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早朝にて

 不意に
 目が覚める。
 そして私の口が動き出し、

 …まただ。

 と私は思う。
 その口の動きはとても滑らかで、ハッキリと話すけれども、何を言っていたのか、私はすぐに忘れてしまう。
 ここ最近、この存在はこうやって、毎朝のようにやって来ては何かを少しだけ話して、居なくなる。
 それで私は、目が覚めてしまう。
 部屋の中は薄っすらと明るい。
 外はもう、太陽が登り始めているのだろう。
 隣ではアキが、寝息を立てているので、まだ時間が早いのだと分かる。
 この存在はとても不思議で
 口だけではなく、私の腕も動かして、何かを舞っているような動きをしたり、印のようなものを結んだりする。
 私の持っている、「勝手に口が動く」という、特殊能力のせいだ。
 そして彼は、こんな早朝の時間にしかやって来ない。
 変わってるなぁ。
 と、思いながら、彼の儀式のようなものが終わるまで、ぼんやりとされるがままになっている。
 ぱたん
 と、腕の力が抜ける。
 どうやら終わったようだ。
 枕元のスマホを手にして、ライトをつける。
 浮かび上がる時間は、
 5:08。
 やはり、早い。
 私は再び眠ろうと、布団の中に潜り直す。
 まだ、起きるのには早くてもったいない。
 そうして目を閉じて、夢うつつの中に入っていこうとしたその時
 ビジョンが浮かぶ。

 綺麗な、緑色の玉。
 色んな色が少しずつ入っていて、それが更にその玉を美しく魅せている。
 その玉の周りには、流れるような風のイメージ。
 淡く、優しい色合いで、玉の周りを流れている。

 そんなビジョンが浮かんだと同時に

『人間に盗まれた』

 という想いが湧いてきた。
 …これは私の想いではない。
 これは…今来ていた存在のものか?
 彼は言う。
 この、緑の綺麗な玉を盗まれたのだ、と。
 この玉の中には神様がいて、とても大事なものだった、と。
 それを人に盗まれた。
 そしてこれを、取り返したいのだとも。
 そう、言っている。
 …これを私に、探して欲しいということなのだろうか。
 分からない。
 ただ、なんとも言えない切ない感情が、私の中に残っている。
 私は寝ていられなくなって、もそっと身体を起こした。
 …うん、トイレにでも行こう。
 気持ちを少し落ち着かせるために、私は部屋を出てトイレへ向かった。
 向かいながら、その想いの主へと言葉をかける。

 それはもう、戻せないモノなのではないか?
 この世界は変わりゆくもの。
 物(者?)に対して、エネルギー体で存在するあなた方が、執着のような気持ちを持つことなど、あるのだろうか…?

 そんな言葉を、私は彼にかけている。
 しかしこれでは…何も救われないし、報われない。
 どうしたもんかな…。
 そう思いながらも、私は用を足すと部屋へ戻り、再び眠りについた。

 こんな時には…
 やはり、スピリチュアル仲間に相談するのが早い。
 その日、たまたまLINEで連絡してきたスピ友を捕まえて、私は早朝来る存在と、今朝視たビジョンの話をして、

「これについて、視てくれると嬉しいんだけど」

 と聞いてみる。
 彼女は快く、良いよ、と言ってくれた。
 しばらくして、返事が返ってきた。
 その内容はこうだった。

 やって来たのは、大地のエネルギー。
 人に奪われたモノは、そこにあった穏やかな時間。環境。
 全てが愛おしく、大切なものだった。
 それは神様のように、尊いものだった。
 2度と、戻せない。
 2度と、戻らない。
 人がそれ(玉)を壊したせいで、浮かばれない想い(存在?)が、今だに空を漂っている。

 そんなメッセージを受け取ったそうだ。
 そしてそれは、もうどうしようもない事も、分かっているけれども
 誰かに知って欲しくて、やって来たのだ
 と
 その存在が伝えたのだそうだ。

 私はそれを読んで、胸がいっぱいになる。
 涙が溢れそうになる。

 こうやって、自分の想いを誰かに知ってもらいたい、受け入れてもらいたいと願うのは
 人も、見えない存在も、同じなのだ。
 他者に知ってもらう事で、想いは、感情は、浄化されていく。
 たとえ現状が、何も変わらなくても…。

 この世界の全ては循環の中にあって
 どんなものだろうと、生まれたものはいつかは壊れ、還り、また新たなエネルギーとなって生まれいでる。
 壊れゆくものを、どんなに儚んだとしても。
 そうであるからこそ、永遠に存在し続けることが出来るのも
 またこの世界の真理の1つなのだ。

 しかし、そんな真理を識っていたとしても
 何かを失う苦しみや哀しみを分かっているだけに、この世の真理が恨めしく思う気持ちが無くなることは、ない。
 同じようにまた
 彼のその、深く切ない想いは、そんなに簡単に癒えたりはしないだろう。

 なぜなら
 幸せであれば幸せなほど
 大切であれば大切なほど
 失った苦しみや哀しみは、大きいのだから。

 私もその循環の中にいて、ちっぽけな1人の人間である以上、出来る事はほんの僅かなことばかりだ。
 こうして、私の身に起きた出来事を、言葉を使ってこの世に現すことと
 ただ、祈ることだけ。

 この世界に存在する
 全ての悲しみ、怒り、苦しみ、痛みが
 少しでも癒されますように、と。

・おわり・

*実話を元にしたフィクションです。
*エンターテイメントとしてお楽しみください。
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