Terence Boylan「Terence Boylan」(1977)
AOR的SSWの名作
あのアサイラムから1977年に発表されたテレンス・ボイランのアルバム。その容姿からしてジャクソン・ブラウンのフォロワーと思われますが、よりAOR的な音作りが堪りません。
個人的にデイン・ドナヒュー唯一の作品「Dane Donohue」が大好きなのですが、そのプロデュースがテレンス・ボイラン。本作は間違いなくデイン・ドナヒュー的な音と思い、いつかは聴いてみたいと思っていたアルバムです。
またジャケットも非常に不思議な世界観を感じさせるものです。永らく入手困難なアルバムで、ちょっとミステリアスな存在でしたが、10数年前に再リリースされ、今では比較的容易に手に入るようです。
さてさて本作ですが、もう1曲目から期待を裏切りません。ちょっと重たいドラムのフィルインから始まる①「Don't Hang Up Those Dancing Shoes」。
ドラムはジム・ゴードン。ベースはチャック・レイニー。サビでは美しいコーラスが聴こえてきますが、ティモシー・シュミットが参加しております。ギターはディーン・パークス、フェンダー・ローズにヴィクター・フェルドマン。そしてピアノにはドナルド・フェイゲン。ご存知のようにテレンス・ボイランとドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーは同窓であり、もともと60年代後半にバンドを組んでいた仲です。
この1977年という時代は、ドナルド・フェイゲン率いるスティーリー・ダンの超名作「Aja」が発表された年でもあります。この「Don't Hang Up Those Dancing Shoes」には、そんなスティーリーダン的なクールな音の佇まいが漂っていますね。
②「Shake It」は後にイアン・マシューズがカバー、ヒットさせてます。
ちょっと投げやりで不器用な歌いっぷりがテレンスらしいですね。印象的なフェンダー・ローズはテレンス自身のプレイ。またオルガンにはアル・クーパーが参加してます。
原曲はフォーキーな曲だったんだろうなと思わせる④「The War Was Over」。
タイトルから想像の通りメッセージソングです。ドラムにジェフ・ポーカロ、ギターにスティーヴ・ルカサーと、曲の持つイメージとはちょっと違うプレイヤーのセレクトと感じますね。
テレンスの1969年のデビューアルバム「Alias Boona」ではボブ・ディランのカバーも収録されているフォーキーなものでしたが、この④は音作りはAOR的ですが、字余り的な歌詞といい、ベースがフォーキーなテレンスが現れたものと推察されます。
⑤「Shame」は①と同じプレイヤーですので、これもスティーリー・ダン的な佇まいですね。
この曲はコンピレーションアルバムに結構収録されているので、結構有名な曲かもしれません。③「Sundown of Fools」ではかなりフォーキーなイメージが強調されますが、その対極にあるような楽曲が①や⑤ですね。イーグルス後期の重々しさに、スティーリー的AOR感覚が極上のサウンドを作り出してます。
ライナーノーツを書かれた金澤さんもご指摘されてますが、⑥「Hey Papa」は本作中一番デイン・ドナヒューを連想させる楽曲です。
ドラムはラス・カンケル、そしてベースはリー・スクラー。こうしたスティーリー的AORには珍しいリズム隊ですね。これもギターはスティーブ・ルカサーです。
また⑦「Where Are You Hiding?」は本作中一番ハードなナンバー。
こうした楽曲にルカサーが合うと思うのですが、ギターはディーン・パークスです。リズムが重々しいので気になってみると、なんとドラムは3人のクレジットが・・・。
ジェフ・ポーカロとミッキー・マクギー、そしてテレンス本人。ベースはこれまた意外な人選のウェルトン・フェルダーです。強調されるコーラスはドン・ヘンリー。
本作、プレイヤーのセレクトも興味深いですね。非常にAORとして質の高いアルバムだと思います。
この後、1980年にサードアルバム「Suzy」が発表されますが、これが問題作。もともと1979年に本作の延長線上にあるような「Your Trout Is In The Mail」というアルバムが発表される予定が、延期され、かつ当時流行ったニューウェーブサウンドを取り入れてしまい、「Suzy」が発表されてしまいます。「Suzy」は未聴ですが、B面は本作の延長線上のような楽曲らしいです。
時代の波に揉まれてしまったテレンス。確かにイーグルスもドゥービーも、皆時代に応じたサウンドを採り入れ、そして80年代に解散していってしまいましたね。
本作はそんな切なさをも連想させるアルバムです。
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