実話怪談【無題】 1 記憶

※場所、人物の特定を避けるため、一部仮名等のフィクションを加えています。

この話は彼にとって、そして僕にとって、未だ完結していない。きっと、完結することはないのではないかと思う。
そのためタイトルはあえて付けず、無題とする。

2011年。話は、まだ小学校という場所が世界の全てだった幼少期まで遡る。

同級生に加藤くんという男の子がいた。

正しい言葉かどうかは分からないが、彼は少し変わっていた。

人前で、一切声を発さないのだ。

今考えると残酷な話だが、まだ幼い僕を含めたクラスメイト達はそんな彼を面白がって、半ば虐めに近いような仕打ちをしていた。

時には、無理やり笑わせてやろうとちょっかいを出したりもした。
すると彼は、顔をそむけ笑いを堪える仕草をする。

僕らは、さらに彼を追い詰める。

正直、彼が苦手だった。
合唱コンクールでも歌わない。
授業で先生に名指しされることもない。
足が悪いのか、全校集会ではいつも椅子に座っている。
まだ幼かった僕は、そんな彼に腹を立てることが頻繁にあったように思う。

そんな日々が続き、小学5年生から6年生になった春に彼は転校してしまった。


それ以来、校内で彼の名前を口にする者はいなくなった。

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