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ラポール 5:映画やドラマでみる「巻き込まれ」

木之下:今日は、人が作った物語と巻き込まれの出現率について考えてみます。
本来、この授業は、前の時限より先に用意していたものですが、現実からフィクションを眺めてみると発見があるので、後に持って来ました。

:巻き込まれの出現率は、だれが測定したのですか?
木之下:ぼくです。偉い研究者ではありません。
:なんだ、先生が、ですか…とは言いません。
まずは、講義を聞いてから考えてみます。
木之下:君たち、よい性格になりましたね。
経営の神様と言われた、松下幸之助さんも語っていましたよ。成功するには、何が大切か?知っていますか?

:知りません。
円山:私も。
木之下:「素直さ」ですって。

円山:へえー!
:なるほど!
木之下:やはり、ぼくの発言より、松下さんの言葉の方が、インパクトがあるみたいですね。

:そういうわけでは…うーん、あるかな。

木之下:正直でよろしい。素直とは違うけれど。

では、これから、巻き込まれから始まった映画やドラマにどのようなものがあるかを考えてみて下さい。
思いついたら、発言してください。

(少し時間をとってから)

:はい。私は、スターウォーズ(Disney製作)を考えました。
フォースの覚醒、エピソード7です。BB-8がレイの目の前に現れます。
レイはロボットであるBB-8を助けます。

その後、取引所で、商談を行う時、相手側がBB-8を高値で買う交渉を持ちかけてきました。
それに対して、レイは「(BB-8は売り物ではない」とキッパリ断ります。

これは、レイの心がBB-8のことを物や獲物ではなく、感情を持った友人として意識したということになりませんか?

木之下:Exactly! (そのとおり!)
とすると、「レイは、BB-8に巻き込まれた」ということになりますね。
円山:私もそう感じます。
木之下:スターウォーズの初回作品、エピソード4の冒頭で、主人公ルーク・スカイウォーカーの目の前にR2-D2というロボットがやってきます。

物語の構成として、かなり似通っているとは思いませんか?
:私もちょうど、そのことを思い浮かべていたところでした。

木之下:では、私から1つ質問させてください。
興味がなかったら、仕方がないけれど、「半沢直樹」というドラマ(TBS制作、原作:池井戸潤)を知っていますか?
:知っています。観ました。
円山:大体、知っています。

木之下:よかった。経済ドラマになるので、女性の視聴率は落ちます。それでも、エピソード1の最終話では、視聴率40%超えの記録を出しました。世間は、大いなる関心を持って観ていました。

:はい。かなり話題性が高かったですね。
円山:流行りましたね。「倍返しだ!」のセリフ。
木之下:そこまで知っていたら十分です。

あのドラマの詳細は語りませんが、導入と後に分かる事実から、半沢直樹は支店長とその友人の社長の陰謀に巻き込まれました。そこから、物語が始まります。

ドラマのストーリーはよく話題になりますが、この話が、巻き込まれから始まったことを語る人はいません。

:修羅場の展開にハラハラしていて、そこまで考えたことはありませんでした。
木之下:それが普通だと思います。

このように物語を紐解いていくと、劇場は、巻き込まれの宝庫で、反対に巻き込まれのないドラマを見つけることの方が難しいように思います。

巻き込まれて心理的な距離が近くなった時こそ、人の心の機微が現れ、大きな感情の揺さぶりがあるのです。

円山:正直言って、そういう視点で映画やドラマを観たことがありませんでした。
木之下:それは、円山さんの能力の問題ではありません。人は、自分に関心のあることに気を取られるものです。
円山:はい。納得できます。

木之下:他に急速にヒットして、日本での映画興行収入の記録を塗り替えたアニメがあります。

円山鬼滅の刃(集英社、吾峠呼世晴作)ですね。

木之下:その通りです。
作品の好みや評価は別にして、あの物語の発端は、やはり巻き込まれから始まります。
主人公が炭を売るために家を離れていた間に、鬼が家族を殺害し、妹の禰豆子を鬼にかえてしまいます。

これは、一般の意味で使われる「巻き込まれ」で解釈できます。
「意図せずに騒動などの渦中の人となる。いやおうなくかかわりを持つ」という定義ですね。

:はい。この巻き込まれには、特別な心理学的な解釈は必要なさそうですね。

木之下:このように有名な作品は、巻き込まれをきっかけにして展開されていることが多いことに気づくでしょう。

少し古いドラマになりますが、キムタク(木村拓哉さん)が始めて主演をした「ロングバケーション」(フジテレビ製作)というヒットドラマがあります。
女優の山口智子さんは、あのドラマ以来、しばらくスクリーンに顔をだしていません。

そのドラマの幕開けです。
和服の花嫁衣装を着た女性が、姿に似合わぬ形相で、街を走り、あるアパートにかけこみます。
そこに瀬名という主人公役のキムタクが住んでいます。

何度もチャイムを押し続ける南(山口智子が演じるヒロイン)に根負けして、瀬名は、南を中に入れます。
実は、南が結婚する相手の男性は、瀬名と一緒にルームシェアをしていたルームメイト(同居人)なのでした。
しかし、そのルームメイトは、結婚式の直前になって、突然姿を消しています。
好きな女性ができたから、その人と結婚することにしたと、ハガキで案内が来ていました。
そのハガキには、「君は強い。100万年でも生きていける。彼女は、ぼくがいないと生きていけない人間なんだ」と書いてありました。

円山:ひどい!
:これは、南の婚約者が、かよわい女性に巻き込まれた可能性がありますね。
木之下:とてもよい洞察です。
始めて出会う瀬名と南は、口論しながらも、行く場所のない南をルームメイトの部屋に住まわせることにしました。

そこから新しい恋愛話が出てくるわけです。
しかし、その恋愛は単純なものでなく、複数の人物と交錯しています。
その人間性のやりとりがおもしろいわけです。

この講座で言えば、南が瀬名の部屋に駆け込んだことが、「巻き込まれ」の始まりです。

余談になりますが、このドラマは、サブ役として、竹野内豊、松たか子、広末涼子も登場している、当時のゴールデンキャストになっています。

円山:これは、私が生まれた頃に制作されたドラマですね。
でも、再放送でみたことがあります。
ワクワクしました。
:私は、何となく聞いたことがあるくらいです。

木之下:よくできた物語は、20年後にみても面白いものです。
興味と機会があれば、視聴してみてください。

玉木宏、上野樹里が共演した、「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子作、講談社、フジテレビ制作)は、変人の野田恵を千秋真一が世話をすることにより、関係性が深まっていきます。野田恵を指導する内に千秋真一も新しい道、次のステップに進んでいく、ともに世界に旅立つ音楽家となりました。
互いに巻き込まれながら成長していく物語で、すてきなクラシック音楽がふんだんに採用され、コアなファンが存在しています。

さて、次は少し毛色の違う物語を紹介します。
まったくタイプが異なるドラマですが、直感的に分かりやすいものです。
長い間、国民的な関心を持たれていたドラマですが、今は下火になりました。

水戸黄門」(TBS制作)です。

円山:ああ。
木之下:知っていますよね。
黄門様は、全国各地を旅します。そして、そこで起こっている問題に遭遇して、勧善懲悪の物語を実現します。

この物語では、そのほとんどの例で、知り合った人の悩みを聞いた後、その人に同情するとともに悪を断つ決意を持ちます。
そのため、「よろしければ、この隠居じじいに相談してはもらえませんか?」と自ら、「巻き込まれる」事態に飛び込んでいます。

このドラマは、黄門様の印籠の力(権力の象徴)と格さん・助さんおよび風車の弥七という最強メンバーに守られて、最後は解決するという安心感に支えられているドラマです。

通常のドラマでの巻き込まれは、不安、恐怖、未来の不確実性を備えていることが普通です。

そういう点では特殊な事例と考えて下さい。
このドラマは、安心して観ることができ、最後に印籠をみせて悪人を懲らしめることで溜飲を下げるというパターン化された構造になっています。

円山:なるほど。今でも再放送を観ている人が、おられますね。
木之下:そうなのです。
人は、新しいものと普遍的なものが好きなのです。

★さて、ここまでで質問がありますか?

:これまで巻き込まれの物語について解説していただきましたが、反対に巻き込まれを避けているような物語はあるのですか?

木之下:ええ、ありますよ。
半沢直樹の前に盛り上がったドラマで、やはり最終視聴率が40%を超えた番組があります。

「家政婦のミタ」(日本テレビ制作)という番組です。
名前は聞いたことがありますか?
:はい。これも観ました。

木之下:この物語は、お手伝いを完璧にこなす優秀な家政婦が、崩壊しそうな家族の家に入り込んで展開する物語です。

ミタは、家政婦としての仕事を依頼すると、「承知しました」とそつなく仕事をこなします。
その一方、自分の主義に会わないことに対しては、「これは業務命令でしょうか?」と聞き返して断ります。
わざと化粧をせず、能面に近い表情を演出している独特のキャラとなっています。
松嶋菜々子さん主演の大ヒット作ですね。

この主人公は、過去に受けた傷に触れないように、人との余分な関わり、そして「巻き込まれ」を避けていることが特徴です。

ドラマには巻き込まれがあることが通例であり、逆に巻き込まれを極端に排除していることに物語性があり、新鮮であったのだろうと推測します。

さて、今回は、フィクションを題材にしました。
いくらかでも参考になりましたか?

円山:はい。現実の問題だけでなく、よりリアルに感じることができました。
:私、けっこう、ドラマを観ていたことを実感しました。
木之下:そうでしたか。

次回は、どのような場面で、巻き込まれが、起こりやすいのかということをテーマに話を進めていきます。

みなさんは優秀なので、特に注意することはないのですが、次回までに「巻き込まれ」が起こりやすい条件について、思いを巡らせてください。

橘、円山:はい。分かりました。

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考察:ドラマは、巻き込まれから始まることが多い
ドラマで感じる疑似体験は、現実よりリアルに感じることも多い
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