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【ゆのたび。】 02:新潟の奥地にある秘湯『蓮華温泉』は開放感MAXの露天風呂に快感!

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秋の始まる頃だった。

まだ紅葉には少し早い、でももう少し過ぎれば葉も赤く色づき始めるだろうなと思われる、そんな時期。

私は新潟と長野の県境の山の中で車を走らせていた。

新潟の西部の都市、糸魚川から山側へ。そこからしばらく走っているとだんだんと両側から切り立った山の壁が迫ってくる。道は狭くなっていき、うねりも強くなる。

ふと現れた川沿いの温泉地を抜け、道を曲がって細い道へとそれる。そこから十数キロ、細い山道を登った先に、『蓮華温泉』はある。

前々から名前は聞いていて噂も耳にしていたものだから、いつかは行ってみたいと思ってはいた。だが、やはりその行きづらさにどうにも腰は上がらずにいた。

新潟に温泉は数あれど、その中でも蓮華温泉は屈指の秘湯だ。野湯というわけではない、単純に行きづらい温泉なのだ。

そもそも蓮華温泉は行ける時期が限られている。蓮華温泉のある地は豪雪地帯であり、冬季は道路が閉鎖されてしまうのだ。ということで、この温泉に行ける期間は雪が解けきり、点検が終わって道路が開通している時期、すなわち夏から秋にかけてである。例年は7月ごろから開通し、10月の中旬ごろには閉鎖される。。

そしてさっきも書いたが、曲がりくねった細い山道を十数キロも登ることになる。上に行くほど狭くなり、しかも傾斜もついてくる。さらに途中には対向車とすれ違うことのできないくらい細い箇所もある。なかなかに運転へ神経を使う道なのだ。道はすべて舗装をされているのが多少の救いである。

まだか、まだ着かないのか。だんだんとうねる山道に辟易してきた頃、私はようやく最寄りの駐車場へと車を止めることができた。




天空の湯、蓮華温泉へ


到着!


糸魚川の市街地から苦節1時間半くらい?
ようやく蓮華温泉のある場所の近くへと到着することができた。
いや、本当に遠かった。

それもそのはずでこの場所の標高は約1500m弱。ちょっとした低山と同じくらいの標高を車で登ってきているのだ。


最高の温泉日和


天候は最高の快晴。空気も澄んで、遠くの山並みも綺麗に見渡せる。

抜群の眺めに、これだけでも登って来たかいがある気がする。


蓮華温泉ロッジは朝日岳へと登る玄関口だ

蓮華温泉はすぐそばにある山小屋、『蓮華温泉ロッジ』が管理をしている。

温泉に入るにはここで料金を支払うことになる。
温泉は露天風呂とロッジの内湯があるが、それぞれで料金が異なっていて、

内湯と露天風呂両方に入りたいなら、おとな800円にこども500円
露天風呂だけなら、おとな500円、こども200円
内湯だけなら、おとな800円、こども500円

という設定だ。

料金が同じなので、どうせなら両方入れるようにしておくのがお得だ。それに、ここに来ておいて露天風呂に入っていかないのは嘘である。

私も露天風呂に入るためにここまでやってきたのだ。当然800円をロッジにお納めである。


露天風呂を巡る


案内図に、露天風呂の場所が……


さて蓮華温泉の露天風呂だが、ロッジの内湯のすぐ横に備え付けられているような親切なものではない。

露天風呂に入りたいのなら、登山をしないといけないのである。


山道を登った先に4つの露天風呂が点在している

露天風呂は全部で4つある。全部入るには山道を片道で合計15分かけて登らないといけない。温泉に入る前にいい汗をかいてしまいそうだ。

とはいってもそこまで険しいわけでもなく、普通の靴を履いていれば大丈夫だ。登山とはいったが、そこまで身構える必要はない。


第1の湯、『黄金湯』

さて、登山開始だ。

登山道を登りはじめると、さっそく温泉が私に挨拶をしてくれた。

ゴポ、ゴポ、と音を立てて温泉が道のわきで噴出している。この地の底に膨大なエネルギーが埋まっていることが察せられる、大地のしぶきだ。

底から少し登ると、今度は道が二手に分かれる。


黄金湯を目指す

反対側の道は白馬の方へと続いている。間違って登山を開始してしまわないように注意だ。

そういえば、この蓮華温泉から登れる朝日岳からは、日本海へとつながる登山道である『栂海新道』が存在している。海岸から直接高山へと至ることのできるこのルートはなんとも魅力的だ。そのうち歩いてみたいものである。

それはさておき、道を登る。分かれ道から少しすれば、最初の湯船が見えてくる。


到着、黄金湯

到着!

これが4つある露天風呂の一つ目、『黄金湯』だ。

おお、なんとワイルドな露天風呂だろうか。山道のすぐ横で、遮る壁も無いから丸見えだ。
そして当然湯船は一つ。つまりは混浴である。


ちょろちょろとお湯が絶え間なく注がれている

周囲に誰もいない場所に、温泉が湯船へと注がれる音が静かに聞こえていてなんとも風情がある。


湯は鉄分が豊富そうな赤褐色

名前の通り、黄金色に例えてもよい赤褐色のお湯の色だ。どうやら鉄分が多く含まれているようで、湯の注ぎ口を指でなぞってみると茶色い温泉成分が靄となり舞った。なぞった指も嗅いでみれば、もれなく鉄くさい。

さあ、もう待ちきれなくなってきた。早く湯に浸かりたい! 誰もいないのをいいことに服を脱ぎ棄てて、湯の中へIN!


開放感がすごい

おぉ~、ちょうどよい。

外気で多少冷めるのか、お湯の温度はちょうどよいくらいの熱さだ。

首まで浸かれるくらいに湯船は深く、足も伸ばせるくらいに広さもある。
全身浸かれば必然視線は上空へと向き、快晴の青空を存分に眺めることができる。おお、なんと素晴らしい景色だろう。

これは長風呂できてしまう。お湯が注がれるちょろちょろ音が、リラックス効果も与えてくれていくらでも入っていられそうだ。
まさにこの湯の時間は黄金である。

が、ここだけに時間を割くわけにもいかないので己を強いて湯から上がる。
さあ、次の湯を目指そう。


第2の湯、『仙気の湯』

さて、ここで蓮華温泉に入るうえで個人的おすすめを一つ紹介しておく。

それは水着を着ておくことである。

単純に素肌を赤の他人に見せないためというわけではなく、この方が着替えが楽なのだ。

露天風呂は4つあるが、それぞれ距離があって裸のまま向かうことはできない(そういう猛者もいるかもだが)。
だが、いちいち移動の際に服を着直し、到着したら服を脱ぐというのも少々面倒である。

その点、水着はいい。何せ着替えずにそのまま湯に入ればよいのである。
水着だけでなくとも、ラッシュガードなどのような濡れてもよい服を着ておくとさらに移動で抵抗感も無くなるだろう。

そんなわけで、水着を身に着けた私は次の露天風呂へ山道を登る。

次の場所まではそこまで離れていない。山道を少し登ると視界が開けてくる。


地獄谷のような光景。ここから先は立ち入り禁止だ。




仙気の湯はそのすぐそばにある。


仙気の湯


到着! ここが仙気の湯だ。

湯は白濁しており、その中に小さな湯花が舞っている。

さっそく入ろう。他にも男性のお客さんがいたので、ご一緒させていただきます。


最高!

この景色を見てほしい! 透き通った青空の下に深い緑色の雄大な山々! そしてこの眺めを湯に入りながら眺められるという贅沢!

少し熱めの湯ながら、外気が当たって体が冷やせばこれがちょうどいい塩梅になる。体が熱くなってきたら少し体を外に出し、しばらくしたらまた入る。これで無限ループの完成だ。

「私はもうここに半日入っていますよ」

先に入っていた男性客がそんなことを言う。なんという人か、そんな長風呂は私もしたことはない。
でも、この湯ならばさもありなん。私も頑張ればできそうな気がする。

まだまだ入っていたくもあるが、まだ今日一日で入らないといけない湯がある。先も急ぐ私は半日入浴の客に別れを告げて、三つ目の湯である『薬師湯』に向かう。


第3の湯、『薬師湯』

三つ目の湯の『薬師湯』は足場の良くない岩場の道の頂上にある。
湯の中では一番高い場所にある湯だ。

登っていくと、途中に道をふさぐための紐が傍に引っ掛けられていて、そこに掛ける用の看板が置いてある。

「女性入浴中」

薬師湯だけは女性優先の湯だ。蓮華温泉の露天風呂は混浴なので、確かに女性の中には入るのに勇気のいる人もいるだろう。
このような看板があれば、少し安心して入浴ができるかもしれない。

このときはたまたま誰も先客がいなかったので、私は今のうちにと湯へと向かった。


三つ目の湯、『薬師湯』


すごい、こんなきれいな翠色の湯があるのか。透き通る湯の色は宝石のようで、温泉なのに涼しげな印象を受ける。


温度の調整はホースから出る湧き水を使って

この湯の温度はかなり熱めだ。入るのにつらい場合は、近くにある湧き水の出るホースを湯の中に入れて適温に調整する。
このタイプの湯は温泉地での外湯で見られるが、こういうセルフスタイルは管理する人の手が余計にかからないし、客も自分の一番好きな温度に湯をできるからウィンウィンだ。

私が行ったときには、どうやら誰かが先に入ったことで湯の温度が下がっていたのでそこまで熱くはなかった。
だが、源泉の注ぎ口からは熱めの湯が出ているので、なるほどこれは確かに湯を下げる必要が時と場合によっては必要に思える。

最高の眺め!

そして、やはり景色は抜群だ! 湯に入ったままだと少々見づらいが、
半身浴くらいになれば湯に入りながら絶景を堪能できる。

浴槽は石造りなので寄りかかるとちょっと痛いし、底もゴツゴツしている。
だがそれもまた風情かもしれない。

しばらく入っていると中年のご夫婦がやってこられて、しばし同席してお話をさせていただく。一期一会な出会いは楽しい。

そのあとはご夫婦に二人で湯を楽しんでもらいたいので先に上がり、最後の露天風呂に向かうべく温泉を後にした。


第4の湯、『三国一の湯』

登って来た山道を今度は下り、登って来た道とは違うもう一本の道へと下る。森の中の道に再び戻って来てしばらく歩くと、四つ目の露天風呂の『三国一の湯』の湯がある。


4つ目の湯、『三国一の湯』

あまりに自然に溶け込んでいるから一度通り過ぎてしまった。
「あれ、こんなに下に下るの?」
と不思議に思って振り返ったのが幸運だった。そのまま下まで下って行ってしまうところだった。

しかし三国一の湯とは、また大それた名前である。これまでの湯の名前とは違って、声高にここは他の湯より上等だぞと主張しているかのようだ。


ぱっと見ため池みたいだ

木製の浴槽には湯花が浮いた透明な湯が湛えられている。

湯気が見えないから、湯が温かそうに見えない。湧き水がためられているだけのように見えないこともない。

でも手を入れればしっかりと温かい。しかも私的に適温だ。


白いものは全部湯花だ

白い塵のような湯花がこれでもかと湯の中に舞っている。

こいつは、入った後に体に湯の成分をたっぷりと纏えそうだ。

道の脇にあって黄金湯と同じくらいに開放感のある湯で、なんだか緊張してしまう。だがもうなんだか慣れてしまったので、さっさと湯に入ってしまおう。

入ってみると、やはり湯の温度はそこまで高くない適温だった。あくまで私の感覚的にはであるが、これは長湯がいとも簡単にできそうな温度である。

湯花が沢山浮いているが、香りの強い湯ではない。なるほど、なかなかに優しい湯だ。これなら確かに三国一の湯と名乗ってもそこまで反感は出ないだろう。

樹々が茂っていて景色はあまり開けてはいないが、自然に360度囲まれているのも悪くない。自然の中に溶け込めているような気になれて、これはこれで良いものだ。

スマホでもいじりながら長湯をしてみたい気分だったが、蓮華温泉へと滞在時間は長くない身である私は、少し名残惜しくもあるが湯から上がったのだった。

さあ、最後の湯に入って帰ろう。


内湯で体を流して


山道を下り、ロッジへと戻ってくる。

露天風呂はこれですべて巡ったことになるが、蓮華温泉は後もう一つの湯、ロッジの中の内湯がある。

最後にここへ入って、蓮華温泉制覇と行こう。

ちなみに建物には露天風呂それぞれの成分表が貼ってあって、詳しくその泉質を知ることができる。


黄金湯の成分表


仙気の湯の成分表


薬師湯のせい成分表


三国一の湯のせい成分表


さて、すでにお金の支払いは済ませてあるのでスタッフの人に挨拶して建物へと入る。

味のある玄関から中に上がると、内湯の案内看板が食堂の出入り口の上に掛かっていた。

奥へ行くと階段があり、そこを下っていくと内湯がある。


内湯の看板


階段を下りた先に内湯がある


内湯の成分表。内湯は総湯という名前らしい



脱衣所①


脱衣所②


眺めの良い内湯


内湯は大きな木製の浴槽が一つで、大きな窓が1枚目の前にあり眺め抜群だ。湯気で曇っているので見えづらくなってしまっているが、湯を駆ければたちまち大パノラマがお目見えだ。


熱めの湯が豊富に注がれている

お湯は熱め。薬師湯くらいには熱い。

登山で疲れた体を癒すにはもしかしたらこのくらいがちょうどいいのかもしれない。また、肌寒い春ごろや秋には、むしろこの暑さが心地よくなるかもしれない。

硫黄の匂いがするお湯で、いかにも薬効がありそうだ。またこういう湯に入ると毛穴という毛穴に硫黄成分が入るから、体から硫黄の匂いがしばらく取れなくなってしまう。それがまた、温泉に入ってみた感じがしていいものだけれど。
あと、単純に臭い消しにもなってほしいので脇の下や足裏には念入りに湯を刷り込んでおくことも忘れない。天然素材の消臭剤だ。

入浴に次ぐ入浴でずいぶんと体は温泉へ満腹感を示していたが、少し我慢して湯に入る。ここまで来るのにも時間がかかるのだから、この機会をいっぱいに満喫しないともったいない。

まあ、熱めの湯なので長湯をすればのぼせてしまいかねない。私はのぼせるギリギリのところまで湯に浸かっていたのだった。


最後に

ということで来てみたかった新潟の秘湯、蓮華温泉。
噂通りの名湯だったと私は思える。
名湯なのはその泉質もさることながら、野趣あふれる露天風呂もその評価に1枚かんでいると言っていいと思う。こんなシチュエーションの湯は世間でも多くないだろう。

訪れるのも一苦労だし、行ける期間も限定であるこの温泉は、間違いなく秘湯だ。
しかも、ここよりも生きづらい温泉はほかにもあるだろうが、
『頑張れば行けるけど行くには腰が重くなる』
という難易度が絶妙な塩梅でなんとも悩ましい。

機会があるなら行ってほしい。
まあ機会があくまであるのならだが。

もし登山が趣味でないのなら、ここへ訪れるのはことさらに大変だ。

蓮華温泉を訪れるには、細い山道を走る度胸と運転テクニックが必要かもしれないが、それ以上にやる気が大事だ。蓮華温泉に行くぞ、という強いやる気が。

その重い腰を、あなたが上げられるかがきっと一番の重要項目なのだ。












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