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【ゆのたび。】33: 辰口温泉 総湯 里山の湯 石川県 ~美人になれるかもしれない、金沢の奥座敷~

座敷とは日本における居住空間の呼び名の一つだ。

そして座敷には大きく二つの区別がある。主に客間として使われる表座敷と、家族が暮らす空間の奥座敷である。

このうち奥座敷は、現代では都市部から近い温泉地のことを指す場合が多い。

例えば札幌の奥座敷なら定山渓温泉が挙がるし、青森なら浅虫温泉、新潟なら月岡温泉など、各地に○○の奥座敷と呼ばれる温泉地が存在している。

まあ、奥座敷とは必ずしも一か所の温泉地を指すわけでもない。

東京の奥座敷が草津温泉だったり熱海温泉だったり鬼怒川温泉だったりと、いくつもあったりすることはままあることではある。

明確な基準があるわけではない。近くの街から親しまれる湯であるなら、きっとそこが奥座敷足りえるのだろう。

石川県、金沢にも奥座敷がある。そのうちの一つが、金沢市の南部にある辰口温泉である。

偶然にも近くへ来ていた私は、ここにも立ち寄り湯があると聞いてふらりと立ち寄ってみることにした。

金沢の奥座敷とはいかなる湯なのか? 肌でその湯を感じてみたい。

今日も湯を求めて。


辰口温泉 総湯 里山の湯

近くを通りかかったのは、粟津温泉の帰りだったからである。

名湯からの帰り道、私はついでにまた湯に入りたくなったのだ。

走りやすい太い道路のすぐそばに、辰口温泉はある。

さて、どんな湯なのだろう? 私は車のハンドルを切った。


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辰口温泉 総湯 里山の湯

少し入り組んだ坂道を上った先に目的の湯があった。

『辰口温泉 総湯 里山の湯』である。

温泉街の中にあって、言い方を悪くすれば見つけづらく車を停めにくい湯とは違いここは広い駐車場を抱えたとても訪れやすい湯だった。

料金はおとな520円。市外と市内に券売機のボタンが分かれていたが、料金が違うわけでもなく、ただ集計のためにボタンを分けているだけらしい。

意外と利用客が多い。都市部からアクセスも良いからかもしれないし、料金もそこまで高くないのも理由かもしれない。

衣服を脱ぎ、浴室へ。浴室には浴槽が内に一つ、外に小さいものが一つ。

石鹸もドライヤーも配備。これは嬉しい。同じくらいの値段でも用意してくれていない場所も割とあるので、温泉側のご厚意に感謝である。

辰口温泉は美人の湯とうたっている湯でもある。さて、いったいどんな湯加減であるか実に楽しみだ。

体を洗って、いざ湯へと入る。

……湯が柔らかくて、心地よい。

湯温が熱すぎず、ゆっくりと疲れるくらい温度帯でとても良い。

源泉の温度も影響しているのかもしれない。里山の湯のの源泉温度は41.7度と適温だ。

例えば和倉温泉は源泉温度が温泉卵を作れるくらいにとても熱くて、なので人が入れるくらいに冷ました湯でも結構熱めだったりする。熱い湯が好きな人にはそっちの方が良いだろう。

だがゆったりと、安らかには入れる温度というのはそれだけでありがたいものでもある。

特に、私は長湯が好みだ。もちろん熱めの湯も好きだが、適温もしくは少しぬるいくらいの湯に長く浸かれるのが特に好きである。

そして、確かに美人になりそうな、少しぬめりのある気のする湯である。

泉質はナトリウム‐塩化物泉(低張性弱アルカリ性温泉)。弱アルカリだからの湯の感触だろうか。

内湯には寝湯のスペースもあって、ゴム製の枕を使って体を横たえることができる。

寝湯! こいつはまた至高の楽しみ方だ。

同じ湯に浸かるという行為なのに、体を横にするだけで不思議な安らぎが追加されるのだ。

たまらず長湯してしまいそうになる魔力に惹かれながらも、のぼせる前に何とか頑張って湯から上がれた。いやいや、危ない。

休憩スペースには座敷もある。

湯で疲れたら、ここでゆったりすることもできて最高だ。

忙しい都市部の暮らしから束の間離れるというのは現代人にとって必要だ。

だが、そのために遠くまで行くというのもしんどいものがあるのも事実。

そんなとき、ここのように程よく近くて都市の喧騒から離れられる場所はとても都合が良い。

まさに奥座敷たる所以だ。多くの都市人が、ここで日々の疲れを湯で癒すのだ。

そうでなくとも、気軽な利用にも良さそうな距離感で、かつ女性に嬉しい美人の湯である。

もちろん、私にとっても。

訪れる人々を磨く湯が、金沢の奥座敷には静かに湧いていた。

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