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薪能(はじめてのお能)

昨年末ごろ、能と現代音楽を混ぜたノペラ(能×オペラ)なるものをみて、結構びっくりして、本当の能を見てみたいなと思っていた。

だけど、なかなか敷居が高いし、どれを見たらいいかわからない。
と思っていたところ、手ごろな値段で薪能を見る機会があった。

狂言の附子と、能は羽衣というドメジャー。
初心者向け。

夕闇迫る舞台を眺めていました。

とにかく、いまいち予備知識がないので、全然わからなかったらどうしようって思っていたんだけど、最初にちらっと解説が入る。

で、最初は狂言。

この話はある程度知っていたけれど、実際に見てもちゃんと笑えました。
古語なのに。
室町言葉なのに。

(最初の解説の時、「おとがいがおつるような」と言わされた。リピートアフターミー、おとがいがおつるような「この室町言葉も覚えて帰っていただければと思います!」)

話しとしては、主人が大事に隠していた飴を「この風下にたっただけで死ぬくらいの毒!猛毒!」といって召使に預ける。いまいち納得しない召使たちは「どうしてご主人は死なないんですか?」「この毒(ブス)は主人思いだから!」と言いくるめて、出かけてしまう。
気になる二人の召使、太郎冠者と次郎冠者は、「風下に立ったら死ぬって事は、あれか。あおいで近寄ればいけんじゃない?」「まじでか!頭いい!」という感じで扇であおいで紐を時、ふたを外し、中を見て……。
「なんかうまそうなものがはいってる気がする」「は?」「いやいやマジでマジで」「いやいやいやいや」みたいな感じで、結局その飴を全部食べちゃって…という流れになるのだけれど。
これがあの独特な謡というか、古語そのまんまの言い回しなのに、ちゃんとわかるんですよねえ。

半分パントマイム、音楽もなしの、ショートコントに近いのかも。

で、狂言がそこそこ観れた(つまり、観て楽しめるだけの力が私にもあったという意味です)ので、能も楽しみになった。

のだけど、なにせ屋外なので、寒くて寒くて。
周りは年齢層高めなので、「早く松明に火を入れてほしいわ」ぐらい言われていた。
わたしも念のために持って行ったストールを全力で身体中に巻き付けていました。ミノムシ。

そして陽も落ちて、かがり火がともされました。

雰囲気が出てきました。

正直、寒くてそれどころじゃないんだけど。

能も、最初に少し解説が入ります。若手が解説。プログラムを見ると、名前だけじゃなくて何年生まれで、誰の長男(もしくは次男)で、誰に師事したかが書かれている。
うん、この世界、強烈に狭いよね。もう濃密が上に濃密になっているよね。
しかし、これをキープしてこそ伝統芸能なのかもしれない。ただ新しいものを取り入れればいいというものでもないのだろう。
がしかし、この世界の内側の人間になったら、ものすごく息苦しさはあるんじゃないかなーって思った。
ひとりだけ女能楽師もいたけれど、やはり誰々の長女という肩書だった。
年末に見た女能楽師は、縁もゆかりもないのに能を大学で専攻した異端も異端な存在だったと言っていたけれど、確かにそうだろうなとプログラムを見ていて実感した。

で、はじめてのお能。

本当に初めてみた。NHKで流れているのを見る事はあっても、ちゃんと見ていないから観た内には入らないと思う。

とにかくですね、パーカッション隊の押しの強さ!
トン…かぽん、カ―――ン!!いよぉぉおお――――――……
あのカ――――ンは大鼓(おおつづみ)だそうで。
ポン、は鼓(つづみ)、ばちでたたくのが太鼓。

ジャバザハットみたいな大鼓のおじいちゃんが、なんかうなりながらセンターです。

そしてコーラス隊。地謡というそうです。
でもコーラス隊は端っこで、パーカッション(囃子方)の存在感すごい。
センターでカ――――ン!!!

そうこうしているうちに、登場人物が出てきます。
今回は、最初に天女の羽衣を拾う漁師が出てくる。
一番最初に衣を欄干みたいなところにかけていくのだけど、それを「松の木にすごいものがある」みたいな事を言ってて、よくよく見たらそこには確かに松の木が置いてある!
家庭用クリスマスツリーかと思ってたよ!なんとなく雰囲気作りにおいてあるものかと思ったら、違ったんだね!

「いいもの見つけた、持って帰って家宝にしよう」といっていると、どこからか唸り声が。

いや、唸り声じゃなくて、天女でした。

どうみても、中身おじいちゃん。
見るからにおじいちゃん。
おじいちゃんが女の面つけて、しずしず歩ている。

でも、どう見ても若い女に見えないよーーと頭を抱えたのは最初だけだった。

それが徐々に違和感がなくなって、舞の時には能面がほのかに微笑んでいるかのように見えてくるんですよ!!
動きで嬉しさを表現というには、たまに地団太を踏んだり袖をくるっとするくらいでバレエみたいに飛んだり跳ねたりしてくれないから、ハッピーでファンタジー☆みたいな感じはないんだけど、硬い能面がほんとに動いているみたいに見える瞬間があって。

ひーー、世阿弥恐るべし。

全体の雰囲気でいくと、なんというか、幽玄といえば聞こえはいいけど、無駄にシリアスにしているような感じがした。
この感じ、なんとなく、どこかで知ってる。
そう、中二病っぽいのです。

この前見た葵上も「六条御息所という高貴な身分の女性が恋の嫉妬に身をやつして怨霊となるのを鎮める闇の戦い」で、よくよく聞いてるとメンヘラがストーカー化したのをもののあわれといって愛おしむという内容で、えっとちょっと待ってメンヘラストーカーとの戦いをここまで美化するの?と大変驚いたのだけど、能の世界観が中二病的傾向があると思えば、断然わかる話です。

小劇場でやってる謎の前衛芸術演劇の、やたら生きる事に苦しむ主人公の話とかと、方向性は似ている!

断然、能がわかりやすくなってきましたよ!(非常に偏った解釈です)

だからこそ、お笑い要素(狂言)とセットなんでしょうね。

舞台芸術としても、大道具を駆使しまくる歌舞伎とは違い、パントマイム的な大胆な省略を基本とするようなので、見る側にもある程度共通認識とか前提となる知識がないとダメっていうところで、ハードルが上がっているのかもしれないけれど、方向としては物事をやたらシリアスに演出したがる前衛演劇と同じ枠で見ると、わかります。
しかし、室町時代に始まったものが前衛演劇ってねえ。どういうこった。

ひとしき高まるパーカッションと盛大なコーラスにのせて天女は舞い、なんか満足したみたいなことを言ってするすると帰ってしまう。
で、演者もみんな、終わった終わったみたいな感じで帰ってしまう。

は、拍手、どこですればいいの!?

こっちは初心者なんだから、ここで終わり!みたいなサイン出して!お願い出して!わからないから!!
クラシック音楽の最後まで聞いたら拍手スタイルなのか、もっとカジュアルなライブなんかのちょっとカッコいいと思ったら拍手でいいのか、よくわかんないよーーー(;^ω^)!!!

くそう、今度は見る側のプロも多い能楽堂で観るしかないか。(チケット高い)


月が出ていましたし、鳥も飛ぶし、飛行機も見える。ガラのわるい車の変な爆音も聞こえたりする。それもまた面白いなあと思った。
ただ、寒すぎました。あったかいおそばが食べたいと思ったけど、駅ナカのお蕎麦屋さん閉まってる!すごすごと帰りました。


つよく生きていきたい。