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徳島 本藍染に触れる旅

藍色が好きで

好きな色を問われると3つ答える、「藍・白・山吹」色だ。

それぞれの色に魅力があるが、藍色の魅力は深く落ち着いた色合いが、不思議と心を沈めてくれるところだ。情熱とは対極にあるような、そんな色だと思う。

藍で染められたものは、経年と共に少しづつ色褪せたりする。時を共に歩んできたことを実感させてくれるから愛着が沸いていく。

だから、藍色は大好きな色の一つだ。

ただ "藍色" が好きなだけだった

日本で織物を染めるのが藍染め、海外でデニム生地に使う糸を染めるのがインディゴ染め、くらいのてきとーな理解で「俺、藍染好きっちゃんねー」と言っていたのだが、ある時どうやら違うらしいことに気づいた。

インディゴ染めは、現在では広く化学合成したインディゴ染料で糸や生地を染め上げることを指すようだ。インディゴ染めは染まりは早いが色が深く定着しないため、デニム生地のように染料が落ちていきやすいらしい。

藍染めは、"蒅(すくも)" と呼ばれる、蓼藍を乾燥→発酵・熟成→乾燥させたものを原料として染料を産み出し、織物を染め上げる。インディゴ染に比べて染料の製造と染めの工程に手間がかかるが、色が深く定着し、色移りしづらく防虫などの効果もあると言われる。

"本藍染" とは、江戸時代に確立された伝統的な藍染の技法で、天然の素材のみを使って発酵させた染料を用いるため環境にも人にも優しいが、大変に手間とコストがかかるらしい。それゆえ生産面の合理性からインディゴ染めに押され、現在では余り用いられない技法になっている。

本藍染で染められた織物は、見つめていると吸い込まれそうなほどに深い藍色に染まる。

本藍染矢野工場との出会い

私が "本藍染" をはじめて知ったとき、徳島県が吉野川が生み出す土壌のおかげで日本最大の藍生産地であることや、江戸時代「大事なものは "阿波藍" で染めろ」と言われるほどの一大ブランドであったこと、阿波藩の藍商人は長者番付にずらりと並ぶほど隆盛であったこと、そして現代に生きる国選定阿波藍製造技術無形文化財保持者・藍師の佐藤昭人氏の名を知った。

それをきっかけに、この記事を見つける。

佐藤さんの作った蒅で、本藍染を体験してみたい。先ほどの記事にも登場した本藍染矢野工場を訪れることに決めた。

藍染教室の生徒さんたちと

本藍染体験の前日に徳島入りし、鳴門市→吉野川市→美馬市など各所を訪問した。関東から2月初旬に徳島を訪れる人は珍しいらしく、地元の方々とお話しする機会が多かった。

翌朝工場に到着すると、毎週金曜日は藍染教室を開催しているとのことで、生徒さんたちも続々と到着。

矢野本藍染工場

大谷焼の藍甕がずらりと並んでいて、工場内は染料が放つ独特の匂いがする。蓋を開けると藍の華 (記事の冒頭にある写真) が浮かんでいることを知っているので、早く開けてみたくて仕方がなかった。

工場内をうろうろしていると、蒅らしきものが桶のなかに。蒅は運搬しやすいよう藍玉と呼ばれる、小さく固形にしたものが流通すると聞いていたが、産地に近いためかそのままの状態のように見える。

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染めるために持ち込んだTシャツを計量し、染料がよく浸透するようにするためだろう、工場の方が奥の水場で洗ってくれた。

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↑染める前の写真撮り忘れた

画像出典元:https://zozo.jp/sp/shop/zozochiba/goods/44022291/?rid=1006

藍の染料は肌に残るため(特に爪によく浸透する)工場の方にゴム手袋の着用を勧められたが、せっかく天然灰汁発酵建てによる本藍染を体験できるのだから、とこれを断って素手で体験することにした。

いよいよ藍龜の蓋が開けられ、藍の華はザルで手際よく取り除かれた。織物を亀の底に落としてしまわないよう、竹籠が沈められる。

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この竹籠のなかにTシャツを襟首の方から沈めていく。そうすることで空気が裾の方からうまく抜けるため、しっかりと染料に沈めることができるのだ。あとは途中で浸透させた染料が空気に触れないよう、しっかりとTシャツを沈めた状態で染料を揉み込んでさらに浸透させていけばよい。

染料から引き上げると、Tシャツは黄土色の液体でひたひたになって上がってくる。固く絞って広げ、空気に触れさせることで藍色に発色する。この工程を30分ほどかけて6回繰り返すと藍龜を移動する。藍の染料はある程度使ったら、休ませてやる必要があるそうだ。次の藍龜でさらに6回、染めの工程を繰り返すとしっかりと濃紺に染め上がった。

本藍染矢野工場の藍色は上質で、見る人が見れば街中でも一目で見分けがつくらしい。生徒さんたちは絞りの技法を用いて模様を入れたりしていた。みなさん腕も良く、上質な生地を染めているので発色が早く、より深く綺麗な藍色に染め上がっていたように思う。

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↑光をカーテンで遮った室内では深い藍色

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↑明るくした窓際では表情が変わる

本藍染の歴史や技法について話を聞きながら体験するつもりで行ったのだが、藍染教室の生徒さんたちとワイワイ他愛もない話を交えながら染め上げていった。徳島の地域のことや住まいのこと、家族のこと、仕事のこと、故郷のこと。阿波弁でワイワイ話されると、こちらまで楽しくなってしまい自分も喋り過ぎた。

とてもいい時間だった。

本藍染後の手

↑本藍染を終えた後の手


本藍染に興味を持った方へ

本藍染矢野工場のホームページでは少々分かりづらい点もあったので、下記を参考にしてください。

1.事前予約はFacebookメッセンジャーでも可能

ホームページでは電話とFAXを案内していますが、Facebookメッセンジャー(https://www.facebook.com/yanokozyo/)でも対応していただけます。

9:00〜10:00開始の午前中のみ、午後は体験をやっていないため旅程を組む際に注意が必要です。

2.染めるものは持ち込み可能、ただし "重量" 課金制

阿波藍の本藍染は、上質な材料と正統な伝統技法を用いる高級品です。よくある普通のTシャツ1枚を染めるのに、¥9,500ほどかかりました。持ち込みの品を計量してもらい料金が確定します。"重量" 課金と書きましたが、使用する染料の "従量" 課金ですね。

クレジットカードやPayPayでの決済も可能なようです。費用を抑えたい方は、現地でハンカチを購入することができます(体験料込、税別¥1,600〜)。

3.大事なものを阿波藍で染めよう

あくまで体験だからと手頃なものを持ち込むのではなく、綿100%(縫い糸にも注意)の質のよい織物を事前に準備して持ち込むのも良いかもしれません。

私は今回の体験の全てに満足していますが、この1点をしっかり準備しなかったことをけっこう後悔しています。勿体無かった。。

4.工場の方に勧められるがまま、手袋はちゃんとしよう

私のように工場の方のアドバイスを断って素手でやる人は極めて少数かと思いますが、ホームページの真っ青に染まった職人さんの手を見てちょっとテンション上がった人、悪いことは言いません。あとが大変なので工場で準備してくれている手袋をしましょう。染料を完全にガードしたい人は、肘ほどまであるゴム手袋などを持ち込むとより安心かと思います。

爪は色が残って落ちないですよとは言ってくれますが、素手でやりたいというと「よしっ!それがいいと思う!」と背中を押してくれた工場の方、最高でした。

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↑翌朝の爪

さいごに

本藍染矢野工場のお二方、教室に通われている生徒の皆さん、素敵な時間をありがとうございました。またいつの日か、大切なものを染めに藍住町に伺いたいと思います。

おまけ

鳴門市の「味処 あらし」

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鳴門市の「味処 あらし」の鳴門鯛の刺身は最高です。鳴門わかめたっぷりでほのかにゆずが香る味噌汁が、またとてつもなく美味い。寒ブリの誘惑に打ち勝って王道の鳴門鯛食べといてよかった。

吉野川市の「阿波和紙伝統産業会館」

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それから、ぜひ吉野川市の「阿波和紙伝統産業会館」にも足を運んでみてください。常設の展示物の点数はそれほど多くないのですが、職人さんが阿波和紙を漉く様子を見学したり、和紙漉きを体験することができます。スタッフさんが「アワガミお好きなんですか?」と訪ねてきたときの嬉しそうな表情が今でも思い出されます。

ミュージアムショップの商品がとても充実しています。一点一点、表情の異なる和紙から気に入ったものを探すのはきっと楽しいはず。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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