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Billy Joel 「Piano Man」 (1973)

ビリー・ジョエルといえば70年代以降に大成功したシンガーソングライターとして有名だし、「Stranger」に代表されるようなニューヨーク・サウンド(というような音楽ジャンルはありませんが)のイメージが強烈ですが、今回ご紹介するのは、そのビリーの成功前夜のアルバムです。

ビリーは1971年にアルバム「Cold Spring Harbor」でデビューを果たしますが、これが全く鳴かず飛ばず。またこのアルバムはビリーの声を加工するため、勝手に録音テープの回転速度を若干上げた形で発表されてしまい、ビリーは人間不信から鬱病に陥ってしまいます。そしてビリーは逃げるようにニューヨークからカリフォルニアに移住し、そこでピアノの弾き語りで生計を立てていきます。
ビリーに転機が訪れたのは1973年。フィラデルフィアのFM局がビリーの「Captain Jack」をヘビー・ローテーション入りさせ、それがフィラデルフィアでヒットします。それがコロンビア・レコード関係者の耳に入ることとなり、ビリーは無事コロンピアと正式契約、アルバム「Piano Man」にて再デビューを果たすこととなったのです。

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プロデュースはマイケル・スチュアート。彼は60年代に活躍したWe Fiveのリーダーであり、モンキーズのDaydream Believerの作者でもあるジョン・スチュアートの実弟。プロデューサー業としては、ケニー・ランキンの代表作「THE KENNY RANKIN ALBUM」なんかも手掛けてますが、やはり本作でのプロデュースが一番有名かもしれません。
それよりもっと注目したいのは本作参加のミュージシャン。ギターはラリー・カールトンディーン・パークス。ベースはウィルトン・フェルダー。アコーディオンはマイケル・オマーティアン。ドラムスはロン・タット(エルビス・プレスリー・バンドのドラマーとして有名)。当時、ラリーやウィルトンはクルセイダーズのメンバーとしても有名だったので、コロンビアのビリーに対する本気度がよく分かります。

本作の1曲目は「Piano Man」ではなく、①「Travelin' Prayer」というカントリースタイルのナンバーです。
ビリーに対してニューヨーカーってイメージのある今、この曲を聴くとかなり意外な感じがします。ドラムはブラシを使ったカントリースタイルのプレイ。しかも途中からバンジョーやフィドルまで飛び出してきます。カントリーが大好きな私としては嬉しいナンバーですが、フィル・ラモーンのサウンドに慣れたファンにとっては、この曲はどう受け止めるのでしょう。でもピアノパートは確実にビリーらしさが出てますね。この曲は後にカントリーの大御所、ドリー・パートンもカバーしてます。

そしてビリー一世一代の名曲②「Piano Man」。もちろん前述の通り、彼がピアノの弾き語りで生計を立てていたことがモチーフとなったナンバー。
哀愁漂うピアノ、そしてハーモニカから入るイントロから直ぐに歌の世界に引き込まれてしまいます。ワルツのメロディーの誘われて、いつの間にかPiano Man=ビリーと同化してしまいます。自分がPiano Manになったような気持ちにさせる素敵なナンバーですね。素晴らしい!
アップしたPVも素敵です。

本作の中では地味な作品かもしれませんが、④「You're My Home」がフォーキーで味わいがあり、個人的には結構お気に入りです。
ビリーの曲にしては珍しくスティール・ギターがメロディを引き立ててます。随所に(エレキ)ギターも顔を出しますが、ギターの音色からして、ラリー・カールトンのプレイでしょうか。
アップしたのは1981年の珍しいライブ映像。バックはビリー・ジョエル・バンドですね。

⑤「The Ballad of Billy the Kid」はタイトル通り、西部開拓時代の強盗、ビリー・ザ・キッドをモチーフとしたナンバー。
イントロこそ、のどかな西部開拓時代を思わせる雰囲気ですが、楽曲自体は組曲風の壮大なナンバーです(馬の蹄の音は、ライヴではビリーが口で演奏してます)。曲と曲の間をロン・タットのリズミカルなフィルインが効果的に繋いでいきます。オーケストラも加わり、かなりアレンジは派手ですね。このアレンジなんかは、後のGRPのデイヴ・グルーシンなんかがやりそうな、かなりフュージョン寄りなもの。この曲もラリー・カールトンのネチッこいギターが聞えてきますね。

最後はエンディングの⑩「Captain Jack」を。こちらがビリーの転機となった1曲。
デビュー当時に書かれたナンバーで、当時、ニューヨークのアパートに住んでいた頃、キャプテン・ジャックと呼ばれていた麻薬のディーラーのついて歌ったもの。ストーリー・テラーのビリーらしいナンバー。また楽曲も前述の「The Ballad of Billy the Kid」のような大作となってます。
後に初期の楽曲はライブアルバム「Songs In The Attic」として発表されてますが、そこからの音源をアップしておきます。

本作はビリーの熱い想いが詰まった好盤です。但しビリーが今のようなスーパースターの仲間入りをするのは、もう少し時を待たなければなりませんが…。

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