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小沢健二 「犬は吠えるがキャラバンは進む」 (1993)

ご存知、オザケンのソロデビュー作。フリッパーズでセンス溢れるポップスを聞かせてくれた文学少年のソロ作、ということで大きな期待が寄せられたと思うのですが、まったくそういった流れに惑わされることなく、自分のやりたい音楽を貫いて発表された作品。

私はリアルタイムでフリッパーズを聴いていたのですが、なぜかこのオザケンのソロデビュー作は全く記憶にない(苦笑)。むしろセカンドの「LIFE」が強烈だっただけに、それだけでお腹一杯だったのかもしれません。だから「LIFE」から入った私にとっては、このファースト、最初聴いたときの印象はあまりよくありません。「LIFE」は思いっきりポップで、王子様、仔猫ちゃんの世界に突入していきましたから(笑)。

でもこのファースト、ドラムの青木達之(東京スカパラダイスオーケストラ)、ベースの井上富雄(元ルースターズ)の演奏が素晴らしい。とにかく質素な演奏なんですが、実にグルーヴを感じさせます。そしてR&B、ソウルテイストが散りばめられてます。

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1993年6月にソロとしては初めてのライヴを日比谷野外音楽堂で開催。この時、既に青木・井上がメンバーでした。
そして7月に待望のソロシングルが発表されます。それが②「天気読み」。決して商業的なポップスではありません。淡々とリズムが刻まれますが、どうもこの曲、スティーヴィー・ワンダーの楽曲をモチーフとしたらしい。もうひとりのフリッパーズの小山田は「尾崎豊みたいだ」と言ったらしいが、そこまでメッセージ性が強いとも思えない。でも流石はオザケン、「天気読み」というタイトルがまたスゴイ。発想力が凄いんですよね。さりげなく昔の洋楽を元ネタに自分流の音楽に仕上げるセンスもスゴイ。

③「暗闇から手を伸ばせ」はセカンド「LIFE」のポップスへの流れを感じさせる1曲。私の大好きな曲。本作の中では一番ポップかもしれません。
単調なカッティングギターだけだと面白みがないのですが、そこに明るさを感させるキーボードが実に愛らしい。本作は全曲キーボードは中西康晴。そしてこの曲は間違いなくドラムの青木氏のプレイが光ってます。この曲の躍動感はドラムの力に拠るところが大きいですね。
尚、青木さんは1999年、飛び込み自殺されてしまいます。こんな素晴らしい演奏を聴かせてくれるドラマーなのに・・・。残念ですね。

⑤「カウボーイ疾走」。オザケンの♪ ワン・ツー・スリー ♪というカウントがなんとも頼りなさ気でいい(笑)。タイトルも通常の発想では生まれてこないですよね。オザケンの詞は聴きながら・・・というよりも、歌詞カードをじっくり見ながら味わった方がいいでしょうね。結構分かりづらい部分もあるので。
それにしてもこの曲もシンプルです。

本作中、一番注目された作品は⑥「天使たちのシーン」でしょう。なんせ13分31 秒という大作です!
バラード風に始まりますが、曲は縦ノリ的なグルーヴ感たっぷりの曲です。心象的な詞が実に印象的。ただただ単純なメロディーの繰り返しなんですが、味わいあるメロディと詞なので、じっくり聴かせてしまいます。
アップした映像はシングルデビュー前の日比谷野外音楽堂での演奏。ドラム&ベースのシンプルな演奏に、中西氏のソロピアノが光ります。当時の観客で、この曲を知っている人がいたのでしょうか。これだけの長時間の演奏なんですが、グルーヴィーなので、曲を知らなくても、ライヴ特有のノリで堪能していたんでしょうね。

本作発表から約1年後、洋楽をモチーフとしたコンセプトは本作と一緒でも、本作とは印象の全く異なる名作「LIFE」を発表。オザケン・ブームに拍車がかかることとなります。でもそれからオザケンは様々な顔を見せつつ、世間から距離を置いてしまいます。

2014年3月、「笑っていいとも」が終了となることを受けて、オザケンは緊急帰国。16年振りのテレビ出演をしたことは記憶に新しいところ。タモリがオザケンの詞を認めていたことは広く知られた話。オザケンもまた、タモリの本質を見抜く目を評価・尊敬していたのでしょう。今回のテレビ出演はあくまでもタモリのためだけのもの。途中で歌った「ぼくらが旅に出る理由」、タモリが絶賛した歌詞

♪  左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる 僕は思う この瞬間は続くと いつまでも  ♪(「さよならなんて云えないよ」)・・・。

至福の瞬間ですね。
ちなみにオザケンはこの出演の前日にアルバム「我ら、時」を発売してますが、一切そんな告知はここでしておりません。番宣のために出演する多くの芸能人の中、純粋にタモリに敬意を表するためだけに出演したオザケンの姿勢に当時感動したものです(もちろん帰国自体が番宣の意味合いもあったと思いますが)。


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