女の起業と夫の理解という様式美

区や信金などが開催している起業セミナーに行った人が、あきれた様子で話していた。
「女性の起業で当事者が話しているんだけど、どこも『夫の理解』が上手くいった最大の理由とされているんです!」「つまり結婚しないとはじまらない!」

それをネタに話している我々は未婚女性である。

私は結局派遣社員などをした後に個人事業主⇒法人成りとしてしまったし、彼女も似たような感じで、かといってスーパー有名起業家の周辺にいるという感じでもなく、一個人で走り回っている感じです。

さて、我々、それぞれ完全に別なのだけど、それぞれに融資というものに取り組んでいる。
その過程であまりにいろんな出来事にぶつかってそれだけで来年の「ひとり株主総会」ができそうだけど、創業融資を受けようという彼女のところには様々なセミナーで見たとんでもない人たちの様子がたくさんあって、最近はその話を聞くのが楽しみでさえある……

金融機関にとって女性の起業は「女の手内職」「お遊びの延長」というイメージでしかないのだ。

だからセミナーで講演する女性たちもそろって「夫の理解があってできています」と・・・それが間違いのない答えとわかっているから。空気よめてるから。

そうなると、ホントに私たち未婚女性は「理解ある夫」を探すところから始めないといけない。

しかし。

自分が起業するために理解ある夫を選んで結婚するって、なんでそんな遠回りする必要があるのだろうか?

結論はもうでている。
ない。そんな必要はない。
結婚をしないと女には人権がないという時代はもう終わったのだ。
先人たちがそれを我々に与えてくれた。

大体、夫の理解って、なんなのだろう。
と、未婚の私は思う。
夫の顔色をうかがって、やりたいこともやらず、子供を押さえつけ、ただ働くだけの日々があることもよくわかる。
でもなんで、結婚前まで自分で決めて自分で動いていたものを、夫にいちいちお伺いを立て「ご理解を賜わる」必要がでてくるのだろう?

それがパートナーシップというものなのか?
家庭を運営していく上で重要な条件なのか?共有の財産(お金や家などの場所、二人の時間、家族の時間)の一部を使うという事になるなら調整は必要だけれど…

それとも、とりあえず「ご理解を賜わる」という様式美に則っているだけなのだろうか?

よく夫が転職をしようとすると嫁がそれを嫌がって阻止する嫁ブロックなんていう言葉を見かけるけれど、嫁の立場は常に夫ウォール(wall・壁)があるのが前提ってことだろうか。夫は壁によって妻子を守っているのだ!
だから壁にお伺いを立て、ご理解を賜わって、守るためにある壁を一部壊してまでドアをつけて頂く。
これが女の起業のあるべき姿とされているふしは往々にして感じられる。

実際にはそんな事ないんですけどね。

様式美を大切にしないといけないのが、ある種のルールというか。
型破りというのは型があってこその型破りです。
型を重要視しなければ型破りという手法は意味がない。
だから「夫の理解を得て小さく始めた商売が大人気」という、男のプライドを傷つけない素敵な様式が、女の起業に求められている。

でもそれを求めているのは、国内の狭い狭い場所、区とか信金とか、そういう場所のみ。

(ただ、私たちはそこからお金をお借りしようという事で、彼らの想定内の人間であり想定内のビジネスをしていると納得して頂かないといけない)

バカにされているなあと思う事もあれば、実力より低くみられるという安心感もあったりする。「わたくしなどとてもとても…先輩方に比べたらお恥ずかしい限りです」と言っていられる優しい世界。

だけど、ほんとにそんな狭い世界でうまく立ち回れることだけに注力してしまうなんて、恐ろしい事です。
これって、区でこうなら、都もそうでしょ。
国だってそういうことでしょ(全部じゃないにせよ)。
そりゃ廃れるわ。

ちなみに、今まで夫の理解という言葉は育児に関してよく使われてた気がする。それがいまでは、参加しない夫は父にあらずだし、参加したら「当事者意識のない参加という考え方が根本的におかしい」という事実に突き当たっている。
やっとそこまでこれた、ということかもしれない。

じゃあ、女の起業は?
まだ「夫の理解」レベルだ。

こういうところに、かつて準市民だった女性の地位の低さが脈々と残っているんだなあと感じるのです。

それに対して声高に戦う必要はないのです。今はそれに「違和感を覚える」と発信することで十分意味があります。
かつて本当に女性が選挙権を得るために払った犠牲のほどを思えば。

でもね。ほんとに目の前の男性が自分の想定外の女だと気付いて引いた表情をするのを見るのって、心が痛む。別に傷つけようと思ってるんじゃないのに、自分の想定外の事をされたというだけで傷つくなんて。
(という事に20代の頃はとても悩んだ。私は見た目はとても控えめ風なのでどうも中身とギャップがひどかったらしい。ひざ丈の白いスカートをはいて黙ってにっこり笑うだけでちょっと気の弱そうな男子などは入れ食いであった)
もはやモテなどというフィールドで戦う気はないけれど、それ以外のバトルフィールドでさえ、いまだに「控えめで清楚で男を立てる女」像が圧倒的に有効という事実に、唖然とする事が増えた……

それが有効な技なら有効に使わせていただきますが(比較的得意でもあるし)、この技だけで勝ち続けるという事自体がジリ貧になる諸刃の剣だ。
狭い世界の、狭い人種に有効な技で勝ち残ろうというのは、すべてをダメにする。
ダメにするんだけど、とりあえず今はここを突破しなくてはいけない。


ちなみに。
別に結婚とかしないで起業すると、女の起業というのは自分で女であることを売りにしていかなければ全然ジェンダーレスです。
ただ、やはり女性目線ではじめて女性に人気のある商品になるケースは当然多いので、外から見ると「女の会社」という感じにはなるかなあ。

そうやってジェンダーレスで戦ってここまで実績を積み重ねてきたのに、突然「女性起業家」と持ち上げられると、強烈に違和感を感じます。

あっ、わたし女だったんだっけ!

みたいな。

別に女の幸せのための商品を売っているわけじゃなくて、単純に作っているものが女性が理解しやすい文脈で、男性が理解しにくい文脈にあるというだけの話なんだけど。

ただお店や取引先にしてみると、「女性に大人気」とわかる方が売り場作りやすいとか、客層に合わせて仕入れの数を決められるという指針にはなるので、女だからどうという事は全然ないです。


それにしても、夫の理解を得なければ女の起業はうまくいかないよね、という文脈がこれほど重宝されているという事に、結婚に頼らずビジネスを動かし始めた私は結構ショックを受けているし、結婚しないでビジネスを立ち上げてうまくいっている女子たちやビジネスうまくいって離婚した女子たちの事をどう思っているのかちょっと聞きたくなったし、そういう男のサポート抜きでビジネスうまくいっている女子の事は嫌われているんだろうなと感じるオーラがあって、すごく切ないなーと思う次第でございます。


夫の理解も、理解ある夫も得られなかった女子の持つすべての才能や能力を潰してかかろうとする旧態依然とした仕組みに殺される才能が少しでも減りますように!!!

そして、訳が分かっていないせいで、女子との関係がダメになって傷つく男子も減りますように。

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