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松田聖子「The 9th Wave」11th (1985)

知る人ぞ知る、松田聖子の生みの親、若松宗雄さんが初の著書「松田聖子の誕生」を刊行された。
恐らく一般的には知られていないとは思いますが、原石だった彼女を発掘し、あの素晴らしいサウンド・プロダクションを施したのは、すべて若松さんの手腕。それらを赤裸々に記したのが本作。私でも知らなかったことが多く、特に若松さんが関わったアルバムの解説は非常に参考になりました。
特に、彼女を発掘し、両親を説得したはいいが、どこもプロダクションの引き受け手がいなかった話は初耳で、「松田聖子は誰とも似ていなかった」という点がその大きな理由というのも、横並び気質の日本人らしいし、自分の仕事にも通じる「有望企業の発掘」にも相通じるものを感じました。

実は仕事で一度だけ若松さんとお会いしたことがあるのですが、当時は全く若松さんの凄いキャリアを知らず、その貴重な出会いは殆ど記憶にも残らないものとなってしまいましたが…。

このブログでは、気が向いたときにアイドル歌手のアルバムもレビューしております。特に若松さんが関わった松田聖子のアルバムはどれも素晴らしいもので、既にその多くをご紹介しておりますが、デジタル化していった頃のアルバムは見落としているものもあります。今回「松田聖子の誕生」を読み、改めてその魅力に気づいたアルバムもあったりしたので、その中の1枚、彼女の11枚目のアルバム「The 9th Wave」をご紹介致します。

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1985年の松田聖子といえば、1月に郷ひろみと破局、4月に神田正輝との婚約、6月に結婚とプライベートでは波乱万丈な1年でした。本作は結婚の直前に発表された作品。この年をもって松田聖子は1年間の活動休止を発表しました。
本作では長年のパートナーでもあった松本隆さんの作詞曲はなく、その代わり、全曲が女性が作詞を手掛けております。そして全曲のアレンジを大村雅朗さんが担当しております。若松さん曰く「80年代中期エッジなデジタルサウンドが一つの柱となっている」「それもあってサウンド・プロデューサーとして彼の名前をクレジットさせてもらった」とのこと。なるほど、それを理解した上で本作を聴くと、大村さんの絶妙なアレンジに感心してしまいます。

まずは1曲目、軽いサンバのリズムが心地いい、夏らしいアレンジの①「Vacancy」から。
作詞は銀色夏生、そして作曲はこれ以降も音楽のよきパートナーとなっていく原田真二。イントロと間奏のストリングスが真っ青な青空を連想させますね。ガット・ギターは吉川忠英さん。エンディングの素晴らしいアルト・サックスはジェイク・H・コンセプションさん。

まさにエッジなデジタルサウンドが響き渡る②「夏のジュエリー」。
このバックでピコピコ鳴っているシンセは好みではなかったので、この頃の松田聖子は好きになれなかったのですが、大村雅朗ワークが気になり出してからは、そういった先入観なしに楽しめるようになりました。この時代を象徴するような楽曲です。このアルバムでは全曲、シンセ・プログラムはYMOでお馴染みの松武秀樹。そしてこの曲は作詞は吉田美奈子、作曲は曲調からもお分かりの通り大村雅朗。

松田聖子には多くのニューミュージック系アーチストが楽曲提供しておりましたが、意外にも本作で初めて楽曲提供した方が尾崎亜美。本作では3曲提供しておりますが、その内の1曲が③「ボーイの季節」。
松田聖子の歌唱力が光る名バラードですね。結婚を機にテレビへの出演等は控えたために、この曲がTVで披露されることはあまりなかったのですが、上のアップした映像は「8時だよ、全員集合」に出演した際に歌った貴重な映像。

イントロこそデジタルサウンド的なアレンジですが、歌が始まると愛らしい⑦「さざなみウェディングロード」。
作詞は来生えつこ、そして作曲は杉真理。サビで弾けるようなポップスが拡がる世界観は杉さんならでは。来生さんが書いた聖子さんへの応援メッセージとも取れる歌詞も素敵です。杉さんは「雨のリゾート」とか、一緒にデュエットした「真冬の恋人たち」とか、今までにもいい曲を提供してきてますね。

シングルとしても有名な尾崎亜美作の⑧「天使のウィンク」。
キュートな松田聖子のヴォーカルと、尾崎亜美のポップなメロディ、そして大村雅朗が料理した極上のデジタルアレンジ。当時はこのデジタル化したサウンドがあまり好きではありませんでしたが、これこそ大村雅朗の最高のアレンジの1曲。ようやくこの素晴らしさが理解できるようになりました。ギターは松原正樹さんですね。
この曲、若松さんが尾崎さんに「自由に好きなテーマで作って下さい。でも出来れば締め切りは明日…。」とオファーしたらしい(苦笑)。さすが、天才尾崎亜美、部屋の掃除で舞った埃が一瞬逆光で天使にみえたようで、ホントに翌日には、この素晴らしい楽曲のデモテープが送られてきたとのこと。凄い…。
ここはTV出演した映像ではなく、敢えてレコ―ディングの音源をじっくり聴いてほしい。

エンディングはこちらも尾崎亜美作詞作曲の⑩「夏の幻影(シーン)」。
ファンの間では人気の高い1曲。歌詞に「9番目の波は高い…」と出てきますが、これが本作のアルバムタイトルの由来。船乗りの間では9番目の波が最も高く危険だと云われているらしい。松田聖子はこのアルバムでひとつの頂点を極めたということでしょうか。
それにしてもイントロとエンディングでの潮騒の音、間奏のダイナミックなアレンジ。どれも素晴らしい。こちらも尾崎亜美&大村雅朗が作り上げた最高峰のサウンド。

なかなか素晴らしいアルバムと思いませんか。この当時のデジタルサウンドが嫌いな方でも結構聴けるんじゃないかなと思います。
若松さんの本では最後に彼なりの松田聖子へのメッセージが贈られてますが、いろいろあった今だからこそ、また若松さんと松田聖子がタッグを組んだ新作を聴いてみたいものです…。

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