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The Beach Boys「Friends」(1968)

1968年のビーチボーイズは燦燦たる状況でした。
マイク・ラブがインドの瞑想の第一人者であったマハリシ・ヨギを信奉していたことは有名ですが、この年の5月からスタートしたビーチボーイズの全米ツアーは、なんとマハリシ・ヨギの講演がセットとなっておりました。今から考えると有り得ない企画ですが、この時代ならでは…ですね。このコンサートの多くが大学が会場となっていたようですが、相当な不評を買い、なかには数えるほどしか観客が集まらなかった会場もあったようです。

そしてこのツアーは、今回ご紹介するアルバム「Friends」のプロモーションを兼ねたものでした。本作は1968年6月に発表されたものですが、当時はこの作品の本質を理解出来るファンは少数で、商業的にも失敗に終わってしまいます。ただこのアルバム、ソフトロック的にはなかなかの良作で、近年は結構評価が高い作品なんですよね。

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ビートルズには3人の超有能なメロディメーカーが居りましたが、ビーチボーイズにははブライアン・ウィルソンひとり。かつブライアンの場合は特にこの時期はメロディよりもサウンドコラージュ(アレンジ)に妙味があって、そこを理解しないとなかなかこのアルバムは味わえないかもしれません。本作は完全に初期ビーチボーイズとは別物であり、非常に穏やかなソフトロックと捉えた方がいいでしょうね。更に言えば、天才ブライアン・ウィルソンが全作品にわたって関与した最後のアルバムなので、クオリティの低い他のメンバーの作品でもブライアン風味が塗されております。

オープニングの①「Meant For You」はわずか38秒。でもしっかりとブライアンらしい美しいメロディが楽しめます。これは②「Friends」へ続くイントロ、もっと云えばアルバムのイントロ的な楽曲とも云えます。実際、当時①「Meant For You」~②「Friends」がメドレーとなったプロモPVが制作されておりました。
「Meant For You」ではマイクが瞑想しているシーンが…。この曲自体が心を穏やかにさせてくれますね。
続く「Friends」は本作中、一番有名な曲でしょう。ずっと友達でいようと歌われるこの曲は、珍しくブライアン、デニス、カール、アルの共作。お気づきでしょうか、共作者にマイク・ラブの名前はありません(笑)。マイクがビートルズと一緒にインドで瞑想中に隙に、4人で作った佳曲。マイクのいない4人が作った曲が「Friends」というのも意味深です。天使の声、カールのヴォーカルが冴えるワルツ調の名曲。ふくよかなコーラスが織り成すアレンジ、楽器の使い方とか、聴けば聴くほどソフトロックの名曲だなあと感じます。

ブライアン単独作の⑥「Passing By」は歌詞がありません。
この曲には元々歌詞があったようですが、それをカットして、すべて「アー」としてしまってます。これが曲中のブルース・ジョンストンが弾くオルガンと相俟って、とても愛らしい仕上がりになってます。未完成のような曲にも聞こえますが、それがこのアルバムに収まると、イイ感じに聞こえるんですよね。

デニスがビーチボーイズに提供した初の本格的な作品の⑧「Little Bird」。
これが意外にもいいんですよね。兄貴であるブライアンはデニスがこの作品を持ってきたとき、その出来の良さに驚いたらしい。ブライアンも気合を入れてアレンジしたんでしょうね。途中ストリングスが絡んでくるところとか、ドラムがアクセントになるところとか、かなりビートルズっぽい。

天才ブライアン作のビーチボーイズ初のボッサ・ナンバーの⑩「Busy Doin' Nothin'」。
コレ、かなり私のお気に入りです。ヴォーカルもブライアン。アコギとドラムは完全にボサノバ・スタイル。この曲なんかは完全に初期ビーチボーイズとは全く違うサウンドですが、ソフトロックとして捉えると、こんな素敵な曲はそうそうないと思います。イントロとエンディングのパートなんか、アレンジが実にオシャレですね。

ブライアン流ハワイアンなインストナンバーの⑪「Diamond Head」。
もちろんベンチャーズとは同名異曲。この曲を初めて聴いて、コレがビーチボーイズの曲と分かる人はいないと思います。それくらいかなり驚愕のインスト。ブライアンとこのレコ―ディングに参加したセッションミュージシャンとの共作。どうもブライアンはパーカッションで参加しているらしい。アレンジもブライアン主導で行われたんでしょうね。でないとビーチボーイズとして発表するにはあまりにもBBらしくないナンバー。ブライアンの頭の中のダイヤモンド・ヘッドって、こんなサウンドとして捉えていたんでしょうね。

どうでしょう…、なかなかこの作品の判断に迷うのではないでしょうか。私は最近ようやくこのアルバムの面白さに気付きました。もちろん全くこのアルバムは苦手という方も多数いらっしゃると思います。
この後、ビーチボーイズは低迷期に入りますが、ライヴバンドとしての実績を地道に積み上げ、70年代のベストアルバムのヒットでまた陽の目を見ることとなります。
ちなみに「Meant For You」は後にブライアン自身が1995年発表のソロ作でカバーしております。そちらもどうぞ。


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