大滝詠一「A LONG VACATION」(1981)
今更ここで紹介するのが恥ずかしいくらいの超名盤、そして超定番のアルバムですね。
これからいい季節になっていく、そんなタイミングで聴きたくなる1枚です。実際、本作、及び本作と対となる「EACH TIME」はここ数週間、通勤時にいつも聴いてます。
「売れないレコードをいっぱい作って来たけど、それは本望じゃない。松本が売れて、細野も売れて、山下まで売れたら、俺も売れなくっちゃいけないと思う」と、松本隆に吐露して作った屈指の名盤。確かにロンバケ発表前までの大滝詠一は、マニアックなミュージシャンと捉えられていたかもしれません(実際マニアなんですが…)。
大滝さんは売れるアルバムを作るべく、作詞を全面的に松本隆に任せたものの、ちょうどタイミング悪く松本さんの最愛の妹さんが亡くなってしまい、松本さんはとても作詞が出来る状況でもなく、一旦は他の作詞家にお願いするように進言。ところが大滝さんから返って来た返事が「このアルバムは松本ありきで考えてるから、他の人じゃ駄目なんだ」「とにかく詞が書けるようになるまで待つから」。
売れるためには盟友松本隆の力が絶対に必要。そこには妥協を許さない大滝さんらしい信念が感じられます。そして待った末に出来上がった最初の詞が素晴らしく、この詞・楽曲から大滝ワールドが繰り広げられるのでした。
それがアルバムトップを飾る①「君は天然色」。松本隆の素晴らしい詞に合わせたように繰り広げられる大滝ワールド、完璧なウォール・オブ・サウンドだったのでした。
ドラムのカウントから入るイントロ、繰り出される音の洪水…、押し寄せる圧倒感。ドラムは上原裕。上原さん、フィルインの応酬で、完全に気分はハル・ブレインだったのではないでしょうか。あとよく聴くと上原さんのスネアの叩く箇所が非常に凝ってます。個人的にはサビに入る前の鈴木茂のギターがあまりにもカッコ良すぎて鳥肌モノ。
♪ 想い出はモノクローム 色を点けてくれ ♪
このサビの歌詞には最愛の妹を亡くした松本隆の切ない想いがこめられております。
シングル「君は天然色」のB面だった③「カナリア諸島にて」。
華麗なストリングスとカラフルなパーカッション、分厚いコーラス…、どこまでもリゾート気分。これぞロンバケを代表する1曲。
大滝流ロックの⑤「我が心のピンボール」。
リゾートアルバム的な本作においては異色のロック。しかも大滝先生のヴォーカルもどこかシャウト気味。ファルセットも駆使した迫力あるヴォーカルですね。
甘いサウンド中心の本作には、ちょっと辛味の効いたスパイス的な楽曲です。ここでの鈴木茂のギターも大好き。
大滝詠一の魅力が詰まったメロウなバラードの⑦「スピーチ・バルーン」。
スピーチ・バルーンとは漫画の吹き出しのこと。以下勝手な意訳ですが…。
好きだった娘が、島から船で都会に向かう別れのシーン。(好きだと)言いそびれた言葉が風に舞う…。見えなくなった船にむなしくヘッドライトのパッシングをする…。そんな切ない状況を表わしたものでしょうか。
なぜロンバケには松本隆が必要だったのか、この曲が全てのような気がします。そんな松本隆が描く切ない情景に、メロウな大滝詠一のメロディがマッチします。胸にグッとくる名曲ですよね。
本作中、私の一番のお気に入りは⑨「FUN×4」。
随所にオールディーズソングが散りばめられてます。こういう遊び心か感じられる大滝さんのが楽曲が大好きです。
この曲の聴き所は(この音源では48秒で登場する)「散歩しない?」と優しく語り掛ける太田裕美の愛らしい声と、エンディングのビーチボーイズの「Fun Fun Fun」をパクった部分でしょうか。シャネルズや五十嵐浩晃(月に吠える声です(笑))の参加も洒落っ気があっていいですね。
ちなみにこの「FUN×4」をベースに作ったのが松田聖子に提供した屈指の名曲「いちご畑でつかまえて」。松田聖子の4枚目のアルバム「風立ちぬ」に収録されておりますが、このアルバムのA面5曲が作詞:松本隆、作曲・編曲:大瀧詠一なんですね。「風立ちぬ」の収録がロンバケ発表後の1981年8月。このA面5曲は大滝さんのアイデアが詰まった珠玉の5曲ですので、機会があれば是非聴いてみて下さい。
2020年に発表された松田聖子のベストアルバムには「いちご畑でFUN×4」という曲が収録されてます。ユニークなのでその音源をアップしておきます。
ずっとこのアルバムを聴いていたら、無性にドライブに行きたくなってきました。今年のGWはこのアルバムと「EACH TIME」をお供にしたいですね…。
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