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The Byrds「Farther Along」(1971)

本作発表後から1973年の再結成されたバーズのアルバム「Byrds」発表までの間、バーズは激動の時代に入ります。
1971年6月発表の前作「Byrdmaniax」がメンバーの意向とは別に、プロデューサーのテリー・メルチャーにオーバーワークなアレンジを施されてしまいます。ライブバンドとして実績を積み上げていたメンバーは、もうちょっとバンド・サウンドにしたいとの強い意向により、7月には早くもスタジオに入りし録音。結局本作は前作発表から半年経たずに発表されてます。

プロデュースはメンバー自身(The Byrdsでクレジット)。本作は再結成バーズを除くと、結果的にはバーズのラストアルバムとなってしまい、かなり地味な存在になってしまいましたし、初期バーズのフォークロック的なサウンドからはほど遠いものではありますが、個人的にはカントリーロックの名盤じゃないかなと思ってます。
またライブバンドとしても最強メンバーだったんじゃないかなと。当時のメンバーはロジャー・マッギンクラレンス・ホワイトスキップ・バッテンジーン・パーソンズの4人。実はロジャー以外の方も凄い方々。クラレンスはブルーグラス界最高のギタリストとも呼ばれている方、スキップもドライブ感溢れるベースが魅力的な方、ジーンはドラマーながらも盟友クラレンスの要望で「Bベンダー」というギター奏法を開発した凄い方(実家が機械工場だったらしく、エンジニアとしての腕前も一流)。のちにジーンはソロアルバムを発表しますが、ドラマーなのにドラムは叩いておらず、マルチプレイヤー振りを発揮してます。
こんな凄腕ミュージシャンが腕を振るって制作されたアルバムが本作なんです。

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アルバムのオープニングはやはりロジャーの作品の①「Tiffany Queen」が収められてますが、もうこの頃のロジャーはあまり気合が入っていなかったのか、この曲は凡庸なロックで、個人的にはあまり魅力は感じませんし、本作ではちょっと浮いているような曲ですね。ですから本作はジーン作の②「Get Down Your Line」から始まるという理解です。
力強いジーンのドラムとメンバーの演奏、もっさりとしたジーンのヴォーカルもカントリー&スワンプな感じがしていいですね。

アルバム・タイトル曲の③「Farther Along」はクラレンスがアレンジしたトラディショナル曲。
伸びやかなクラレンスのヴォーカルとマンドリンが味わい深い。こうしたサウンドを聴くと、この当時はやっぱりバンドのイニシアティブはロジャーではなく、クラレンスとジーンだったんだろうなあと思います。

この当時の貴重なバンドのライブ映像をお送りします。1971年5月の演奏ですので、ちょうど前作が発表される直前のもの。もうこの時点で本アルバムの原型は出来ていたと想像できる演奏です。4曲演奏されており、1曲目はロジャーとクラレンスのアコギが楽しめます。特にクラレンスのプレイが凄い。そして2曲目では髭面の男がバンジョーを持って登場。彼がドラムのジーンですね。しかもバンジョー上手い!
3曲目はジーンがハーモニカを吹いてますね。この当時のバーズは、もはやカントリー&フォークのバンドって感じですよね。そして最後は白熱のバンド演奏。やっぱりこのメンバーのバーズが一番演奏力があったんじゃないでしょうか。

上での演奏を聴くとスキップ作の⑥「America's Great National Pastime」も違和感なく聴けるのではないでしょうか?
本作からシングルカットされた曲でもあります。この頃のバーズはやっぱりカントリー系の曲を得意としていたんでしょうね。

珍しくメンバー4人とツアーマネージャーだったジミ・セイターとの共作の⑦「Antique Sandy」。
ロジャーの情緒溢れるヴォーカルが、フォーキーな哀愁漂う曲調と合ってますね。単調なメロディの繰り返しですが、途中でエコーを効かせてサイケなアレンジになるなど、工夫を凝らしてます。当時、ジムの彼女がアンティークな家に住んでいたらしく、それをモチーフに作った曲。

セッション・ギタリストとして活動していたボブ・ラフキン作の⑩「Lazy Waters」はカバー曲ではありますが、本作のハイライト作の1曲。
スキップの野太いヴォーカルとメンバーのハーモニーが素晴らしい。メランコリックなメロディはバーズのオリジナル曲といってもいいくらい。間奏のジーンのハーモニカもいいですね~。

エンディングはジーンとクラレンスの共作の軽快な⑪「Bristol Steam Convention Blues」。
ジーンのバンジョーとクラレンスのマンドリンを中心としたブルーグラスなインストナンバー。そもそもこうした楽曲がエンディングというのも当時のバーズらしい。この二人は昔から一緒に活動していたので、ここでも息の合ったプレイを聴かせてくれます。

本作発表後もこのメンバーでツアーを行いますが、先にジーン・パーソンズが脱退。ギャラの問題から解雇されたとも云われてます。後釜にセッション・ドラマーとして著名なジョン・ゲランを雇い、ツアーを続行しますが、こうした積極的な活動も商業的な成功には結びつかず、ロジャーは徐々にソロ活動に軸足を移していきます。また同時にこの頃、デヴィッド・ゲフィンから悪魔のささやきが…(笑)。初期バーズの再結成…ですね。つまりロジャーはこの時期に自身のソロ作「Roger Mcguinn」や再結成バーズ「The Byrds」の制作に参加していたんですね。この当時のスキップやクラレンスはどう思っていたんでしょうかね。
実質的にはバーズは1973年2月にスキップ・バッテンが脱退したことで消滅してしまいます。残されたクラレンスは自身のブルーグラスのバンドを結成。但し残念ながら同年7月に事故死してしまいます。

最後の4人のバーズは、バーズ史上最強メンバーだったと思うのですが、ラストアルバムは残念ながら商業的に失敗してしまい、本作の評価も決して高くはないと思いますが、個人的にはカントリーロックの名盤じゃないかなと思ってます。

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