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他人の視点を共有すると起こること

「ここに何かあるよ」
その絵を目にした瞬間にモデルとなった女性の視線が気になった。視線の先に何があるのか。空間。時間。彼女のモデルをしながら、考えていることに想いを馳せる。
同じを絵を見ていても、最初に目に飛び込む事柄が違う。「見た目が9割」というベストセラーがあったけれど、人が最初に見るところは、実に多彩で感じ方も違うから、9割を占めるという印象を良くするためには、チェック項目が山のようにありそうだ。

対話型鑑賞とモーニングツアー

1つの絵を見て感じたことを参加者で共有し合う「対話型鑑賞」というのを体験してきた。それぞれが話をするので、美術館の開館前を利用したモーニングツアーだ。
今回伺ったのは、倉敷にある大原美術館

8時前の倉敷美観地区は、お天気の良さも重なって爽やかな雰囲気。

美術館の前の景色がすでに絵だ。
影の長さで陽の光の位置がなんとなくわかるだろうか。

対話型鑑賞を知る

館内は撮影禁止だが、今回のモーニングツアーのことを広く知っていただきたいというお気持ちから、ご報告ブログを書く分のみ撮影および掲載許可をいただいた。
この絵こそ冒頭の文章の場面である。
何枚かの作品でメンバーが変わりつつ、対話型鑑賞を行ったが、似た視点、全く気づいていなかったところに着目する視点などを知り、より興味が湧く。

参加者は音声プラットホームVoicyのチャンネル「田中慶子の夢を叶える英語術」のリスナー
という共通項がある。(一緒に来ている家族は除いて)普段のコメントやTwitterのやり取りでなんとなく価値観や視点を共有したりもしているメンバーだ。

それでも「直感」とも言える、真っ先に気になったことが多種多様で、各々の「視点」や「気になること」が違うことが如実に表れていた。

絵を介することの良さ

モーニングツアーの後半、違う価値観を共有するのに、1枚の絵を使うことの良さを感じていた。1つの物事に意見し、話し合う時、頭の中にはすでに各自のフィルターを通ったものがある。時には、違うものについて語り合うようなことも起こりうる。
しかし目の前には1枚の絵だ。
別の誰かが、最初に気づくところは違っても、話を聞くと“確かにそこにある”のだ。素直に納得し、多種多様な、視点を受け入れることができる。そうして「価値観の共有」ができ、視野が広がる。

絵は高尚なもの?

若い頃、絵は高尚なものだと強く思っていた。いや、今も少し思う。
描き手の価値観に共鳴する人が多い「名画」とされる物の話ばかり美術の時間に聞いたせいだろうか。気軽に楽しんではいけない物のように思っていたのだ。
絵は描き手の目を通して感じた空間をキャンバスに残している。想いや考えを感じに、絵の前に立つ。黙って静かに品よくいたい。
けれど今回の対話型鑑賞では「品よく」よりも「素直」でいるように心がけた。参加メンバーも口々に話していたからだ。
素直になるだけで、美術館が気軽に楽しめる空間になった。不思議である。
そうして話をしている間、こんなにも長く絵のことを考えたことがないことに気づく。1人で絵の前に立ち、自己との対話で感じることも悪くない。けれど、他人の視点を共有することで、頭の中にある感覚が他者との比較で「言語化」されるようになるのも、自分の新たな部分に気づけるのもまた、心地よいことだと知った。

大原美術館の凄さ

大原美術館は、もともと日本人がもっと「西洋絵画」を直接見ることができるように、と考えた大原孫三郎氏が、集めた絵画が並んでいる。
絵の才能がある児島虎次郎さんの渡欧を支援し、技術の研鑽をしつつ、良いと思った作品を選んでくるよう促したことを考えると「本物に触れる」「目を養う」目的もあったのかもしれない。
エル・グレコ、モネ、ゴーギャンなど中学高校の美術でも習うような有名な画家の作品を目にすることができる。同時に「若手」の日本人画家の才能を見出し、所蔵。今や誰もが知るアーティストの初期の作品もまた並んでいるのだ。
こんな近くに、芸術分野に疎い私でも知るような方の本物の作品があるとは、と驚く。
さらにそんな美術館が、日本で最初の西洋美術中心の私立美術館だとは。この話はまた別で書こうと考えているが、理事長である大原あかねさんの話を聞けば聞くほど、大原美術館も倉敷美観地区も「興味深く」「複雑」で「単純」な一度では理解できない深さがある。
大原美術館は、沼である。一度足を踏み入れると、少しずつ足が沈んでいく。沈んでいるのがわかっているのに、深さを知りたくてそのまま沈みたくなるよう。

「対話型鑑賞」は、その時の自分の心のうちでも口から出てくる言葉が違う気がする。時を経て、同じメンバー、違うメンバーと共に体験したい。



押江千衣子さん こだま

とても好きだなぁと思った展示作品の葉書。展示されているその前に立つと、光が差して体温が上がるような絵。
ハガキに関して個人的なストーリーがあり、これもまた大切な思い出に。

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