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Carpenters「Passage」(1977)

ポップスが大好きな私は昔からカーペンターズが大好きなのですが、ちょっと敬遠していたアルバムがあります。それが彼等が1977年に発表したアルバム「Passage」です。このアルバム、実験的な楽曲もあったりして、ある意味問題作とも云えます。私の中ではあまり評価が高くないアルバムだったんですが、それでもカレンの歌声を聴くだけで落ち着きますし、このアルバムの中にも数曲、佳曲が収録されております。

この頃のカレンは拒食症を患い、体調は思わしくなかったようです。実際、1975年秋に予定されていた日本公演は、カレンの体調の影響で半年延期されております。また商業的にも下降線を辿っていたことから、1976年にハリウッド随一のマネージャーであったジェリー・ワイントローブが建て直しに着手し、この野心的なアルバムを発表するに至ります。

プロデュースはリチャード・カーペンター。でも本作にはリチャードのオリジナル作品は1曲も収録されてません。リチャードもまた調子が悪かったのでしょう。リチャードは1971年頃から睡眠薬を常用されていたようで、この頃はその量も増えていき、一種の中毒症のような状態だったと思われます(実際、1979年に治療に専念するために入院されてます)。

また本作が纏まりのない印象を与えるのは、ボサノバやミュージカル、カントリー、ニューオーリンズ・サウンド等々、カレンの特徴を生かしきれないような楽曲がごった煮のように詰まっているからと思われます。いろいろな方向性を模索すべく、敢えて実験的に挑戦したとも云えるのですが。

まず私が驚いたのはマイケル・フランクスのカバーの①「B'wana She No Home」。
この曲はマイケルの名盤「Sleeping Gypsy」収録の「B'wana-He No Home」のHeをSheに変えて歌ったもの。オープニングからこの変化球で来るか~という感じ。もちろん歌い手としては超一流のカレンですから、歌いこなしは素晴らしい。バックのロン・タット(Ds)&ジョー・オズボーン(B)のリズム隊もグルーヴィー。トム・スコットのフルート・ソロとかアレンジ面でも結構斬新。でもやっぱりカレンのヴォーカルにこの曲は合っているのかなっていうのが個人的な印象。

このアルバム、どうなるのかなあと思ったら2曲目で安心の「All You Get from Love Is a Love Song」が。
こちらはスティーヴ・イートンが1974年に発表したアルバム「Hey Mr. Dreamer」に収録されていたものがオリジナル。実はこのアルバム、素晴らしい内容で、2年前に私の別ブログでもご紹介済ですので、気になる方はチェックしてみて下さい。原曲もそちらにアップされてますが、リチャードはこの曲をカーペンターズらしい素晴らしいアレンジで仕上げてます。これはメロディも素晴らしいですが、明らかにカレンのヴォーカルとアレンジの勝利ですね。私的にはカーペンターズのマイベスト5に入る楽曲。そして余談ですが、キャンディーズのカバーも素晴らしい(笑)。

名バラードの③「I Just Fall in Love Again」も王道のカーペンターズ・サウンドですね。こちらはSteve Dorff,とLarry Herbstreitの共作。後にアン・マレーがカバーし、ヒットさせました。
ここでの聴き所はやはりトニー・ペルーソのギターソロですね。このギターは「Goodbye To Love」と同じトーン。「Goodbye To Love」では、リチャードのアイデアでバラード調の楽曲に敢えてロック色の濃いギターソロを入れておりましたが、ここでも同じ手法が使われてます。またイントロのオーボエもカーペンターズ・サウンドらしい。

⑤「Sweet, Sweet Smile」はエイティーズ・ファンにはお馴染みのジュース・ニュートンと彼女のバンド仲間だったオサ・ヤングの作品。
もともとジュース・ニュートン自身が歌うつもりで作った曲ですが、当時のキャピタル・レコードから収録を却下されたことから、ジュースのマネージャーがもともとカーペンターズと繋がりのあった縁でこの曲を紹介、カレンが気に入ったことから収録に至ったもの。
軽快なカントリータッチのナンバー。もともとカーペンターズは「ジャンバラヤ」みたいな曲もやっていたので、こうしたポップナンバーは違和感ないですね。素晴らしいバンジョーのプレイはグレン・キャンベルとの仕事で知られるラリー・マクニーリー

そして本作中、一番話題となったのが⑧「Calling Occupants of Interplanetary Craft」でしょう。
カナダのロック・バンド、クラトゥのヒット曲です。クラトゥは当時、メンバーの詳細を明かしておらず、一説にはビートルズのメンバーの覆面バンドじゃないかとも噂されてました。クラトゥのオリジナルバージョン(https://www.youtube.com/watch?v=jJ4IUjjVfng)と比較すると、カーペンターズの方が数段出来がいいことが分かります。もちろんリチャードのアレンジ能力、カレンの表現力に拠るところが大きいのですが。しかもイントロのDJはオリジナルにはないもの。これはトニー・ペルーソによるもので、彼は以前にもカーペンターズのアルバムでそのDJ振りを披露してますね。
それにしてもよくこの曲をカバーしようなんて思いましたよね。しかも完璧にカーペンターズ・サウンドに仕上げてます。恐らくリチャードは「してやったり」と思った筈です。特に私が感銘を受けたのが4分50秒過ぎからの間奏以降。トニー・ペルーソらしいギターソロ、そしてリチャード、カレンのバックコーラスと豪快なアレンジ。カレンが歌い上げるとメッセージ・ソングに聞こえるから不思議なものです。

つらつらこの実験作について綴ってきましたが、埋もれtしまった佳曲が数曲収録されており、やっぱりカーペンターズはいいなあと思った次第です。
カーペンターズはこの後クリスマス・アルバムを発表して、一旦活動を休止。1981年に「Made In America」を発表するも、カレンは1983年2月に亡くなってしまいます。この2月でカレンが亡くなって40年も経つんですね…。


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