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第2話 振り回されるタカシと、頼り頼られ表裏一体。

この回のあらすじ…

 大学二年のタカシは、学内でいろいろ頼まれごとが多く、あちらこちらに引っ張りだこ。部活の手伝いを頼まれたタカシは、ヘルプ要員で仲たがいをしている双方の部活に誘われることも…そんなタカシの、苦労をマスターに相談するようです。


「はぁぁ。」
「おやおや。タカシくん。お疲れのようだね。」
「マスター……最近。大学で頼まれごとが多くて……」
「おやおや。それは、うれしいこと。じゃないのかね?」
 頼まれごとは、それだけタカシのことを信頼しているということの裏返しでもある。しかし、本人はどうやら肩をガックリと肩を落として、少しもうれしそうではない。そんなタカシを見たサヤカはというと…
「あんたは、八方美人過ぎるのよ。」
「はぁ? 八方美人になったつもりはないけどなぁ~頼まれたからやっただけで…」
「それが、八方美人なのよ。もぅ。あんたは、断ることを知らないからね。時には断ることも大切よ?」
「だって…みんな頼ってくれて……」
「そんなところが、八方美人なのよ…」
 サヤカとタカシは、二人で悶々と考えこんでいるところに、マスターが助け舟を出す。それは、マスターならではの考え方と方法だった。

「ふふふっ。タカシくんは八方美人だね。」
「マスターまで……はぁ。」
「ふふっ。そのくらい信頼をもらっているということだよ。なかなか得難いがね。」
「それは……いいんですけど……」
 頼み事に限らず、事柄すべてには‘表裏一体’という言葉がついて回る。それを知っていたマスターは、思い悩んでしまうタカシに助言をすることに…
「時に相反する部活から頼まれることもあるんじゃないのかね?」
「そうなんですよ…仕舞には…どっちにつくんだよ!って言われるし……」
「ふふふっ。そうなるだろうねぇ。」
「もう、どうしたらいいんだよぉ……」
 頭を抱えて悩むさまは、まるで二股をかけてしまい、自分で袋小路に入り込んでしまったやらかした様子を見ているよう。
『結論から言えば、‘どちらつかず’といった態度を取りやすいんだろう。タカシくんは』
『モテやすいとも言えなくもないが…まぁ。彼らしい。ふふっ』
 タカシはカフェでのバイト姿も立派で、マスターが頼み込んだことをつつがなくこなしてしまう。良くも悪くもできすぎ君だった。

「タカシくんは、なんでもこなせてしまうからね。重宝されるんだよ。」
「そうなんですけど…もう、ひっぱりだこで…」
「断ることをしないもの。はぁ。」
「そんなこと言ったって……」
 終始、埒の開かないやり取りが続き、どうしても会話も堂々巡りを続ける。そんな二人にマスターが助け舟を出す。
「まぁ。八方美人という言葉自体は、聞こえがいいし。私やタカシくんのような男性よりも、サヤカくんのような女性に向いているような言葉なんだけど。」
「そんなぁ…マスター上手ですね。」
「いやいや。頼まれることなら、自分でやってあげたいのはわかる。でも、その手に抱えれるものを越えてしまうときもある。」
 マスターの説明を聞きながら、タカシやサヤカは自分の手を眺める。意外と大きな手だったり、華奢で細いものの、柔らかな肌触りだったりといろいろな形がある。そのすべてに共通してあるのは‘限り’があるということ…
「そう…ですね。」
「えぇ。」
「私の手には、タカシくんとサヤカくんで十分なのさ。こうして手もつなげるからね。」
 そういうと、マスターは二人の手を握る。ゴツゴツとした年季の入った手は、サヤカの手はもちろんのこと、タカシの手とも違う、ザラザラとした感触を二人に伝えていた。

「こうして、両手につなげて携えて置けるものって。意外と少ないのかもしれないね。」
「です…ね。俺ももう少し、断る努力を持ってみます。」
「だね。タカシくんは、皆に信頼はあるようだし。抱え込み過ぎないようにすれば、それでいいと思うよ。」
「わかりました。」
 晴れ晴れとした気持ちになったタカシに、安定のツッコミが入る…
「そうそう、二股かけてから泣きつかれても、困るし…」
「おうっ。サヤカくんは…意外と…ふふっ」
「あっ……てへっ」
 こうして、ひだまりカフェの日常は過ぎていったのだった。

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