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細野晴臣「TROPICAL DANDY」(1975)

70年代の日本の音楽シーン、その進化の過程において、ティン・パン・アレーの活躍が最も重要なことだったと思うのですが、特に1975年に発表されたティンパンが演奏に関わった3枚、小坂忠ほうろう」、荒井由実 COBALT HOUR」、そして細野晴臣Tropical Dandy」は今でも燦然と輝く誉れ高き名盤で、確実に日本の音楽シーンを変革した3枚だと思います。

申すまでもなくティンパンとは細野晴臣(B)、鈴木茂(G)、松任谷正隆(Key)、林立夫(Ds)の4人をコアメンバーとした集団で、細野晴臣の1973年に発表されたファーストソロアルバム「HOSONO HOUSE」がそのキャリアのスタートとされてます。そしてその音楽的な中心は間違いなく細野さんだったのではないでしょうか。

とにかくタイトル曲「ほうろう」でのソリッドなベース、これまたタイトルトラックの「COBALT HOUR」での唸りを上げるベース。どれも中心は細野さんのベースでした。その細野さんが発表したセカンドソロアルバム。これがまた、その2曲とは全く違った側面を見せたものだったんですね~。

まずジャケットからして怪しい(笑)。明らかにプロコルハルムの「A Salty Dog」をパクッたイラスト。わかる人にはわかるユーモアですね。そしてご丁寧にもMade in Tin Pan Alleyの文字も。音楽は誰もがビックリのトロピカルなナンバーを中心としたもの。

1曲目からして意表を付くナンバーです。グレン・ミラー・オーケストラで有名な①「Chattanooga Choo Choo」。
原曲はスウィンギーなナンバーなんですが、これを見事にニューオーリンズ・サウンドに仕立て上げてます。ここでのグルーヴィーなドラミングは林立夫。私はこの曲、60年代のソフトロック・グループのハーパーズ・ビザールのドリーミーなヴァージョンしか知らないのですが、それをここまでアレンジしてしまうとは・・・お見事です。

癒しの1曲、②「HURRICANE DOROTHY」。
ハリウッド映画「ハリケーン」をモチーフとした楽曲。ドロシーとはもちろん、この映画に出演していたドロシー・ラムーアのこと。あのブンブン唸っていたベースは陰を潜め、すっかり癒し系ミュージック、でも実はリズムはファンクの香りがベースとなっているような気がします。その辺が天才細野晴臣の力量。ファンクとカリプソをここまで昇華してしまった。スゴイです。

③「絹街道」はイントロからチャイニーズミュージックぽい展開。
西遊記のイメージの楽曲なので、それをうまく表現してます。しかしこの曲、キリンジがやりそうな楽曲。今聴いても、全く色褪せていない、お洒落なナンバーともいえますね。

エキゾチックムード満点、まさに熱帯夜に聞いてみたい④「熱帯夜」。
ここでの音楽での表現力、すごいですよね。完全にロックを超越したものを感じさせます。間奏のさざ波のBGMもgood!

続くナンバーはタイトルからしてズバリ⑤「北京ダック」。う~ん、素晴らしい。これもティンパンの演奏がありました。やはり林さんのドラミングが秀逸です。鈴木さん、バンジョーを弾いているんでしょうか。しかし楽曲もユーモラスで楽しいんですが、演奏しているメンバーも楽しそう。

このアルバム、ニュー・オーリンズやトロピカルでエキゾチックな音を聴かせてくれてきましたが、最後にJT(ジェームス・テイラー)を思わせるフォーキーなトラックが収録されてます。それが⑧「三時の子守唄」なんですが、前作「HOSONO HOUSE」の頃に作られた曲なんですね。実はこのアルバムの中で、私が一番好きな楽曲なんですよね。

天才、細野さんはこの後本作を含むトロピカル3部作を呼ばれる作品を発表後、YMO結成に至ります。ちなみに細野さん、一時期、多摩美術大学美術学部芸術学科客員教授も務めておりました。

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