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【読書感想文】宮部みゆき『誰か』

こんばんは、ゆのまると申します。

積読を崩そうシリーズ第一弾。

部屋の隅に積まれていた本書を引っ張り出してきたものの……読み終えた今、正直戸惑いを覚えています。

のほほん婿殿・杉村三郎は、果たしてこの辛く厳しい社会で生きていけるのか?と。


これまで読んできた宮部作品には、思慮深く、忍耐強く、目的達成のためには多少強引な手を使っても構わないという人物が多く描かれていました。登場する人物も警察官や探偵が多く、彼らのストイックさに私は惹かれていました。

対して今作の主人公である杉村三郎は、今多コンツェルンの大事なお嬢様、菜穂子と「逆玉」に乗り、会長直属の広報室で働く社内報編集者。

もともとは児童書の編集を手掛けていたこともあり、『小さなスプーンおばさん』を愛し、気を抜くと物思いに耽りがちな人畜無害なタイプ……というふうに、私の目には見えました。

本書では、今多コンツェルンの会長お抱えの運転手が自転車の轢き逃げ事故に遭い、遺族と協力しながら杉村もその犯人を探していく、という筋書きになっています。

あらすじはシンプルですが、読んでいる最中、私はずっと不穏な気配を感じていました。収まりが悪い、ソワソワする。この人は、いつか裏切られて痛い目に遭ってしまうんじゃないか、そんな不安が消えませんでした。

杉村は見たところ「いい人」で、美しい妻と愛娘と幸せな日々を過ごしています。たとえ、逆玉に乗ったことで実家と距離ができようと、就業後に飲みに誘ってくれるような同僚がいまいと、お嬢様育ちの妻と埋めようのない生育環境の差を感じようと――しばしば非現実感に揺れながらも、彼は彼なりに、今の幸せな生活を一生懸命守ろうとしているのです。


結末で明かされる事実は、言ってしまえば後味が悪いし、思わず「ひどい……」と声が出てしまったくらいでした。

しかし私からすれば、そんなひどい所業をした人たちの方がよっぽど人間味があるように見えるし、一方で悪意の欠片もないような杉村の方が心配に思えてしまいました。

杉村三郎シリーズは、現在5巻まで刊行されていて、続刊のタイトルは『名もなき毒』。

「ど偉い会長さまの、のほほんとした婿殿」は、これからも社会の荒波の中で生きていけるのか。

ほんのりとした薄気味悪さを感じつつも、おそらく次巻も読んでしまうのでしょうね。これまでと少し違う宮部ワールドから、相変わらず抜け出せそうにありません。



ところで、ある相手からの着信音を「恋におちて」にするのはあからさま過ぎるんじゃないですかね……?コワイ女だ。

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