か「」く「」し「」ご「」と「/住野よる

ネタバレを含む可能性がありますので、読了後の方推奨です。
かといって、本の要約ではありません。
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登場人物がたくさんでてくると、誰が誰だかわからなくなる。
容姿の説明や、口癖などでなんとなく人物像が出来上がって、読み進めていくにつれて頭で考えなくても識別ができるようになる。

私の妹は人がいっぱいでてくる本が苦手で、いままでに伊坂幸太郎のギャングシリーズ、三丁目の夕日を返却された。わからなくもないが、私は人と人が繋がっていく物語を好むゆえ、この苦手はもったいないなと思うけれど。

この『か「」く「」し「」ご「」と「」』は、5人の登場人物がでてきて、かつそれぞれ独特なニックネームに加え特殊な能力も持ち合わせているものだから、2章までは全然入り込めなかった。

とはいえ、(読了後の感想)

ところで、なぜこんなにもややこしいニックネームで物語を進める必要があったのかを少し考えてみた。で、少し考えてみたらあっさり答えがでた。

ああそうだった。私だって、苗字や名前に関係ないニックネームで、当たり前のように友達を呼んでいた。
高橋くんのことを「ボブ」と呼び、もはや本名が思い出せないが、ちびまる子ちゃんにでてくるキャラクターに似ているからと「野口さん」と呼んでいて、平田くんのことは「ちゃま」と呼んでいた。なにも文字ってない。由来はあるのだろうけれど、それが当たり前のように広まるからすごい。

そういえば私も、小中学生のころに「かっぱ」と呼ばれていた。図工の時間に紙粘土で好きな動物を作るという課題の時にかっぱを作ったことがきっかけだったとは思うが、それが当たり前となり、返事をしていたのだから、この本の分かりづらいと感じた世界を否定してはいけないような気がした。

そしてかっぱは、動物ではなく妖怪だ。

早起きして、わざわざ学校へ行き、勉強をする。それはそれは面倒極まりなかったその日常に、青春とやらが隣り合わせだった。
にじの麓と同じで、その中にいると気づけないもの。尊いもの。大人だから分かるようになってしまった。

ちょっぴり特殊な能力を持ち合わせた5人が自分だけが見えてる世界を隠しながら教室にいる。もしかして、こういう世界が見えてないのは私だけなんじゃないかと思うくらい、当たり前にその世界のなかで暮らす5人。

すべてがわかるわけじゃないけど、少しだけわかるからこそやっかいで、悩んで、でも進んで、足りないものは友達の存在が補ってくれたり、満たしてくれたり、納得、理解をしようとする。

中学生の修学旅行の夜、眠たい目をこすってどうにかオールナイトに参戦して、好きな人を教えあった。自分から言う、というよりみんなが当てていく、みたいな感じで、1発で当たる子もいれば、えぇぇぇ!と驚きを隠せない相手の名前がでてきたり。

つまり、どういうきっかけでその人を好きになるのか、どんなところが好きなのか、それは驚くほど本人にしかわからない。

パラはさっきコンビニで買ったピノをふたをべりっと開けると、三つを指で連続口に放り込み、「あとはあへる」と言って、残り半分を容器ごと私にくれた。

こんな豪快なパラが言っていた。「ミュージカルの舞台裏だけを見せられているみたいだ。」と、周りからはあきらかなのに、当人たちがからまわりしていることも、よくある話だ。

自分のことは自分が一番わかってない。
でも、自分の思いや考えは言葉にしないと相手には伝わらない。

このもどかしさが、40人そこそこの集まる教室にある日常で、5人のちょっぴり特殊な能力も決して特別でもなければやっかいなものでもない。

そんな、大人になった私たちにもあったような気がする、そんな物語。


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