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52HzのSOS

『大丈夫?』
「大丈夫だよ!」
『なら良かった』
『何かあったら言うんだよ』
「ありがとう!」

ねえ、どうして訊いたの?
言ったところで何が変わるわけでもないのに。
大丈夫なのかと訊かれたら、大丈夫だと答える以外ないじゃない。大丈夫じゃないと言ったところで何も変わらないのだから。惨めな自分に絶望するだけなのだから。
言わない方が身のため、じゃないの?

何度拒絶された?
何度否定された?
どこに行ってもお荷物にしかならない私。
ここにいる意味、ある?
私が私でいる意味、ある?
パッと消えてしまえば、それでおしまい。
きっと私のいた場所は他の誰かが埋めてくれる。
一人で泣く夜と眠れないまま迎える朝に、どんな役割があるというの?

52Hzの声を持つ鯨は、一頭で広い海の中を泳いでいるんだって。
たった一頭で、広い広い暗闇を。
きみに友達はいるのかな。家族はいるのかな。
もしきみが助けてって言ったら、誰か来てくれるの?
きみが「大丈夫」って言ったとき、「大丈夫じゃないでしょ?」って隣で一緒に泳いでくれる他の鯨はいるのかな。

一人の私と一頭のきみ。
私は、SOSが届くまで叫べるのかな。助けて、はいつか届くのかな。
きみの声は、いつか誰かに届くのかな。それまで君は歌っていてくれる?
高くて澄んだその声で。
私が一人じゃないって思える日まで。
きみが孤独じゃなくなる日まで。

私たちの52Hzが届くまで。

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