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心理的安全性を測りたい

こんにちは、ZENKIGEN Labの水坂です。
今日は、私たちが考える「心理的安全性」の測り方について紹介します。

これまでの心理的安全性の測定

エドモンドソンが提起した議論において、心理的安全性が担保された職場は「職場の仲間が互いに信頼・尊敬し合い、率直に話ができる」状態にあるとされます(第1回ノートのリンク)。エドモンドソンは心理的安全性を測定するために、以下の7つの質問を作成しました(Edmondson 1999)。

1. もしあなたがチーム内でミスをした場合、あなたはたいてい非難される(If you make a mistake on this team, it is often held against you. )
2. チームのメンバーは、課題や困難な問題であっても提起しあうことができる(Members of this team are able to bring up problems and tough issues.)
3. チームのメンバーは、異質なモノを排除することがある(People on this team sometimes reject others for being different. )
4. チームにおいて、安心してリスクを取ることができる(It is safe to take a risk on this team.)
5. チームの他のメンバーに助けを求めにくい(It is difficult to ask other members of this team for help. )
6. チームのメンバーには、自分の仕事を意図的に貶めるような行動をする人はいない(No one on this team would deliberately act in a way that undermines my efforts. )
7. チームのメンバーと仕事をするときに、自分のスキルと才能が尊重され、活用されていると感じる(Working with members of this team, my unique skills and talents are valued and utilized.)

参考URL https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/foster-psychological-safety/

心理的安全性を題材にした研究の多くは、この1999年に作られた調査票をそのまま使ったり、少し改変したりしながら心理的安全性を測定しています。この点に私たちは疑問を感じています。そもそも心理的安全性はチームのメンバー個人の主観的な認識からだけ計測すればいいのでしょうか。また、オンラインでのやりとりの増加や職場環境の変化に伴って、心理的安全性の指標や測定方法自体をアップデートする必要性を私たちは感じています。このような関心から、私たちは心理的安全性の計測に関する新しい方向性を模索しています。

例えば、エドモンドソン自身も心理的安全性は個人と組織レベルで異なることを、2014年に指摘しています(Edmondson & Lei 2014)。

個人レベル

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チームレベル

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ここでは、個人レベルの心理的安全性は上司のリーダーシップを基礎として解釈されており、職場における個人の状態をどのように感じているかという主観値として理解されています。一方で、組織レベルではチーム自体がどの程度相互に信頼・尊敬しあえる場を提供できているかという総合的評価(総合値)が心理的安全性であり、個々人よりも「場」に焦点が当たっているといえます。このように、個人と組織の心理的安全性は概念的に異なるにも関わらず、どちらも同じスケールを用いて測定されていることが少なくありません。

私たちが考える心理的安全性の測定

これまでの多くの心理的安全性に関する研究では、チームのメンバーへのアンケート調査によって、主観的に心理的安全性が高いか低いかを、「総合値」および「主観値」(個人的認知を基礎とした指標)として数値化しています(Slemsen 2009など)。しかし、私たちは「場」を外部から観察し、心理的安全性を言語/非言語情報から「客観値」として測定する方法を模索しています。


図1

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具体的には、社会的信号処理(Social Signal Processing)(1)や感情認識技術(Affective Computing)(2)と呼ばれる、人間の感情活動や社会性の側面を理解・計算する分野の先行研究を参考に計測技術を考えています。これまでのアンケートや観察の欠点は、場を評価する機会がそもそも限られていることと、それぞれの研究者の解釈を多分に含んでしまうことでした。それに対して、私たちが行うアプローチは、言語/非言語情報に基づき、ある一定の期間は、継続的に自動で評価が行われるため、実際の現場での測定がより現実的になると考えています。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、働き方が多様になり、リモート環境などバーチャル空間でのつながりが増えている今だからこそ、私たちは従来の心理的安全性の指標をアップデートしたいと思ってます。

(1)社会的信号処理(Social Signal Processing)とは、「言語・音声・視線・姿勢・ジェスチャ・生体情報などの複数のチャネルより得られる情報を統合し、人間の情動・態度・個性・ スキル・リーダシップや,人間同士のコミュニケーションのメカニズムといった、人間が行動・コミュニケーションを通じて形成する社会性の側面を理解・計算するための技術」(岡田&石井 2017:915)を指します。
(2)感情認識技術(Affective Computing)とは1990年代に Picard教授(MIT Media Lab)が提唱した分野であり,機械に人の感情を理解させる,機械を感情的に振る舞わせる,機械に感情をもたせることを目標として始まりました。(熊野 2020)

参考文献

Edmondson, A. 1999, “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”, Administrative Science Quarterly 44(2): 350-383

Edmondson, A. & Lei, Z. 2014, “Psychological Safety: The History, Renaissance, and Future of an Interpersonal Construct” Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior 1: 23-43

岡田将吾&石井亮、2017「社会的信号処理とAI」『人工知能』915-920
Siemsen, E. & Aleda, V. et al. 2009 “The influence of psychological safety and confidence in knowledge on employee knowledge sharing Authors” Manufacturing & Service Operation Management 11: 429-447

熊野 史朗, 寺田 和憲, 鈴木 健嗣, 2020「OS-25 Affective Computing」『人工知能』819-823


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