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Emitt Rhodes「Rainbow Ends」(2016)

エミット・ローズをご存じでしょうか?
恐らくご存じの方は極めて少数かと思いますが、60年代後半から70年代前半にかけて活躍したSSW系の方。そのキャッチーなメロディと全ての楽器を自分で演奏してしまう天才ぶりから「一人ビートルズ」「ポールよりもポールっぽい」なんて云われておりました。個人的には彼のファーストソロ「Emitt Rhodes」が大好き。初めてこのアルバムを聴いたとき、感激した記憶があります。

エミットはダンヒルと1年に2枚、3年で計6枚のアルバム制作の契約を交わしたのですが、結局その制作のプレッシャーに負けてしまい、1973年発表の「Farewell to Paradise」を最後に業界から姿を消してしまいます。裁判、弁護士からの追求、とても音楽をやれる環境でもなく、精根尽き果てたということだったのでしょう。

そのエミット・ローズが2016年に43年振りに新作を発表していた事実を最近知りました。と同時に2020年に亡くなられていたことも。

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いい顔してますね…。泣いているのか、笑っているのか…。味わい深いジャケットです。
プロデュースはミュージシャンとしても著名なクリス・プライス。クリスのインタビューがこちらに掲載されてますが、読んでビックリ!
2006年、当時21歳だったクリスが自身のデビューアルバムのプロデュースを憧れだったエミットにお願いしたく、知人経由でコンタクトを取ったものの、全く音信不通…。訝しく思った知人がクリスに直接家に行ってくれ!と依頼されて、全く面識のないエミットの自宅を訪問することに…。

その時エミットは「君の音楽を聴いてみる。興味があれば連絡するし、なければ連絡しない」と言い放ったらしい。ところが10分もしないうちにエミットから「お前の音楽が気に入った。一週間後に遊びに来い」と連絡が…。ただエミットは音楽の話をしたがらなかったみたいで、それから7年近く、普通の友人関係が続いたとのこと。

ある日、いつものようにクリスがエミットの自宅に遊びに行くと、エミットがいくつかの封筒を前にギターを弾いている…。そのいくつかのマテリアルが本作に収録された内の7曲。でもそこから実際のレコ―ディングまではまだまだ時間がかかったようです。このアルバムの制作過程のインタビュー映像もありました。

長々と綴ってしまいましたが、要は業界に辟易していたエミットを、また業界に連れ戻したのが、エミットのファンでもあったミュージシャンで、更に本作をサポートした他のミュージシャンもエミットを応援するために参加した方々ばかりということ。参加ミュージシャンはジェリーフィッシュのジェイソン・フォークナー(G)とロジャー・ジョセフ・マニング・Jr(Key)。セッション・ミュージシャンのフェルナンド・ペルドモ(B)、ジョー・サイダース(Ds)。コーラスにエイミー・マン、バングルスのスザンナ・ホフス

まずはオープニングナンバーの①「Dog On A Chain」を聴いてみて下さい。
出だしの50秒までが美しいメロディをエミットが淡々と弾き語りますが、その後はパワーポップらしいギターロックのアレンジ。なんだか懐かしいようなサウンド。カラッとしたギターの音もいいですね。ちょっとほろ苦いメロディは健在。この時エミットは66歳。歳を感じさせないヴォーカルです。

③「Isn't It So」は1995年に発表されたエミットのベスト盤にも収録されていた楽曲。実はこの当時のバージョンがめちゃめちゃメロウなAORなんですよね。好き嫌いがあると思いますが、私はイントロのサックスとメロウなフェンダーローズを聴いただけで気に入ってしまいました。先にそちらのメロウバージョンをアップしておきます。

このメロウな「Isn't It So」が本作ではどう料理されているかというと、これもまたいいんですよ~(笑)。ちょっとほろ苦いようなメロディが引き立つような静かなアレンジ。本作「Rainbow Ends」のカラーに合ったアレンジですよね。

⑤「Something Else」はプロデューサーのクリスとエミットの共作。
これがなかなかカッコいいナンバーなんです。メロディはエミットらしい哀愁漂うものですが、バックが結構ロックしてるし、コーラスもいい感じ。

本作中、一番ポール・マッカートニーっぽい楽曲が⑦「Put Some Rhythm To It」。
とびきりポップな楽曲、これがエミットの持ち味です。ピアノが刻む4ビートに重たいドラム、間奏のギターソロなんかはパイロットを思わせるパワーポップですね~。この曲のスィートなコーラスが大好きです。

アルバムタイトルナンバーの⑪「Rainbow Ends」。
見果てぬ夢を追いかける…、当時のエミットの思いを託した歌詞でしょうか。この曲も渋い曲ですが、個人的にはお気に入りの1曲です。やはり歌詞と、その想いを鼓舞するようなアレンジが秀逸。曲を徐々に盛り上げていくバンド演奏(特にドラム)もいいですね。すべて自暴自棄になっていたエミットが、これほど前向きな歌詞を書くとは…、見事な復活です。

ただ残念ながら本作発表から4年後の2020年7月、エミットは帰らぬ人となってしまいました。その訃報は親族からではなく、クリスが発表されました。本作発表以降もエミットとクリスの友人関係は続いていたのでしょうね。

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