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【AISTS #19】 14週目 スポーツとテクノロジー (2020/1/20-26)

ローザンヌで開催されていたユースオリンピックが閉幕し、講義が再開しました。
ユースオリンピックについてはこちらに書いたので、興味のある方はどうぞ。次回の2024年は韓国・江原道です。

今週から3週間にわたって、テクノロジーの講義とグループワークです。大きなテーマは以下の4つです。今週は上の2つでした。

・Physics of Sport
・Materials and Equipment in Sport
・Sport Infrastructure
・Information and Communication Technologies in Sport


Physics of Sport

中でも面白かったのは、スポーツにおける物理学の講義(90分×3コマ)でした。提携している工科大学 EPFL の教授が担当してくれました。
理論の詳細ではなく、スポーツの中で起きる現象には、どのような物理法則が働いているのかを理解することが中心でした。

スポーツの進化は、技術の進歩、選手の適応、ルールの改正の3つが噛み合うことで健全に進みます。
アスリートやコーチ、用具メーカーはもちろんですが、運営サイド(administrator)も適切なルールを設定するために、最低限の原理の理解は必要だよね、という趣旨です。

特に、競技の存在意義と、中長期的な選手の安全を守るために、現象の背景にある原理を理解して、規制の方向性を定めることが重要です。
話題のNIKE ヴェイパーフライについての議論もまさにそうですね。

以下、講義で取り上げられた内容とスポーツの例を列挙します。

・力積と運動量 Impulse momentum (p=Ft)
 例)モハメド・アリがパンチを受け流す動き
・仕事効率 Work efficiency
 例)ランニングシューズの靴底
・摩擦 Friction
 例)スキーワックスやF1タイヤの選択
・空気抵抗 Aerodynamic drag、スリップストリーム Slipstream
 例)自転車スプリント、スピードスケート
・揚力 Aerodynamic lift
 例)セーリングの操縦
・マグヌス効果 Magnus effect
 例)サッカーのカーブシュート
・Angular momentum 角運動量、Rotational inertia 回転慣性
 例)フィギュアスケートのスピン

ベルヌーイの定理の定理など、久しぶりに見るものも多く懐かしさを感じるとともに、理系のベースがあることもまだ役に立つかもなーと少し前向きに捉えられました。


グループワーク

講義を受ける傍ら、テクノロジーを活かしたスポーツに関する新製品/サービス(用具、施設、情報通信技術等)を提案するプレゼンをグループで準備します。

ポイントは以下の通り。

Research (idea and technical feasibility)
Valorisation (need, markets, not full business analysis)
Presentation (pitch to convince it’s a good product to invest in)

今週はテーマ設定だったのですが、僕のチームは決まりきらず。月曜日に持ち越しになっています。

当初は体内に埋め込むマイクロチップによるドーピング検査の簡素化を考えていたのですが、調べるほど難しさが分かってきて、マイクロチップのアイディアはそのままに、アスリートのパフォーマンス向上のためのデバイスにしようかという2つの案のせめぎ合いです。

個人的には、仕事柄、ビジネスモデル(稼ぎ方)を先に考えます。
ドーピング検査という仕組みがあるからこそビジネスとして成り立ちうる製品だと思っていたので、マイクロチップのアイディアを活かすために他の用途を考え始めるのは悪手かなーと思っています。
製品ありきの(良くない)プロダクトアウトの典型になりかねないですが、時間が限られていることもあり、このあたりの議論の進め方は難しいところですね。

ドーピング検査に使うアイディアが面白いと思ったの理由は、現状、様々なステークホルダーが支払わざるを得ない膨大なコストを削減できることで、この製品にお金を払うにニーズが分かりやすく継続的に見込めることでした。
競技会場はもちろん、競技会外の自宅やホテル等での検査も含めると膨大なコストがかかっており、アスリートの(精神的)負担も大きいです。
これが実現できれば、検査機関、アスリートを抱える競技連盟/クラブ、アスリート自身の誰もが価値を感じるはずです。

一方で、パフォーマンス向上のニーズはある程度は存在するとは思われるものの、「使ってもいいもの」「使うと役に立つ(かもしれない)もの」でしかなく、それにしては導入コストが大きすぎると思っています。
研究開発、認証取得、選手への埋め込み方法、倫理的な課題など、これらはドーピング検査においても同様ですが、それに対するリターンが曖昧で不確実なものであることが問題です。

一方で、技術的な面から見ると、ドーピング検査のアイディアは荒唐無稽な部分もありそうですし、この考え方はあくまで事業面からの指摘であることは理解しています。
様々な角度からの意見を持ち寄って、実りのある議論ができればと思っています。


課外活動

火曜日はユースオリンピックのアイスホッケー女子決勝を観戦。地元スイスの試合でないにも関わらず、お客さんはほぼ満員。
強豪国が出場していないという事情があるとはいえ、見事な優勝でした。嬉しいですね。

今週は久しぶりに飲み会の多い日々でした。

水曜日は閉会式の後、日本から取材で来ていたメディアの方々の打ち上げに参加させてもらってスポーツ談義。
金曜日は、AISTSとFIFAマスター卒業生を中心に、ローザンヌでスポーツに関わる日本人で少し遅めの新年会。
こちらで働くことの難しさも面白さもざっくばらんに聞かせてもらいました。夜遅くまで語らえる仲間がいるのは嬉しいことです。

土曜日は、クラスメイトのアジアメンバーで旧正月のお祝い。
中国と韓国の正月料理を振る舞ってもらいました。

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来週の予定

スポーツインフラの講義と、グループワークです。
インフラについては、IOCやパリ五輪組織委員など、現場で関わる方々が講師として来てくれる予定です。
新国立競技場の件について、外からの見方を聞いてみたいですね。

週末は、こちらに来て始めてのスキーに行ってきます。学生時代以来なので不安ですが、楽しんできます。

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