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コロナの濃厚接触認定者になった話①

 ミーハーかミーハーでないかで言えば、まったくミーハーではない方だ。むしろ、自分の感覚はおかしいのかと思うほど、周りの人たちと好きなものが違う。だから、いつも流行にもついていけない。

 そんな私が、新型コロナウイルスという流行に関わることになるとは思わなかった。

 私はファロー四徴症という先天性心疾患を持っていて、5歳で根治手術をしている。今は経過観察のみだが、遠泳・マラソン・長時間息を止めるなど心臓を守るための禁止事項は残っている。

 新型コロナウイルスに感染することを怖いと思うか思わないかは人それぞれだけど、持病のある私としては悪化する可能性のある病気はできるだけ避けたい。だから、ここ1年最低限の仕事と生活用品の買い出しくらいでしか外出をしていなかった。家からほどんど出ていない以上、新型コロナウイルスに感染することにそれほど現実味がなかった。

 あと、ここぞというときの強運で生きてきたので、なんだかんだこのゴチャゴチャが収まるまでうまく避けていける気がしていた。

 でも、我が家にコロナはやってきた。

 これを書いている時点ではただの濃厚接触認定者なので、正確に言えば、足音が近づいてきているけど今のところまだドアは破られていない状態だ。

    コロナ(新型コロナウイルスと打つのは面倒なのでこう略すことにする)が流行り始めて1年以上が経ったので、コロナ感染記はすでにネットに溢れかえっている。ただ、濃厚接触体験記はそんなにない気もするし、これでもライターの端くれなので「私の場合」の体験を記しておくことにした。

 ある程度書き溜めてから公開するが、リアルタイムで起こった出来事や感情などを忘れないうちにそのまま下書きしていくので、かなりボリュームのある文章になると思う。

 それでも関心のある人は、読んで参考にしていただけたら嬉しい。です。

はじまり

 先述の通り、私には心疾患がある。根治手術、いわゆる根っこからその疾患を治す手術は終わっており日常生活には支障がない状態だが、メスを入れていない部分—たとえば心臓が通常より肥大しているとか—は今でも残っている。

 それと、今は8割方成功するらしいその手術も当時は生きるか死ぬかフィフティフィフティで、10時間もかかった。結果、当時の技術においての私の手術は大成功だった。ただ、毛細血管が少し傷ついてしまったらしく、モビッツⅡ型房室ブロックという不整脈が残った。

 現在の私はというと、心疾患が関係しているのかはわからないが、体力は人よりないし365日中362日くらいはどこかが具合悪い。だけど、不思議なことに風邪とかインフルエンザとかそっち系にはめっぽう強く、ほとんどかかることがない。同居家族がインフルエンザになってうつされた経験は、いまだゼロだ。

 コロナも大きく分けるとそっち系なので、なんとなく感染しない気がしていながらも、もし感染した場合、基礎疾患があるので重症化するのではないかという不安もあった。特に両親は、私よりも私のことを心配している。

 ということで、この一年は自分の身を守るためにも、コロナは実際そんなにヤバいのかとか、そんなに致死率が高いわけじゃないでしょとか、インフルエンザよりも死亡率が低いじゃないかとか、そういう健康な人が疑問に思うことを無視して、万が一感染したら、万が一重症化したらを考えて生活していた。

 緊急事態宣言が出ていなくても、私は一年中セルフ緊急事態宣言下にあった。

 そんな中、ごく少数の人とは接触をしていた。コロナに感染した人のプライバシー保護のために私との関係性について詳しくは話さないが、まあ生活するために会う必要があった相手で、もしその人(Aさんとする)がコロナに感染すれば私が濃厚接触者と認定されることは間違いなかった。

 Aさんの仕事はリモートではできないことが多い。人と会う機会も多い。そんな中コロナに感染したとして「これだけ流行っているしコロナになってもしょうがないよね」と言える立場でもなかった。たとえば、Aさんがコロナに感染したとしても実名で報道されることはないが、取引先の人に感染させてしまった場合、その人たちは実名で報道されてしまう。そんな仕事だ。

 それに、世の中には代わりのきく仕事と代わりのきかない仕事があって、Aさんの仕事の一部はAさんにしかできなかったりする。もし、感染したり濃厚接触者になったりして仕事が止まると、いろいろなことが止まってしまう、そういう立場でもあった。

 そんな感じなのと元々の神経質な性格もあって、Aさんはこれでもかというくらいコロナの感染対策をしっかりやっていた。ここまでやって感染したら心の底からかわいそうだと思える、そんなレベルだった。

 だけど、Aさんの仕事関係者がコロナに感染したことがわかり、その人に関わった他の人たちもPCR検査をしたらどんどん陽性になっていった。Aさんも心配になり、すぐにセルフでできる抗原検査キットを使ってみたら、陰性だったようでホッとしていた。

 でも、時を同じくして、私はAさんの声に違和感を感じた。Aさんは花粉症だったし、ずっと喉、鼻、目などにいろいろな症状が出ていたようだけど、それとは少し違うと感じる風邪っぽい声だった。でもAさんは、小さな頃から毎年春先に必ず風邪を引くと言っていたので、風邪なのかなとも思った。

 とはいえ、やっぱり周りにコロナ陽性者が出ているので、その可能性も否定できない。セルフの抗原検査なんて正直当てにならないと思ったので、私は「コロナの可能性もゼロじゃないし、誰かにうつしたら大変なことになるから、明日は仕事に行かない方がいいんじゃない?」と伝えた。

 Aさんも少し心配になったみたいで、熱をはかったら37.0℃だったようだ。普段は36.5℃くらいとのことで、ちょっとだけ高い。気管支がゼェゼェする感じがある、とも言っていた。それでも、やっぱり次の日の仕事をキャンセルするとなると、そこに来るはずだった他の業者やお客様など何ヵ所にも連絡してストップさせなければならず、それがストップするとさらにその先の業務に影響が出るため、少し躊躇していた。

 コロナが流行り始めた頃、ニュース番組のキャスターが、一度違和感があったけどその後良くなったので現場に行き結局コロナだったということでいろいろと叩かれていたけど、実際自分がこの立場になると本当に難しいと思う。

 仕事内容によっては、コロナかもしれないからと大事をとって休んで違った場合、その分遅れた仕事を自分で取り戻さなければならならず過酷な業務になる、という人もいると思う。とてつもなく体調が悪いならまだしも、花粉症よりもたいしたことのない症状で休んでコロナじゃなかったなんて…と損をした気分になるのもわかる。仕事の関係者だって「コロナじゃなかったなら良かったですね!仕事の遅れくらい気にしませんよ!」と爽やかに言ってくれる人ばかりじゃないしね、世の中は。

 でも、やっぱりコロナの可能性がある以上休んだ方が良い。勘が良いというか、本人以上に私の方がコロナの可能性が高いと感じていて、仕事を休んだ方がいいと強く言い続けた。

 Aさんとしては、誰かと会話するときは不織布マスクを隙間なくしっかりつけていたし、食事のときはしっかりと距離をとっていたし、何かを触った手は絶対洗ってからしか皮膚に触れないようにしていたし、頻繁にアルコール消毒していたし、毎日家に帰ったらすぐお風呂に入ってスマホや財布なんかもアルコール消毒していたし、これでコロナに感染していたらたまったもんじゃない、という思いもあったと思う。

 でも、結局仕事を休むことにしたみたいだ。ついでにもう一度抗原検査キットを使ってみたが、陰性だったとのこと。

 次の日、気管支のゼェゼェと熱37.0℃は変わらず。ベッドで休んでいたら、Aさんの仕事関係先の陽性者が出た機関から「うちでPCR検査をするから来てください」と連絡があったようで、昼過ぎに車でそこに向かい検査を受けた。

 夜22時過ぎには結果が出るということで、それまでまたベッドで寝て過ごしていたら、電話が来て「陽性」だったと。

 保健所から認定を受けなくても、その時点で私が濃厚接触者に当たるというのは明らかだった。まあ、仕方ない。あとは運次第だ。

 私は、排卵日と生理前になると、女性ホルモンの関係なのか必ず眠れなくなる。24時間ずっと眠れないときもあるくらいだ。たまたまこの日がそれに当たったのもあり、前日から一睡もしていなかった。

 それと、2月中旬に左胸からみぞおち辺りに鈍痛があって、消化器内科にかかっていた。そこで胃カメラをすすめられて、Aさんが休んだ日の朝胃カメラをする予定だったけど、もしAさんがコロナだった場合私も濃厚接触者なので、その可能性もゼロじゃないことを病院に電話で伝えたら、それなら今日はキャンセルしましょうと言われた。

 結果的にAさんはコロナに感染していたし、私のこの判断は間違えていなかった、良かったと思った。

 PCR検査で陽性となったことで、翌日の午後、保健所からAさんに電話がきた。Aさんはいろいろと説明を受け、2日前からの行動も報告した。私の他にも、マスクを外して会話してはいないが、長い時間一緒に同じ空間にいたということで濃厚接触認定を受けた人もいた。

 Aさんは、一度37.8℃まで熱が上がり痰が絡むなどの症状が出ていたが、その後は落ち着いていた。家族がいるAさんは家族と隔離する必要があるということで、保健所から連絡がきた次の日からホテルでの経過観察が決まった。

 Aさんが保健所との電話を終えたあと、私にも電話が来ると言われた。Aさんは私に基礎疾患があることも、保健所に伝えてくれていた。

 そして、私にも保健所から連絡がきた。

②へ続く

 

 

 

 


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