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噛み切らずロングパスタを美しく食べる方法  ~音も美味しさにしてしまう日本の食文化

 ロングパスタ(スパゲッティ)は、普通はフォークで食します。イタリアが本場の料理ですが、マナーとして、すすってはいけない というのは知れ渡っているので、下品なおじさん以外は、ズルズル音を立てて食べる人は少なくなりました。(こういうおじさんは、残念なことにコーヒー飲む時もズズーとかヒューとか音を立てます)
 ただ、まだ巷でよく見かけるのは、一口で入らない分を途中で噛み切ってお皿にポトっと落とす紳士淑女。吸っちゃいけないからと言っても、口元から食べ物を落とすのもマナーに反します。それに食べ終わる頃のお皿には短い破片が残ってしまい、醜いですし、これをフォークだけできれいに片づけるのは容易ではありません。
 途中で噛み切らなくてはならないのは、一度にたくさん巻き付けるから。ちょうどお口に入るくらいの大きさにコンパクトに巻き付ければいいのですが、コツは、巻き付ける本数を少量にすること。ほんの2、3本引っ掛けて、麺のかたまり本体からいったん引き離し、お皿の端でフォークを立ててくるくる回します。まとわりついてくるのもあるから結局1回でくるくるするのは5,6本。お皿の背の代わりに、スプーンを使ってもいいですが、イタリアではわざわざスプーンを使う人はあまり見かけません。巻き上がりの端が垂れ下がってブラブラするのを抑えるのは、最後、端の部分を下にしてフォークを倒し気味にお皿に軽く押し付けるようにすると上手くまとまります。
 最初に引っ掛ける本数は、少な過ぎると今度はうまく巻けなくなります。特にオイル系のアルデンテの場合は、巻き方があまいと口に持って行く途中でほどけてしまうので、クリーム系の時よりも多めの本数にしたらいいでしょう。またフォークの大きさやパスタの太さによってすくい上げる本数は微調整しましょう。
 これで、結果としてズルっと吸い上げる必要は無くなるので、音のマナーも同時にクリアできます。

 一方で同じ麺類でも日本蕎麦を音を立てずにモゴモゴ食べるのは、味気ないですよね。「スーズルッ」と落語家が扇子を箸に見立てて出す音は、小粋でいかにも美味しそうだし。日本の食文化というものはよくできたもので、「味(舌)」や「食感(舌触り)」、「香り(鼻)」、それにヌーベルキュイジーヌとして西洋料理に影響を与えた「盛り付け・見栄え(目)」だけでなく、「音(耳)」までも、美味しさの要素になって出来上がっているのですね。少し前に咀嚼音(食べる音)の投稿が流行りましたが、「カリッ」、「パリッ」、「サクッ」という軽快な音は、食欲をそそる欠かせない音ですよね。音を立てる食べ方はもっぱら下品という西洋の食文化と大きく異なる点で、日本食は五感で美味しさを楽しむ世界的にも珍しい食文化ということになります。もっとも日本でも「クチャクチャ」食べるのはお行儀が悪いのは同じなので、口に入れる瞬間に限った話で、『音も美味しさにしている食べ物や料理が日本食には存在する』ということなのでしょう。

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