントによってはメーカー限定だったり鉄ペンが対象外だったりするので要注意。自社製品でなくても洗浄と相談くらいは対応してくれることが多いようです)
近場では調整してもらえる機会がなさそう、という場合も、郵送で調整してくれる専門店などもあるので調べてみてください。


おわりに

万年筆の基礎知識、だいたい伝わったでしょうか。
やっぱり万年筆って面倒くさそう!と思わせてしまったかもしれませんが、万年筆の魅力にはまってしまえば手がかかる部分もだんだん楽しくなってくるので、あまり気負わず試してみてもらえたら嬉しいです。
そして、万年筆に興味が出てきた!どんな万年筆を買おうかな?という方は、よかったらこちらの記事もどうぞ。

読んでいただきありがとうございました!

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