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Elvis Presley「From Elvis In Memphis」(1969)

今月のレコード・コレクターズの特集は今年2月に亡くなられたバート・バカラックの特集でしたね。「バート・バカラックの名曲を聴く」と題された特集、新旧取り混ぜて、126曲を紹介してますが、意外と知らない楽曲が多い…。バート・バカラックというとA&Mとプロデュース契約して以降の作品、それからキャロル・ベイヤー・セイガーとのコラボ辺りが大好きですが、もちろんそれ以外でも佳曲が多いんですよね。
そしてこの特集記事でちょっとビックリだったのが、あのエルビス・プレスリーまでがバカラックの作品をカバーしていたということ。あのエルビスが、しかも見事に復活を遂げた名盤中の名盤の、あのメンフィス・アルバムにバカラック作品が収録されている??…、ちょっと認識していなかったので、ついついこのメンフィス・アルバムを聴きまくっておりました。ということで今回はこちらのアルバムをご紹介致します。

エルビスは1958年1月に徴兵通知を受け、1960年3月まで西ドイツの米陸軍に務め、除隊後は主に映画を中心に活動しておりましたが、これはエルビスの本意ではなく、マネージャーのパーカー大佐が仕掛けたもので、エルビスは仕事への不満が募っていくばかりでした。

そして1968年、ついにエルビスは映画活動に終止符を打つべく、活動拠点であったハリウッドを離れます。同年クリスマスシーズンの放映されたTVスペシャル番組で、本格的な歌手活動を再開。そして1969年1,2月に行われた伝説のメンフィス、American Sound Studioでのレコ―ディングに繋がっていきます。エルビスは原点回帰、メンフィスで32曲をレコ―ディングし、その内の12曲が本作に収録されております。珠玉の12曲、これにボートラにも収録されていたシングル「Suspicious Mind」が加われば完璧です。

本作は1969年6月2日に発表されてますが、同じメンフィス・セッションでレコ―ディングされた「Suspicious Mind」が8月にシングルとして発表され、こちらが7年振りの全米No.1を記録。エルビス復活と謳われました。
この⑬「Suspicious Mind」は本作のボートラにも収録されておりますので、ご紹介しておきます。
アップしたのは1970年のラスベガスでのライヴ映像。この時のロン・タット(Ds)&ジェリー・シェフ(B)のリズム隊のグルーヴが凄い。3分過ぎからの疾走感も凄いです。この曲、スタジオ録音バージョンはエンディングでフェードアウト、フェードインの形が取られてますが、これはパーカー大佐が勝手にアレンジしたもので、当時エルビスは激怒したと云われてます。ただ、ここでのライヴは、そのフェードアウト・フェードインを模しているかのようなアレンジで、それを楽しんでいるように見えるエルビスが印象的です。とにかく中盤以降のエルビス、圧巻。また途中でお茶目なエルビスも…。
豪快でソウルフルな唱法が堪能出来ますし、西城秀樹は意外とエルビスからの影響も受けていたのかなとも思わせる映像です。

このアルバムは当時のAmerican Sound Studioの一流ミュージシャン、所謂「メンフィス・ボーイズ」が参加しております(上のライブ映像とはバックミュージシャンが違います。当時のエルビスは、バックミュージシャンをスタジオ収録とライブとで使い分けていたようです)。特にジーン・クリスマン(Ds)とトミー・コグビル(B)はサザン・ソウルの代表的なリズム隊で、素晴らしいグルーヴを生み出しております。その典型的なナンバーがオープニングの①「Wearin' That Loved On Look」。
イントロからエルビスの仰々しいヴォーカルに圧倒…。女性コーラスも豪快なサザンソウル仕立てですね。リズム隊と共にレジー・ヤングの軽快なギターがカッコいい。レジーは山下達郎やカーティス・メイフィールドにも影響を与えたミュージシャンですね。この曲を聴いただけでも、もう既にエルビスはロカビリーのエルビスではないということがご理解頂けるかと思います。

かなりゴスペルタッチなサザンソウルの④「Long Black Limousine」は本作の中でも人気高いナンバー。
作者でもあるVern Stovallが1961年に最初にリリースした作品。原曲を聴くとエルビスとは全然違うカントリーソングにビックリされると思います。
いつか皆がビックリするような車で帰ってくると街を飛び出した友が、結局黒い霊柩車で帰ってきた(つまり亡くなった)という歌詞なんですが、歌詞を引き立てるようなドラマティックな展開は、迫力あるエルビスのヴォーカルに合ってますね。トミー・コグビルのベースラインが曲を引き立ててます。こういう曲って、日本の演歌みたいに米国人に刺さるんでしょうね。

本作にはカントリー系の楽曲も収録されてますので、その内から1曲ご紹介しておきます。⑥「I'm Movin' On」は1950年に発表されたハンク・スノウの楽曲。
原曲はフィドルが効いた完全なカントリーソングです。エルビス・バージョンはイントロこそ、アコギとスティール・ギターがカントリー的ですが、ホーンや豪快なジーン・クリスマンのドラムが入ってくると、カッコいいサザンソウル風に盛り上がってきます。さすがメンフィス・ボーイズの料理(アレンジ)は美味しい(笑)。カッコいいですね~。

かなりブルージーな楽曲もご紹介しておきます。サントラ用に楽曲提供していたチームの作品の⑦「Power Of My Love」。
デビュー当時のレッド・ツェッペリンがやりそうなブルースナンバーです。バックの演奏もかなり豪快。アイドル扱いされ、映画ばかり出させられていたエルビスですが、こうした楽曲を聴くと、ヴォーカリストとして器用な方だったんだなあと感じます。

レココレ特集記事にも掲載されていた曲が⑪「Any Day Now」。
冒頭申し上げた通り、バート・バカラック&ボブ・ヒリアードの作品。1962年に発表されたチャック・ジャクソンのバージョンがオリジナル。
エルビスはオリジナルに忠実なアレンジながらも、よりソウルフルに歌ってます。バカラックってカーペンターズのイメージが強かったので、ポップスというイメージが先行してましたし、黒人のディオンヌ・ワーウィックもかなりポップス風に歌っていたように思います。でも60年代前半のバカラックは、結構ソウルフルなシンガーにも楽曲提供していたんですよね。

メンフィスのエルビス、如何だったでしょうか。このアルバムにはスラム街の様子を描いた「In The Ghetto」も収録されており、エルビスの思い描いた通り、社会的思想も歌える実力派シンガーとして、また違った形でエルビスは再びクローズアップされることとなります。この頃のスワンプなエルビスも個人的には大好きです。

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