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B.J. Thomas「Billy Joe Thomas」(1972)

レコード・コレクターズは後になって貴重な資料となり得ることが多いですね。特集されるアーチストは表紙や背表紙に記載がありますが、実はここに記載がなく、小さく扱われていた記事の中にも、貴重なものが紛れていたりします。今回ご紹介するアルバムは、そういった小さなインタビュー記事に制作経緯が書かれていたものでした。答えていた方は本作のプロデューサーのスティーヴ・タイレル。記事は2006年4月号に掲載されてます。スティーヴ・タイレルという方、日本ではどれだけの方が認識されているでしょうか。その方のインタビュー記事を載せているレココレは、やはりマニアックだなあと思った次第。

さて、本作の主人公、B.J.トーマスですが、一般的には「Raindrops Keep Fallin' On My Head」の人ですよね。映画「明日に向かって撃て」の挿入歌、バカラック・メロディが美しい名曲ですが、B.J.は本来はメンフィス・ソウル的な曲を得意としていたシンガーでした。ところが「雨にぬれても」の思わぬ大ヒットで、世間一般的に(スティーヴ曰く)ダサいイメージで捉えられてしまいました。「この当時、世間でウケていたのはレッド・ツェッペリンやボブ・ディラン、ジミー・ウェッブ、キャロル・キングといった方々の楽曲。だったらそういう人たちの楽曲を集めて、作者本人にも参加してもらおう」とスティーヴは考え、当時としては時代のずっと先をいくような作品、すなわち本作を仕上げたとのこと。

実際このアルバム、渋めの曲が多いので、一聴しても良さが分からないかもしれませんが、何回か聴いていくと、実は非常に味わい深い作品だということが分かってきます。そんな素晴らしいアルバムですが、どれだけの方々が本作の存在をご存じでしょうか。未聴な方は是非一度、本作に耳を傾けてほしいと思います。

そんな地味な存在となってしまっている本作ですが、実は山下達郎が本作をフェイバリットな作品として挙げております。そこでピンと来た方はマニアックな方です(笑)。本作参加のドラマーのアラン・シュワルツバーグは、達郎さんのデビューアルバムに参加しているドラマーなんです。そうです、達郎さんは自身のお気に入りのドラマーを器用していたんですね。

まずはこの素晴らしい作品から最初にご紹介する楽曲は、本作中一番有名な②「Rock And Roll Lullaby」。バリー・マン&シンシア・ワイル作の超名曲ですね。ここではバリー・マンがエレピで参加。非常に印象的なギターはトワンギン・ギターの名手、デュアン・エディ。そして中盤からのビーチボーイズ風のコーラスが最大の聴き所。実際にビーチボーイズに打診したようですが、断られたみたいですね(そんなビーチボーイズも後にピンクレディーの作品にコーラスで参加するという実績はあるのですが)。ということでコーラスはブラッサムズ等が担ってますが、このコーラス、いいんですよね。曲そのものいいですが、そのアレンジが素晴らしい楽曲です。

スティーヴィー・ワンダーの名作、③「Happier Than The Morning Sun」はニック・デカロのバージョンでも有名ですね。
この曲も大好きなんですよ。しかもこのバージョンはスティーヴィー本人がハーモニカで参加。素晴らしいアコギはプロデューサーでもあるアル・ゴルゴニ。このバージョンが何より素晴らしいのはエンディングと思ったら、リズムチェンジする中盤からの展開。ちょっとアーシーでゴスペルタッチ。いいですよね。こちらのコーラスもブラッサムズです。

山下達郎が「死ぬほど好き」と明言していたバリー・マン&シンシア・ワイル作の⑤「Sweet Cherry Wine」。
死ぬほど好きと言わしめるほどの曲かなあ…と最初は思ったのですが、何度も聞いているうちに、まるで日本の演歌みたいにしみじみくる曲だなあと感じます。B.J.トーマスの太い声が心に響いてくるんですよね。皆さんはどう感じられるでしょうか。

本作中、一番ソウルフルなナンバーが⑦「A Fine Way To Go」。
誰の作品かお分かりでしょうか。実はキャロル・キングなんです。そして本人がピアノで参加してます(間奏でリリカルなピアノソロを披露してます)。ちょっと意外じゃないですか。でも確かにこの当時、キャロルはソウルに接近していた時期なんですよね。
この曲も最初聴いたときは、スルーしちゃうくらいの印象だったんですが、よく聴くとホーンもキャロルのピアノも実にカッコいいし、ファンキーですよね。このファンキーなリズム隊はドラムはロン・タット、そしてベースは当時のキャロルの夫のチャールズ・ラーキーです。

⑧「Just As Gone」もだんだんと好きになってきた1曲。
こちらはカントリー系ミュージシャンのウェイン・カーソンの作品。ウェインはエルビスの代表曲のひとつ「Always On My Mind」をマーク・ジェームス等と作った方。そしてこのアルバムにはマークも2曲提供してます。ウェインはギターで参加。硬いベースはジョー・オズボーンを思わせますが、カーク・ハミルトンのプレイです。最初の ♪ Don't you go crying ♪ の歌詞から引き込まれます。メロディがいいんですよね。実に味わい深い…。

そしてエンディングはカントリー&フォーキーな⑫「The Stories We Can Tell」。こちらはラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャンの作品です。カントリー好きな私にとって大好きな1曲。如何にもジョンらしい楽曲ですよね。
ジョンはアコギで参加。コーラスはプロデューサーのスティーヴ・タイレル。ハーモニカはバリー・マン。印象的なスティール・ギターはプロデューサーとしても著名なピート・ドレイクです。

実はこのアルバム、まだまだご紹介したい曲があるので、是非機会あればチェックしてみて下さい。他にもポール・ウィリアムス、ジミー・ウェッブ、マーク・ジェームス等が楽曲提供、そして参加しておりますので。

そんなB.J. トーマスも2021年5月に亡くなられていたんですね。
B.J.は「雨にぬれても」だけではありません。他にも素晴らしいアルバムを発表しておりますので、また機会があればご紹介したいと思ってます。

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