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Don Nix「Living By The Days」(1971)

先日、デラニー&ボニーの「Home」を記事にしてから、そのプロデューサーでもあったドン・ニックスのセカンドがヘビーローテーション化しております。
ドン・ニックス…、スワンプ好きならお馴染みの方。でも一般的にはあまり知名度が高くないので、ご存じない方も多いのではないでしょうか?

ドンはハイスクール時代、あのスティーヴ・クロッパードナルド・ダック・ダンと同級生で、後に彼等とマーキーズというバンドを結成します。この時、ドンはサックスを担当しておりました。1961年、このバンドがスタックス・レコードの前身となるレコード会社と契約し、ヒット曲も発表していきますが、ドンは脱退。スティーヴとドナルドも後に脱退し、ブッカー・T・ジョーンズらとブッカー・T&The MG’sを結成します。一方のドンはレオン・ラッセルと知り合い、ロスアンゼルスでプロデューサー、アレンジャー、ミュージシャンとして活動、その後再びメンフィスへ戻り、スタックス・レコードと契約し、その際にプロデュースしたのが前述のデラニー&ボニーの「Home」だったわけです。

そしてドン自身も盟友レオンのシェルター・レコードと契約し、1970年にデビューアルバムを発表しますが、商業的な成功には至らず、この1作のみでシェルターを離れ、エレクトラ・レコードと契約し、このアルバムが制作されます。

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プロデュースとアレンジはドン・ニックス自身。前作に続いてサザン・ロックのメッカ、マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオでの録音。旧友のドナルド・ダック・ダン(B)も参加。他、マッスル・ショールズのミュージシャン、ロジャー・ホーキンス(Ds)、デヴィッド・フッド(B)、ジミー・ジョンソン(G)、バリー・ベケット(Key)の通称「スワンパーズ」が全面参加。かなり濃厚なスワンプ、ゴスペルなロックが堪能出来る名盤です。

まずそのサウンドにビックリしたのが⑨「My Train's Done Come And Gone」。
これはザ・バンドそのもののサウンドですね。コーラスがゴスペル風なので、よりスワンプ臭がします。ドンのヴォーカルもザ・バンド風。ロジャー・ホーキンスのドラムって結構好きなんですが、そのグルーヴ感もザ・バンドのリヴォン・ヘルムと似てますね。リヴォンの方が年長者でキャリアも少し長いので、ロジャーも意識していたのかなあ。後にリヴォンのソロアルバムにロジャーは叩いてますしね。

ということでエンディング曲から先に紹介しちゃいましたが(苦笑)、アルバムトップは①「The Shape I'm In」。なんとザ・バンドに同名異曲がありますね。ちょっとはドンもザ・バンドを意識したのでしょうか。
オープニングナンバーに相応しい厳かなオルガンで始まります。このゴスペル感も半端ないですね。歌詞もメロディも米国南部の歌って感じです。

素晴らしいロックンロールナンバーの②「Olena」。
ホンキートンク調のピアノがいいですね。このテのスワンピーなロックンロールは大好物です。こうした楽曲にはちょっと武骨なドンのようなヴォーカルがいい味だしてます。

ハンク・ウィリアムス作のカントリーの名曲③「I Saw The Light」のカバーが本作のハイライトでしょうか。ロジャーが牽引するリズムが重い。そして豪快なゴスペル風なコーラス。なんだかヘビーなドラムに負けないくらいコーラスが怒鳴っているくらいに聞こえます。

こちらもザ・バンド風の④「She Don't Want A Lover (She Just Need A Friend)」。
イントロのギターの音が気のせいかビートルズの「Let It Be」のサウンドに似ている。よく考えたら「Let It Be」もベースにゴスペルサウンドが効いているような気がします。ドンのこちらの曲もサザン・ソウルとゴスペルがうまくブレンドされてます。

翌年、1972年、ジェフ・ベック・グループがドンの作品「Goin' Down」を採り上げます。「Goin' Down」が収録されたアルバム「Jeff Beck Group」のプロデューサーがスティーヴ・クロッパーだったので、スティーヴからの繋がりがあったのかもしれません。そしてこの縁により、ジェフ・ベックが翌年結成したバンド、ベック・ボガード&アピスのデビューアルバム「Beck, Bogert & Appice」ではドン自らがプロデュースまで務めております。
ちなみにこのアルバムにはドンの楽曲が2曲収録されてます。その内の1曲「Black Cat Moan」はアルバムトップに収録されたナンバーで、かなりジェフがソウルフルな演奏を聞かせてくれます。

この後、ドンは数枚のアルバムを発表してますが、玄人志向なのか、商業的なヒットには至っておりませんね。また2013年に初来日もされているんですが、当時、予定していたバンドメンバー4名の内、2名しか来れず、急遽2名が加わった編成の覚束ない演奏だった模様。長年裏方でやっていた方で、ライヴ慣れしていないのか…、なかなか強烈なエピソードです。

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