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映画「天国と地獄」をU-NEXTで見ました。モノクロかと思いきや。

映画「天国と地獄」を見ました。面白かったですね。身代金を渡す場面は知識として知っていたのですが、物語の前半なんですね。権藤という製靴会社の常務の息子が誘拐されたと連絡が権藤にきます。しかし、誘拐されたのは権藤の運転手の息子でした。ちょうど誘拐事件の直前に、会社の株の大部分を取得し、会社の支配権を握ろうとしていた権藤。お金は手元にあるが、それを使えば会社の株を取得できないどころか、抵当に入れた家も奪われる。他人の子供にお金を払うのかどうか、その選択をサスペンスとして前半は描いています。ほぼ権藤の家しか出てきません。後半は、身代金を渡した犯人を追う話です(犯人を捜すパート。犯人を特定して追うパート)。

犯人を追う話も面白かったですが、ほぼ権藤の家の中で前半の権藤の葛藤だけで持たせる前半はすごいですね。後半は、警官や誘拐された子供が描いた絵などの証拠が、きちんと犯人逮捕につながっていて見ている方としては気持ちよかったです(現実ではこうは行かないと思いますが)。推理ものの教科書のような展開です。権藤が製靴会社の叩き上げの人間というところも、きちんと意味があって犯人逮捕につながっています。警察が提案し、権藤が仕掛けた企みが、モノクロのなか赤い煙としてでできます。

犯人は医学生で犯行に及んだ理由が「自分が住んでいる狭い部屋から、丘の上に立つ権藤の白い家が見えた」からだそうです。個人的な顔見知りではないのです。犯行理由が怨恨でないって、なんか新しい感じですね(新しいというか、珍しい)。原作があるから同じかもしれないですが、当時はこの犯行理由はどう思われていたのでしょうね(山田風太郎の太陽黒点とかも、こんな感じでしたっけ? 読んだのが10年以上前だけど、にた印象。格差を扱っているからかな)。と言っても、医学生ならまともにきちんと歩んでいけば、まずまずお金はもらえると思うのですが、これは現代的な感想ですかね。権藤もまた、見習い工からの叩き上げで決して最初からお金持ちでなかったことと、格差の思いから犯罪を犯した犯人と比べると、どうしても犯人に同情はできないですね。そのために三人も人を殺しているし。

このまま捕まえても犯人に対する量刑が軽いから(誘拐だけでは)と言って、殺人の証拠をつかむために犯人を泳がせる。捕まえらだからいいけど(いや、その間に人が死んでるし。遅れたから、権藤が家を失ったかもしれないので、よくないか)、「こんなのいいのか」と思いました。この点だけはどうかと思いました(当時のことはよくわかりませんが)。証拠をつかむための犯人追跡の最中、ヘロイン中毒者が集まる場所が映されます。当時、社会問題になっていたのでしょうか? けっこう衝撃的な映像ですね。この麻薬についてや、当時急激に経済が発展したことによる格差、など当時の世相を描いてもいるのでしょう(格差といっても、当時は権藤に代表されるように自らの力で這い上がることもできた。翻って今はどうでしょうか? 色々、現代的に見ても色々考えさせられますね)。新聞記者にも、警察は一部のことを黙っていて欲しいと言っています。この点については、警察の方が正しかったと思いますが(犯人に殺人が成功したことを知らせてしまう)、こんなことできたのでしょうか? ここでは正しいとは思いますが、警察が取材の制限をしていいのかというとまた別問題ですが(警察という組織にとって都合が悪いことまで制限してしまう可能性もあるので)。

昔何かの本で、黒澤明監督はカラーになって苦しんだという記事を読んだ記憶があります。昔は「カラーの方がいっぱい色使えていいじゃん」と単純に思っていたのですが、いま黒澤明作品を見るとわかるのですが、モノクロという形で完璧な色彩設計ているのですね。モノクロでの色彩設計が素晴らしいが故に、多様な色が使えてしまうカラーで苦しんだのかな、と考えます(これは私がデザインを勉強したから見えてきたことだと思います)。顔のアップはほぼなく、だいたい一画面に多数の人が映っていますが、目立たせる人がキチンと目立っていて「画面の構図がすごいな」と思ってしまいます。38分頃の権藤の妻が話す場面。遠近かで権藤の奥さんを挟むように、二人の警官が配置されています。その二人が、視点を絞る効果を出していて、奥さんに目線が行くように映しているんです。すごいですね。権藤の妻の台詞が終わって、権藤が妻に近づくと、二人の警官は動いてその構図を崩します(カメラの位置は変わりません)。全て計算されていることがわかります。そのあと権藤が椅子に座る場面では、権藤の動きに合わせてカメラが下に下がります。横に動くのは他の映画でも見たのですが、上下に動くのは(あったと思いますが)今まで、他の映画で気づかなかったので書きました。1:37:00ころ、捜査担当主任の戸倉が動く場面、カットが分かれているのに前後のカットの動きが続いているものなので、まるでワンカットのように見えた。後半、主犯の竹内がヘロインを買う場面、レストランよのうなところで人がいっぱいいてごちゃごちゃしているのに、誰を見るべきか一発でわかるんですよね。本当すごい。2:01:00頃、画面としては三層に分かれていて、第一層が全体的に暗く、第二層に見るべき人たちがいるのですが真っ白の服で、目立っていて「ここが見るべきところ」と一発でわかります。その後ろの第三層は灰色気味です。モノクロの画面の作り方がすごい。そのあとの場面も、一番後ろにいる犯人が白く、他もモノクロです。この後の踊っている場面(ヘロイン引き渡し場面)も、何を見るべきわかりやすいです。犯人は白いし、犯人追っている刑事は皆が踊っている中、踊っていないので目立ちます。1:02:00頃の、権藤の屋敷を見せてから(白く輝いて見える)、カメラを下げて黒い川映してそこに犯人(ここではまだ誰かはわかってない)が映っている構図は、映像で格差を見せていて素晴らしい構図ですね。映像といえば、上述した煙突から赤い煙(ここだけカラー)が出てくるところも、もちろん良かったです。こうやってみると、みる人がわかりやすくするために、ものすごい工夫をしていることがわかります。

映像のことばかり書いてますが、物語も素晴らしかったです。前半のひとつの場所で会話だけで作られるサスペンス、中盤の犯人を捜査する過程(突飛な推理から犯人を見つけるわけではありませんが、地道の捜査で見つけていく過程が良いですね)、最後の犯人を追う過程(そこから見える、麻薬中毒者たちが集まる場所や、犯人のことを考えれば格差が生まれていることが想像されます)で、見せられる社会的問題。捕まった後の犯人の言葉。シナリオも完璧と思います(警察がわざと犯人泳がせるのは、どうかと思いますが)。素晴らしい作品でした。

タイトルの「天国と地獄」は何を表しているのですかね。権藤と犯人の竹内のこと。権藤が住んでいる場所や、竹内の住んでいる場所、ヘロイン中毒者がいる場所の比較。大きな会社の常務から、小さな会社の社長になった権藤の境遇。色々な意味が込められているのでしょうね。


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