お盆は過ぎましたが心霊スポットの話
お盆も過ぎて、ちょっと季節はずれの話題かもしれないけれど、心霊スポットの話。
大学生の夏休み、友人の部屋に集まって他愛のない話で盛り上がっているうちに、いつの間にか心霊スポットの話になった。そこでわたしが生まれ育った場所の近くにある結構有名な心霊スポットの話をしたところ、みなが喰いついてきた。
そこは一風変わった場所なので、話を聞いたら興味をもつひとが多い。そして一人が今から行こうと言いだした。クルマは親のクルマを出すという。
とはいえ時刻は零時になろうとしていた。京都市内からそこまでは二時間ぐらいはかかる。わたしは乗り気になれず、また今度にしようよと言ったがみなはすっかり乗り気で、いまから行こうよの一点張りだった。
言わなきゃよかったなと後悔したけれどもうあとの祭りである。そしてこれ以上やめようと言っても無駄だなと思った。結局は四人でその場所に向かった。
道中の車内ではわたしを除いてみんなすっかりピクニック気分である。高速道路を西に向かい一時間走り、一般道におりてわたしが運転を代わり、三十分ほど走るとその場所に近づいた。
そこは山道だから、夜になれば漆黒の闇に包まれるという表現が大げさではないくらい暗くなる。人家もない。深夜になればクルマの往来もほとんど無くなるから、心霊スポットなんて関係無しに充分薄気味悪い。
ヘッドライトの灯りがアスファルトを照らす。真っ黒に塗りつぶされた闇の中をわたし達の乗るクルマは進んでいった。さっきまでの浮かれたムードはすっかり影を潜めてしまい、いつの間にかみな無言である。そして車内には異様な緊張感が漂いはじめていた。
このままいけば二三分程度で着くだろうというあたりまで来たときに友人の一人が引き返そうと言いだした。どうしたのと訊くと、得体のしれないヤバい感じがするという。すると他の二人もなんかヤバそうだよねと言いだして、戻った方が良いんじゃないかという雰囲気になった。
ちょうどその頃に目の前にその心霊スポットの黒い影が見えてきた。友人の一人がもうやめよう、まじで怖い!と言った瞬間にドリンクホルダーに入れていたコーラのペットボトルの蓋がパシッ!と吹き飛んで勢いよくコーラが噴き出した。
誰かが悲鳴をあげた。つられて他の二人もパニックになり、狭い車内に悲鳴が鳴り響いた。
そして咄嗟に急ブレーキ&Uターン。まさしく飛ぶようにしてそこから逃げた。
しばらく走ったところにあったコンビニの駐車場に滑り込み、クルマを停めて、何が起きたか分からずにしばらくの間クルマの中で呆然としていた。ひとりは泣いていた。泣くぐらいなら心霊スポットに行こうなんて気安くはしゃいで言うんじゃねーと薄情なわたしはイライラしながら思った。
あのときはすべての暗闇がわたし達に敵意を向けているのがはっきりとわかった。そこには得体のしれない恐怖がはっきりとあった。
運転席の足元にコーラのペットボトルの蓋が落ちていたので拾ってみたらきれいに真っ二つに裂けていた。こんな風に真っ二つに裂けるなんてあり得る?と見ているうちにじわりと恐怖心が湧きあがってきた。
それから怖くてたまらなくなって四人で昼まで一緒に過ごした。ペットボトルの蓋とボトルはどこかに捨てた。
そして、お祓いしなきゃまずいよねと皆で言いあった。ところが…
二三日すると面倒になってきた。わざわざ神社に行ってお祓いしてもらうだけでも結構な金額がかかるのである。別にそこまでしなくてもいいんじゃないかという気分になって、結局誰もお祓いにはいかなかった。
だって冷静になってよくよく考えてみたら現地にはたどり着いていないのである。気配こそビンビンにヤバかったけれど、幽霊らしきものも見ていない。それにこんなことを言ったら身も蓋もないが、心霊現象とか祟りとかって非科学的でしょ?という話である。
あれだけビビり倒していたのは一体なんだったのか。喉元過ぎれば熱さを忘れる。じゃあコーラの蓋のアレはどうしてなのか。正常化バイアスが発動して、こういうこともあるんじゃね?と無視。
だが、その後四人に異変が起きた。
その中のひとりは半年後に彼氏と別れ、二年後に就職浪人した。そしてもうひとりは妻子持ちとは知らずに惚れた男とズルズル付き合う羽目になった。三人目は夜遊びがたたって留年し、最後のひとりは四年後にコロナに感染して一週間めっちゃ苦しんだ。
もしかしてこれはあのときの祟りなのだろうか。
いやー、全然関係ないと思うよ…
そしてあれから七年経つが、みな元気でピンピンしている。
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