記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

映画「マイ・エレメント」を見てきた。他者を好きになる過程が丁寧描かれている。

映画「マイ・エレメント」を見てきました。楽しみました。
火、水、土、風。この四つを擬人化(エレメント)した世界での物語。物語の主人公は火のエレメントの女性「エンバー」と水のエレメントの男性「ウェイド」。火と水、交わらないはずのエレメントの二人の間に愛が生まれるお話しでした。

この物語はテーマがたくさんあるような気がします。恋愛、それもまったく違う背景をもつ者たちの通常であればありえなであろう恋愛。
親子関係、エンバーは父の夢である「娘に店を継がせる」ということを自分の夢と思っています。エンバーはそれが自分の夢でなく、父の夢だと気づいてしまいます。そして、父は違うエレメントとの恋愛など認めるようなエレメントではありません。夢、エンバーは父の夢を自分の夢と思って生きてきました。しかし、「ガラスの芸術家」になれるということを認識してしまいます。差別、火のエレメントはこの世界では一番差別されているようです。一番、火という一番他者を傷つける可能性があるエレメントだからです。
ウェイドは仕事で悩んでいる描写はありますが、これはテーマというより「役割り」「物語に必要な設定」程度ですね。エンバーの悩みはそれを乗り越えたり、それを考える描写がありますが、ウェイドの悩みにはそれがないです。それが「テーマ」と「設定に止まっていること」の違いなのでしょう。
エンバー、ウェイドとともに感情が豊かです。エンバーは少し怒りっぽいですね。ウェイドは感動で割とすぐ泣きます。性格はエレメントの性質にもよっているようでもあります。その性格の豊穣さとテーマが乗算され、多様な動きの可能性を見せていて、飽きさせません。上手いですね。
もちろん動きも素晴らしい。絵が美しいし、エンバーがバイクで疾走する場面、など良い場面が沢山あります。大きな動きだけでなく、エンバーがウェイドを好きになっていく過程をみせる小さな動き(演出)も素晴らしい。
エレメントという形態のために、形が変わったりする動きも良いですね。これがアニメーションの素晴らしいことですね。実写では表現が難しい(表現はできるけれど、物語の必然性があるように表現すること)ことができる。センス・オブ・ワンダーとでもいうのでしょうか。自分の知らない世界を見せてくれるのが、本当に素晴らしい。狭い道を通る場面とか、エンバーが火の力を使ってガラス細工を作るところとか。

火と水は交わらない。作中でも説明がありますし、まあ絵を見れば人の感情としてそう思うでしょう。エンバーの父は「そんなことは考えられない」と考えてもいます。
火のエレメントであるエンバー、水のエレメントであるウェイド。火と水の二人が一緒にいるだけで、対立の予感が常にはらんでおり、緊張感を持って作品を見させます。常にその予感がはらんでいるので、見ている人を飽きさせないのです。
とはいえ、火と水の関係性において対立はあまり起きません。エンバーが、ウェイドの家族に会う場面があるのですが、ウェイドの親族は火のエレメントであるエンバーに対しては屈託なく親交を深めようとします(しかし、これは本人たちは意識すらしていないでしょうが、この世界での立場が水の方が上であるがたの傲慢さから来る余裕ではなかろうか、と考えなくもありません。逆に言えば、火のエレメントの他エレメントへの攻撃性は立場的な弱さからくる防衛とも考えられなくもありません)。水のエレメントはおおらかのようです。それは排除される経験がある火のエレメントと、ほぼ危険性がなくこの世界で受け入れられている水のエレメントの違いかもしれません。

エンバーが自分と違うエレメントであるウェイドに対して、どのように好意を抱いていくのかが丁寧に描かれていきます。好意を抱くには一緒に行動しなくてはいけないわけですが、その過程も物語の作為みたいなものを感じさせず見せてくれます。
ラストの水の氾濫の場面は、ちゃんと水を防いでいたガラスを確認すれば防げただろうと思わなくはないです。裂けていた堤防をエンバーが砂からガラスを作り(この場面は素晴らしい)、裂け目を一時的に塞いだわけですが、そのガラスがいくら強力に見えても、それは一時的なものとみなしきちんと堤防を修復していれば、最後の災害は起こらないだろ、と思いました。しかも堤防って公共的なものですからね。一個人の不注意からの展開なら許容範囲ですが、公的機関が一時的な修復を直さないで放置はあまり納得がいかない。
「大きな事件がないとエンバーと父の問題の解決、エンバーとウェイドの恋愛の成就のきっかけが作れなかったのかな?」と思い、少し作為を感じました。

差別される火のエレメント。違うエレメントのあり得ない愛。親子の問題。自分の出自に対する懊悩。現実世界に当て嵌めようと思えば、当てはめることができます。現実はこの作品のようにうまく解決することはできないかもしれませんが、現実を考えるための前段階としてファンタジーとして、素晴らしい作品ではないでしょうか。見た人がこれを延長し、現実の諸問題に対して考える時、残酷な着地点でなく、理想的であるが優しい着地点を前提に考えるようになってほしいとは個人的には考えます。

物語に多数の主題を持たせ、その主題がために生まれる動き。その動きに多様な可能性を与えるキャラクターの性格。
その主題が表面上の動き(演出)に予感の方向性を規定し、その予感が鑑賞者に対して「期待されるだろう展開」を予測させつつも、キャラクターの豊穣な性格から波瀾も考えさせる。そして絵の美しさと、アニメーションの動き。
常に緊張感を失わせず、作品への集中を途切れさせない(ラスト場面で「作為」を感じた時、少し途切れたけれど。その後は、また感動したからよしとする)。素晴らしい作品でした。

エンバーが差別が故に、小さい頃見られなかった「花」を、エンバーとウェイド二人見にいく場面も良かったです。エレメントだからこその、アニメーション表現あり、ハラハラドキドキもありましたしね。

キャラクターが抱えているもの多いと楽しめちゃんですかね。そこら辺は考える必要がありそうですね。「悩み」とかあると、何かしら自分と重なるところも見つかり、応援したいと気持ちにはなりますね。

更新情報はtwitterにUPしてます! フォローお願いします!
https://twitter.com/yuto_mori_blog
テーマを探求を中心とした映画ブログ書いてます。リンクは下記です。

映画の感想や、小説風の日常の記録でみなさんを楽しませたいと思っています! よろしくお願いします! 楽しめたら「スキ」「サポート」など頂けたら嬉しいです!