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The Rascals「Search and Nearness」(1971)

先週のサンソンの特集はディノ・ダネリでした。
ディノ・ダネリとは昨年12月に亡くなられたラスカルズのドラマーだった方で、ラスカルズは山下達郎氏は溺愛してきたバンドですね。

ディノ・ダネリの追悼特集はサンソンくらいしかやらなだろうなあと思いつつ聴いていたのですが、ディノを中心に選曲されたラスカルズも結構いいんですよね。特に今回ご紹介するアルバムからは2曲オンエアされたのですが、その曲がいい!正直、私はこのアルバム、全く存在すらスルーしておりました(苦笑)。皆さんはこのアルバムの存在、ご存じでしたか。

ラスカルズは1969年12月に6枚目のアルバム「See」を発表しますが、そのサウンド・プロダクション(インド音楽やサイケ)はフェリックス・キャバリエの独裁的な色彩が強くなっており、よりストレートなR&Bを追求したいエディ・ブリガッティ等と対立していきます。
結局1970年10月にラスカルズのもう一人のリードヴォーカリストだったエディは脱退、ジーン・コーニッシュも後を追うよう脱退してしまいます。そしてフェリックスとディノのラスカルズはアトランティックからコロンビアへ移籍を決意。

こうした状況の中で1971年3月に発表されたのが本作なんです。つまり過去のレコ―ディングされたものの蔵出し的な感じ(笑)。ですからアトランティックによる宣伝活動もなく、ひっそりと発表され、その直後、5月にはコロンビアから新生ラスカルズのアルバム「Peaceful World」が発表されてます。

本作は1969年10月から1970年10月までに録音された楽曲なので、エディも参加しております。ちなみにジーンは本作の裏ジャケには映っているので、1971年3月時点では脱退していなかった模様。
殆どはフェリックスの楽曲ですが、前作「See」と違い、比較的ストレートな演奏で聴きやすい楽曲ばかりが収録されてます。
サンソンでオンエアされた2曲の内の1曲が①「Right On」。フェリックス作のファンク・ナンバーですが、ウネりを感じさせる好ナンバーです。
グルーヴ感あるディノのドラム。フェリックスの黒いハモンドオルガン、粘着質なジーンのギター。ハーモニカとハモっているのはエディかな。そしてこの曲を下支えしているファンキーなベースはチャック・レイニー。実にカッコいい演奏と黒いヴォーカル。このアルバムはこれ1曲だけでも聴く価値あります。

ゴスペルタッチのR&Bの②「I Believe」も素晴らしい作品です。
フェリックスの熱唱が光るR&Bポップの名作。コーラスグループのスィート・インスピレーションズが参加してます。エンディング近くになってチャック・レイニーが我慢しきれず力強いベースを披露してます。いや~、忘れ去られているこのアルバムは好トラックが続きます。

ジーン作、ヴォーカルはエディの④「You Don’t Know」。
明らかにフェリックスの作品とは違う、ちょっとポップな楽曲。ディノのタイトなドラムが印象的です。この曲の聴き所は中盤以降の軽いタッチのギターソロからのインストパートでしょうか。ハモンドオルガンやピアノ主体のフェリックスの曲とは違い、ギター中心のサウンド・プロダクション。エンディングはどこかカントリータッチなアレンジで終わります。

サンソンでオンエアされたもう1曲がディノの作品のインストナンバーの⑤「Nama」。
はっきりいってこの曲だけ異質です(笑)。でも私のお気に入りのナンバーです。元々ジャズ嗜好が強かったディノ、バディ・リッチやジーン・クルーパに憧れていたディノの本領発揮されたジャズ・ナンバー。これ、初めて聴いてラスカルズの曲って分からないですよね。デイヴ・ブルーベックの「Take Five」ならぬ、「Take Seven」。拍子が数えられないですが、123・1234の7拍子。これは完全にジャズですね~。
ちょっとサイケな感じとか作品自体も結構クオリティが高く、ディノにこんな才能があったなんて…と今更ながらに驚愕。

後のフィフス・アベニュー・バンドのサウンドを彷彿させる⑧「Ready For Love」。
こちらもフェリックスの作品。後にグッドタイム・ミュージックとも呼ばれたフィフスのアルバム「The Fifth Avenue Band」に収録されていても全く違和感がありませんね。コーラスがフィフスそっくりだし、曲のアレンジ・展開も洒落てます。よく考えたらフィフスはニューヨーク出身だし、ラスカルズも同じニューヨーク出身。時代的にも接点があってもおかしくないですね。

このアルバム、アトランティックからも見放され、新生ラスカルズの新作が発表間近で、恐らく当時もスルーされていたであろう不幸なアルバムなんですが、中身はかなりいいんじゃないかなと感じました。

達郎さんが「Right On」のディノのドラムについて「何せ、この歌に呼応する、歌を非常によく聴いているドラマーで。歌にレスポンスするというその瞬間のそのスリルというか・・それが素晴らしい!」と語るほど絶賛されておられましたが、それを踏まえて本作を聴くと、フェリックスだけでなく、ディノもそしてジーンも素晴らしい演奏者であることがよく分かります。
達郎さんは愛するラスカルズについて、2012年の再結成時にニューヨークまでわざわざ見に行かれたそうです。かなり荒い映像ですが、リユニオンツアー時の「Groovin'」をアップしておきます。エディとフェリックス、ジーン、ディノがこうしてまた一緒にやっていたことが嬉しいですね。


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