【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜 第四話
激しい雨音と絡繰時計の音が響く二人きりの美術館。絡繰時計が指し示す時刻は午後十一時四十分を回っていた。
「私一人をベガミュージアムに呼び出すために、わざわざあんなことを予告状のビデオレターで言ったんでしょう?」
アルトはゆっくりと頷いた。
「そうだよ、美織に一目会いたくて、美織にだけ分かるようにああ言ったんだ。願いを川に流した夜って聞いたら、普通の人は、笹流しが行われる七月八日が犯行の日だって思うから。一か八かの賭けだったけど、やっぱり美織には全部お見通しだったね」
「なんで、こんな手のこんだことしたの?」
「ただ美織に会いたかったから、じゃダメかな」
「はぐらかさないでよ! もっとほかに言うことがあるんじゃないの? 今までどこに行ってたの? 何で怪盗なんてやってるの?」
美織は声を張り上げた。
「ごめんね。心配かけて、警察が捜査できない未解決事件を追ってるんだ。大学生の頃からずっと。世界的な大きな事件の背景には、宝石や装飾品なんかが絡んでることが多くて、海外の要人に頼まれて捜査の一環で怪盗をやっているんだ」
「何それ・・・・・・全然意味が分からないよ」
アルトはありのままを説明するが、荒唐無稽な話は美織に納得できるはずもない。
「たとえば、この連理の竪琴はアジアの王族と関連してて・・・・・・」
「事件の内容なんてどうでもいいよ! なんで私に何も言わずに急にいなくなったの!」
アルトの話を遮って再び美織が叫ぶ。
「国際的な大きな事件が関わっているから、美織を危険なことに巻き込みたくなかったんだ。一連の事件が解決するまでは連絡もしないつもりだった。でも、偶然にも美織のお父さんが経営してるベガミュージアムに連理の竪琴があることを知って、どうしても会いたくなった。完全に、僕のわがままだよ」
アルトは申し訳なさそうに答えた。
「この竪琴を盗んだら、またどこか遠くに行っちゃうの?」
寂しげな表情で美織が尋ねる。
「うん。ごめんね。怪盗アルタイルになってからだいぶ事件を解決してきたけど、まだ未解決事件が残っているんだ。だから、また海外に行かないといけない。もし僕らの会える日が一年で今日だけだとしたら寂しいかい?」
「当たり前でしょ。アルトがいなくなってから、私が、どれだけさみしかったか分かる? 分からないよね? アルトは私のことなんてどうでもいいんでしょ! 昔からずっとそうだった。あの日も、私が諏訪君と付き合うか付き合わないかなんてどうでもいいって言ったじゃない!」
美織は一気にまくしたてると泣き出した。美織の嗚咽と時計の秒針の音が響く。
「参ったなぁ。僕なりに美織にラブコールしてたつもりだったんだけどなぁ」
アルトは困惑した様子で呟いた。
「え・・・・・・?」
美織が顔を上げた。
「いつも言ってる、遠い空から愛しの織姫に口づけを、っていうのテレビとかSNSで見たことあるよね? 愛しの織姫って美織のことだよ」
アルトが美織に微笑みかける。
「へ・・・・・・・?」
美織は泣きやんだが、理解が追い付いていない。
「ベガミュージアムにわざわざ出したビデオレターだって、予告状じゃなくてラブレターのつもりだったのに。まったく気づいてないなんてさすがにこたえるなあ」
アルトは苦笑した。
「え、それって・・・・・・」
美織はようやくアルトの真意を理解した。それと同時に、赤面して困惑する。
「学生の頃からずっと、美織は僕の織姫様だった」
アルトはそんな美織の手を強く握りしめた。
「僕は罪人だけど、この事件が全部解決したら、神様の許す限り美織のそばにいたいと思っている。だから、僕の恋人になってくれませんか?」
続く・・・次回第五話 八月十七日更新
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