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毎日400字小説「喫煙ルームにて」

    会社の喫煙ルームで高校の時の同級生が死んだというラインを読んだ時、文字通り私は息ができなくなった。スマホに目を落としたまま、何も考えられず、ただ茫然と固まった。死んだ同級生と私は高校時代、恋人同士だった。彼女のほうから告白され、しかし付き合いはひと月で終了した。私のほうは心を残していたが、彼女は別の同級生と付き合い出した。振られた理由はいまだにわからなかった。
「岡崎さん」という部下の声で我に返った。「どうしました?」灰になってしまったタバコを灰皿に捨てる私に、後から来たその部下は言った。少し好意を寄せている子だった。が、年も十も違うし、上司と部下のまま、この先どうなることもないだろうと思っている子だった。同級生が自殺したんだ。アイコスを吸い出した彼女に言おうとしたが、同情を利用しようとしていることに気づいて止めた。私は黙って新しいタバコに火をつけた。まだ、彼女のことが忘れられないみたいだった。

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