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コロナの濃厚接触認定者になった話②

コロナの濃厚接触認定者になった話① の続き

登場人物
コロナ感染者 Aさん
濃厚接触認定者 私
保健所の女性 保Bさん
保健所の男性 保Cさん
運転手 運転手さん
看護師 看護師さん
医師 先生

PCR検査をする

 新型コロナウイルス感染症の陽性者は、10日間外に出ることができないのに対し、濃厚接触認定者は仮にPCR検査をして陰性だったとしても、最後に陽性者と接した日から14日間は外に出られないらしい。

 自治体によって、基準は細かく違うみたいだが、私の住んでいるところはそうだった。

 Aさんに保健所から連絡が来ることを知らされてから30分くらいして、電話が鳴った。穏やかでとても丁寧な対応をしてくれる女性(保Bとする)だった。

 濃厚接触者に認定されたので、特に体調に異変がなくても今後14日間自宅待機して欲しいということ、基礎疾患があるのでちょっとでも異変があれば知らせて欲しいことなどの説明があった。

保B「今、体調はいかがですか?」
祐香「先ほどから少し倦怠感があります」
保B「倦怠感! どこがどんな感じですか?」
祐香「最初は腕全体が重くだるい感じがしてきて、今は脚も全体的に重くてだるいです」
保B「では、PCR検査受けた方がいいですね。今近くの病院を探します。ちなみに運転できる車はお持ちですか?」
祐香「いえ、ないです」
保B「わかりました。では病院が決まりましたらまた電話しますので、少しお待ちください」
祐香「ありがとうございます」

 Aさんに保健所から連絡が来ることを聞いてから実際電話が来るまでの30分の間に、倦怠感が出てきたので素直に伝えた。正直、腕が重くなってきたときにこれはやばいなと思った。でも、一昨日は一睡もできなくて、昨日から今日にかけても3時間くらいしか眠れていない。だから、睡眠不足のせいかもしれない。

 どっちにしても、今の段階で一度PCR検査ができるならした方が良いと思った。もし陽性だった場合も早い対応ができるし。

 それから10分くらい経ち、また保健所から電話がきた。今度は違う男性(保Cとする)だった。

保C「〇〇クリニックというところに行ってもらいます。16時半と17時に予約できるけど、どっちにします?」
祐香「どっちでもいいですけど、もう今すぐにでも行ける準備はできています」
保C「うんうん、じゃあ余裕を持って17時がいいかな。予約してまた電話するんで」
祐香「ちなみに〇〇クリニックってどこにあるんですか?」
保C「ん-と、どこだったかな。あ、住所は××ですね」

 保Bさんは、とても丁寧な話し方でいろいろと判断も早く仕事ができそうな感じだったが、保Cさんはなぜかちょいちょいタメ口だった。だいたい今すぐにでも行ける準備ができていると言ったのに、なんで余裕を持って17時なんだ。そんなことを考えていたら、また電話が来た。

保C「あ、保健所の保Cですけど。17時に予約とれました。で、16時45分くらいに△△交通の車が迎えに行くので、それに乗って行ってください。えーとね、PCR検査の費用は無料だけど、診察料はかかるのでお金を用意していってください」
祐香「わかりました。いくらくらい持って行けばいいですか?」
保C「数千円で大丈夫です」
祐香「数千円…わかりました(その数の部分がだいたいどのくらいか知りたいんだけど)」
保C「あと、唾液で検査するので今からの飲食は控えて欲しいそうです」
祐香「わかりました。あ、保Bさんとはあとで話すことはできすか?」
保C「なんでですか?」
祐香「濃厚接触者が14日間の自宅待機というのは聞いたんですけど、PCR検査をした場合は、陰性のとき、陽性のときそれぞれどうなるのかを聞きたかったので」
保C「はいはい、今このまま話していいです?」
祐香「え? ああ、保Cさんが教えてくれるんですね。はい、お願いします」
保C「PCR検査して陰性だった場合も、陽性者と最後に接触してから14日間は変わらずで、陽性だった場合はその日から10日間ですね。状況によってホテルか入院か、判断するって感じです」
祐香「わかりました、ありがとうございます。じゃ、とりあえず車来るの待ちます」
保C「はーい、よろしくお願いします」

 保Cさんのなれなれしさは気になったけど、まあ車の手配もしてくれたとのことで良かった。〇〇クリニックは歩くと20分くらいかかるので微妙だなと思っていたが、車なら楽だ。ちょうど何か食べようと思っていたくらいの時間で、このあともしばらく飲食ができないというのはつらかったが仕方ない。

 その後すぐ車の運転手さんから直接電話がきた。

運転「△△からお迎えにあがります運転手です、よろしくお願いします。16時45分にマンションの前に伺います」
祐香「ありがとうございます。では時間になったら外にいきます」
運転「よろしくお願いします」

 時間になって外に出ると黒いミニバンが停まっていた。キレイに洗車されていて、中も広くてとても清潔感のある車だった。窓には番号の書かれたステッカーが貼ってある。何番の車がどこどこに迎えに行く、という感じで動いているのかもしれない。

 運転席と後部座席の間は、テーブルクロスなどにも使われるような厚手の透明なビニールシートで仕切られていた。黒いビニールテープが隙間を埋めるようにきっちりと貼られている。そのせいで、運転手さんが何か言っているけど全然聞こえない。たぶん、今から向かいます的なことを言っていたのだろう。出発する直前にスマホで何かをしていた。出発することをどこかに報告しているのだと思う。

 座席も足元もすべてビニールで覆われており、窓は4ヵ所とも上15センチくらい開けられていて涼しい風が入ってきた。広い車内に新車のようなビニールで覆われた座席、涼しくて快適な空間、自動で開くドア。なんだかお偉いさんになったような気分だった。

 運転手さんはマスクと手術用の手袋をしていて、作業着のような服を着ていた。運転席と助手席の間の床には、すべて種類の違うサージカルマスクの箱が4つ置かれていた。

 5分くらいで病院専用の駐車場に到着した。運転手さんは外に出ると、またスマホで何か作業をしていて、そのあと電話をし始めた。よく聞こえなかったけど、病院にしていると思われた。その後、私が座っている逆側の窓を大きく開けると、外から話しかけてきた。

運転「前の人が押しているみたいなんで、終わるまで少し車内で待っていてください。来ていいと言われたら、私と一緒に行きましょう」
祐香「わかりました」

 一緒にいくんだ。ソーシャルディスタンスに気をつけなければならない。

 17時を少し過ぎた頃に、運転手さんから「行きましょう」と言われ、外に出た。2メートルくらいうしろをついて歩いていくと、運転手さんがインターホンを押して看護師さんと話していた。指示されたところに向かうと、看護師さんがドアを開けて待ってくれている。2畳くらいしかない狭い小部屋だ。先生用と思われる机と椅子、診察用のベッドのみが置いてあった。

運転「私は車で待っていますんで、終わったら戻ってきてください」
祐香「わかりました、ありがとうございます」

看護「換気のためにドア、開けておきますねー。保険証ありますか? あとこれに記入してください。終わったらこのドアをノックして呼んでください」
祐香「わかりました。これ保険証です」
看護「はーい」

 看護師さんが部屋からいなくなり、小さな紙に名前や住所などを書いていたら、先生が入ってきた。

先生「はい、こんにちは」
祐香「こんにちは。これ、書き終わりました」

 先生に紙を渡すと、先生はそれをドアの向こうにいる看護師さんに渡して問診を始めた。既往症、ここに来た経緯、今の体調などいろいろ話しながら熱をはかると36.8℃だった。家ではかったときはずっと36℃くらいだった。うちの体温計は古いしあまり信用できない気がしてきた。

 そして、いよいよPCR検査。

先生「これを鼻の中に入れてね…」
祐香「え?」
先生「ん?」
祐香「唾液でやるってきいたんですけど」
先生「誰から聞いたの?」
祐香「保健所の人です。唾液でやるから飲食しないでって言われて」
先生「ああ、唾液でもいいけどこっちの方が正確だからね。鼻の奥に入れるからちょっと痛いけど我慢してね」

 いやいや、鼻でやるなら何か食べたかったよと思ったけど、仕方ない。それに鼻でやる検査は本当に苦手だ。細長い綿棒のようなものを、鼻の奥の奥まで差し込む。3秒くらいで終わるが、つーんという痛さが襲ってくる。でも頑張った。

 先生は名探偵コナンに出てくるアガサ博士みたいなおじいさんで、優しくて話しやすかった。一時期はPCR検査の数が多くて、次の日の夕方くらいまで結果が来なかったが、今は次の日の朝にはわかるとのことだった。

先生「明日の朝9時前には連絡できると思いますから。その結果を私から保健所にも連絡します。とりあえず、安静にしていてください」
祐香「ありがとうございました」

 それから、熱は36.8℃だったが解熱剤を一応出した方がいいか聞かれた。このあと熱が上がらないとも言い切れないし、解熱剤をもらって損はないので処方してもらうことにした。

 診察料は2千円だった。隣の薬局で解熱剤を受け取り610円を支払った。

 薬を待っているとき、薬局のテレビでは千葉ロッテマリーンズの本前投手がヒーローインタビューを受けていた。本前投手は北翔大学野球部時代、取材をしたことがある。たまたまその日、本前投手が故障明けで登板を回避していて、取材が終わったあと部屋にふたりになって、しばらく試合を観ながら雑談をした。そのときの、優しく穏やかである「ザ・北海道の男」な本前投手の印象が今でも残っていて、個人的に応援している。

 そんな本前投手が、今年育成から支配下選手となり、一軍の公式戦で先発登板し、連敗していたロッテに今季初勝利をもたらしてお立ち台に上がっていた。コロナかもしれないとPCR検査を受けにきたこのときに、たまたまテレビでそのシーンを見たという印象的な出来事は、将来コロナの話をするたびに思い出話として何度もしてしまいそうだなと思った。

 西日に照らされオレンジ色に染まった本前投手の笑顔は、しっかりと私の脳裏に焼きついた。

 帰りも車で送ってもらい、あとは次の日を待つだけだった。

③に続く



 

 

 

 

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