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弁護士・行政書士による「申請取次」の範囲について

特定行政書士・申請取次行政書士の刈茅です。


行政書士は講習を受講して考査に合格後、地方入管に「届出」をすると所謂「ピンクカード」がもらえて「取次」ができるようになります(弁護士は純粋に届出のみ)。
そもそも、「取次」とはどういった制度なのか、「取次」の法的根拠は何か、「取次」は何を行うことができるのか、を考えてみたいと思います。

なお、申請取次業務を扱う士業は主に行政書士となるため、以下行政書士を中心に論じますが、権限については弁護士であっても変わらないものとお考えいただいて差し支えありません。

本稿は、2022年3月20日時点の法令を基に記載しています。
誤りのないよう、注意して執筆しておりますが、万一誤った記載があった場合その他、本稿に起因する責任は負いかねます。
本稿は、当職の私見であり、所属機関とは一切関係がありません。

【2022.03.20 15:25更新】
「【5】申請取次の可否と根拠」と「【2】本人出頭の原則」について、「申請内容変更の申し出」と「再入国許可申請」の項目を追記しました。
「【補足】行政解釈」を「【10】『取次』とは何か」に改め、内容を更新しました。


【1】行政書士業務


 書類作成業務

大前提として、行政書士はいかなる業務を行うことができるのでしょうか。

行政書士業務については、行政書士法(昭和26年法律第4号)1条の2、1条の3に規定されています。
このうち、第1条の2に規定される業務が行政書士の「独占業務」となり、原則として行政書士でない者が行ってはならないとされています(行政書士法19条)。なお、本稿の目的は行政書士の業際について論じることではないため、詳細は割愛します。

以下、行政書士法1条の2に規定される業務については「(行政書士の)独占業務」、同法1条の3に規定される業務については「(行政書士の)法定業務」と呼ぶこととします。

このうち、入管業務を行政書士が行うことができるのは、次の規定を根拠としています。

(業務)
第1条の2
 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類……その他権利義務又は事実証明に関する書類……を作成することを業とする。[強調筆者]

在留資格関係の申請書は地方出入国管理局(地方入管)へ提出しますが、地方入管は「官公署」にあたるため、「他人の依頼を受け報酬を得て」在留資格関係申請書類を作成することは、行政書士の独占業務となります。

 提出代理業務

行政書士の法定業務は、下記のように規定されています(条文抜粋)。

第1条の3 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等……に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為……について代理すること。[強調筆者]

「前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類」には、当然に在留資格関係申請書類も含まれますから、行政書士法上は、行政書士は在留資格関係申請書類を地方入管へ代理人として提出すること(所謂「代理申請」)が可能となるわけです。

一方、ここで注意しなければならないのは本文の「他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない」という文言です。
この文言については、一般的には他士業(税理士・社労士など)との関係を調整するための規定と解されています。しかし、「他の法律」としか規定していませんから、他士業の業務を定めた法律以外の法律によっても行政書士業務は規制されることになります。

なお、入管法により規制されているのは、あくまで「提出の代理」ですから、未届の行政書士(申請取次行政書士でない行政書士)を含む行政書士が、他人の依頼を受け報酬を得て、代理人として申請書その他の書類の作成をすることは可能です。


【2】本人出頭の原則


ここでは、本人出頭の原則を定めた規定について、①法61条の9の3に規定する行為と、②施行規則に規定する行為、の2つに分けて検討します。

 法61条の9の3に規定する行為

出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。「法」または「入管法」といいます。)61条の9の3第1項の規定を見てみます。

(本人の出頭義務と代理人による届出等)
第61条の9の3 
外国人が次の各号に掲げる行為をするときは、それぞれ当該各号に定める場所に自ら出頭して行わなければならない。[強調筆者]

「次の各号に掲げる行為」(詳細は後述)をする際には、外国人が自ら当該各号に定める場所(地方入管等)に自ら出頭して行わなければならない、と規定されています。

キーワードは、自ら出頭してです。

すなわち、入管法61条の9の3第1項の規定が、行政書士法第1条の3本文の「他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項」にあたり、外国人本人が自ら出頭しない場合の行政書士の代理権を制限していると解釈することができます。

 入管法施行規則に規定する行為

入管法施行規則は、下記の行為について、本人出頭の原則を規定しています。

在留資格認定証明書交付申請(6条の2)

(在留資格認定証明書)
第6条の2
 法第7条の2第1項の規定により在留資格認定証明書の交付を申請しようとする者は、別記第6号の3様式による申請書1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない。

資格外活動許可申請(19条)

(資格外活動の許可)
第19条
 法第19条第2項の許可(以下「資格外活動許可」という。)を申請しようとする外国人は、別記第28号様式による申請書1通並びに当該申請に係る活動の内容を明らかにする書類及びその他参考となるべき資料各1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない。

申請内容変更の申出(21条の3)

(申請内容の変更の申出)
第21条の3
 第20条第1項の申請をした外国人が、当該申請を在留期間の更新の申請に変更することを申し出ようとするときは、別記第30号の3様式による申出書1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない。

再入国許可申請(29条)

(再入国の許可)
第29条
 法第26条第1項の規定により再入国の許可を申請しようとする外国人は、別記第40号様式による申請書1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない。


【3】本人出頭の例外


しかしながら、0歳児から100歳の方まで、本邦にある外国人がすべからく全員入管に申請に来ていたのでは、窓口の処理が追いつきません。
また、必ずしも法律の専門家でない外国人本人が必ず自ら手続を行わなければならないとなると、外国人にとって不便な面もあります。

そこで、「申請・届出案件による窓口の増加による窓口の混雑緩和や申請人・届出人の負担軽減を図るため」(審査要領)、法律の専門家である行政書士・弁護士が、外国人に「代わつて」申請書類を入管に提出することができる制度が創設されました。
この制度のことを、一般に申請取次制度と呼んでいます。

では、申請取次の法的根拠はどこにあるのでしょうか。
入管法61条の9の3は、3項および4項で以下のように規定しています。

 第1項第1号及び第2号に掲げる行為については、前項に規定する場合のほか、同項各号に掲げる者(16歳に満たない者を除く。)であつて外国人と同居するものが当該外国人の依頼により当該外国人に代わつてする場合その他法務省令で定める場合には、第1項の規定にかかわらず、当該外国人が自ら出頭してこれを行うことを要しない。
 第1項第3号に掲げる行為については、外国人の法定代理人が当該外国人に代わつてする場合その他法務省令で定める場合には、同項の規定にかかわらず、当該外国人が自ら出頭してこれを行うことを要しない。[強調筆者]

*以下便宜上、法61条の9の3第1項第1号に掲げる行為を「1号行為」、同項2号に掲げる行為を「2号行為」、同項3号に掲げる行為を「3号行為」と表記します。

3項において、1号・2号行為(行為の内容については後述)については、①2項に規定する場合、②2項各号に掲げる者であって外国人と同居するもの、③法務省令で定める場合、については、本人の出頭を要しないとされています。
また、4項において、3号行為(行為の内容については後述)については、①法定代理人が行う場合、②法務省令で定める場合、については、本人の出頭を要しないとされています。


【4】法61条の9の3第1項の手続


ここで、前節で多く出てきた「法61条の9の3第1項〇号に掲げる行為」について整理しておきたいと思います。
法61条の9の3第1項に掲げられている行為のリストになりますので、読み飛ばしていただいても結構です。

 1号行為

19条の7 第1項
新規上陸後の住居地の届出を行うこと

19条の8 第1項
在留資格変更等に伴う住居地の届出を行うこと

19条の9 第1項
住居地の変更の届出を行うこと

19条の7 第2項 (準用:準用19の8Ⅱ、準用19の9Ⅱ)
上記の届出によって新住居地の記載された在留カードを受領すること

 2号行為

19条の10 第1項
住居地以外の在留カードの記載事項の変更の届出を行うこと

19条の11 第1項
在留カードの有効期間の更新の申請を行うこと

19条の11 第2項
やむを得ない理由による、更新期間前における在留カードの有効期間の更新の申請を行うこと

19条の12 第1項
紛失、盗難、その他の事由により在留カードの所持を失ったときの、在留カードの再交付の申請を行うこと

19条の13 第1項
汚損、毀損による在留カードの再交付の申請を行うこと

19条の13 第3項
出入国在留管理庁長官により、在留カードが著しく毀損したこと等を理由として、在留カードの再交付の申請を命じられた者が行う、在留カードの再交付の申請を行うこと

19条の10 第2項 (準用:19の11Ⅲ、19の12Ⅱ、準用19の13Ⅳ)
上記手続きに伴って、在留カードを受領すること

 3号行為

20条 2項
在留資格変更許可申請を行うこと

21条 2項
在留期間更新許可申請を行うこと

22条 1項
在留資格「永住者」への在留資格変更許可申請を行うこと

22条の2 第4項
在留資格「永住者」の在留資格取得申請を行うこと

 準用:22条の3
一次庇護のための上陸許可を受けた外国人が、法別表第1又は法別表第2の在留資格のいずれかをもって在留しようとする場合に在留資格取得申請を行うこと

22条の2 第2項
出生による在留資格の取得申請を行うこと

 準用:22条の3
一次庇護のための上陸許可を受けた外国人が、出生を理由とする在留資格取得申請を行うこと

20条 4項 1号、22条 3項 (準用:21Ⅳ、22の2Ⅲ、22の2Ⅳ、22の3)
上記申請に伴って、在留カードを受領すること

50条 3項
在留資格の決定を伴う在留特別許可がなされ、当該外国人が中長期在留者となったことに伴って、在留カードを受領すること

61条の2の2 第3項 1号
難民申請をした在留資格未取得外国人のうち、難民の認定をしない処分をなされた者または難民の認定をされたものの定住者の在留資格の取得が許可されなかった者について、在留特別許可がなされ、当該在留外国人が中長期在留者となった場合に、当該外国人が在留カードを受領すること


【5】申請取次の可否と根拠


ここでは、申請取次の入管法施行規則における根拠規定について、法61条の9の3に関係するものと、それ以外のものに分けて説明します。

なお、申請取次については基本的に法務省令で規定しています。
ここで、法務省令とは、出入国管理及び難民認定法施行規則(昭和56年法務省令第54号。「規則」または「入管法施行規則」といいます。)を指します。

 法61条の9の3関係

申請取次は主に、法61条の9の3第3項・第4項の、法務省令で定める場合にあたります。
実際には、施行規則の下記条文で規定されています。

(出頭を要しない場合等)
第59条の6

 [2号行為関係]法第61条の9の3第3項に規定する法務省令で定める場合同条第1項第2号に掲げる行為に係る場合に限る。)は、次の各号に掲げる場合とする。
 次のイからハまでに掲げる者が、外国人に代わつて別表第7の1の表の上欄に掲げる行為の区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる行為をする場合……であつて、地方出入国在留管理局長において相当と認めるとき。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの

 [3号行為関係]法第61条の9の3第4項に規定する法務省令で定める場合は、次の各号に掲げる場合とする。
 前項第1号イ又はロに掲げる者が、本邦にある外国人又はその法定代理人の依頼により当該外国人に代わつて別表第7の2の表の上欄に掲げる行為の区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる行為をする場合であつて、地方出入国在留管理局長において相当と認めるとき(次号に掲げるときを除く。)。

 [1号行為関係]法第61条の9の3第3項の規定により外国人が自ら出頭して同条第1項第1号に規定する行為を行うことを要しない場合において、当該外国人に代わつて当該行為をしようとする者は、市町村の長に対し、当該場合に当たることを明らかにする資料の提示又は説明をしなければならない。[強調筆者]

規則59条の6を、法61条の9の3と併せ読むと、所属する行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方入管局長に届け出たもの(これが所謂申請取次行政書士です。「申請取次行政書士」または「届出済行政書士」といいます。)は、法61条の9の3第1項1号~3号に掲げる行為について、外国人本人に代わって出頭して申請書類等を提出することができます。

 在留資格認定証明書交付申請

在留資格認定証明書交付申請については、入管法61条の9の3とは別に、規則6条の2第4項によって規律されており、この規定を根拠として、申請者に「代わつて」地方入管に申請書類等を提出することができます。

(在留資格認定証明書)
第6条の2
 法第7条の2第1項の規定により在留資格認定証明書の交付を申請しようとする者は、別記第6号の3様式による申請書1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない
 第1項の規定にかかわらず、地方出入国在留管理局長において相当と認める場合には、本邦にある外国人又は法第7条の2第2項に規定する代理人……は、地方出入国在留管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者……が、当該外国人等に代わつて第1項に定める申請書並びに第2項に定める写真及び資料の提出を行うものとする。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの[強調筆者]

 資格外活動許可申請

資格外活動許可申請については、入管法61条の9の3とは別に、規則19条3項5号によって規律されており、この規定を根拠として、申請者に「代わつて」地方入管に申請書類等を提出することができます。

(資格外活動の許可)
第19条 
法第19条第2項の許可(以下「資格外活動許可」という。)を申請しようとする外国人は、別記第28号様式による申請書1通並びに当該申請に係る活動の内容を明らかにする書類及びその他参考となるべき資料各1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない
 第1項の規定にかかわらず、地方出入国在留管理局長において相当と認める場合には、外国人は、地方出入国在留管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者であつて当該外国人から依頼を受けたものが、本邦にある当該外国人に代わつて第1項に定める申請書等の提出及び前項に定める手続を行うものとする。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの

 申請内容変更の申し出

資格外活動許可申請についても、入管法61条の9の3とは別に、規則21条の3第4項によって規律されています。規則21条の3第1項の手続(申請内容の変更の申出)においては、規則19条3項(資格外活動許可申請における取次)が準用されているため、この規定を根拠として、申請者に「代わつて」地方入管に申請書類等を提出することができます。

(申請内容の変更の申出)
第21条の3
 第20条第1項の申請をした外国人が、当該申請を在留期間の更新の申請に変更することを申し出ようとするときは、別記第30の3様式による申出書1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない
 第19条第3項……の規定は、第1項の申出について準用する。この場合において、第19条第3項中「第1項」とあるのは「第21条の3第1項」と、「及び前項に定める手続」とあるのは「、第21条の3第3項に定める資料の提出及び第21条の3第4項において準用する第20条第4項に定める手続」と読み替えるものとする。

規則21条の3第4項の規定により、規則19条3項を読み替えると、下記の通りとなります。

 第21条の3第1項の規定にかかわらず、地方出入国在留管理局長において相当と認める場合には、外国人は、地方出入国在留管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者であつて当該外国人から依頼を受けたものが、本邦にある当該外国人に代わつて第21条の3第1項に定める申請書等の提出及び前項に定める手続を行うものとする。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの

 再入国許可の申請

最後に、再入国許可申請です。入管法61条の9の3とは別に、規則29条3項によって規律されています。規則29条1項の手続(再入国許可の申請)においては、規則19条3項(資格外活動許可申請における取次)が準用されているため、この規定を根拠として、申請者に「代わつて」地方入管に申請書類等を提出することができます。

(再入国の許可)
第29条
 法第26条第1項の規定により再入国の許可を申請しようとする外国人は、別記第40号様式による申請書1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない
 第19条第3項の規定は、第1項の申請について準用する。この場合において、同条第3項中「第1項」とあるのは「第29条第1項」と、「前項」とあるのは「第29条第2項」と読み替えるものとする。

規則29条3項の規定により、規則19条3項を読み替えると、下記の通りとなります。

 第29条第1項の規定にかかわらず、地方出入国在留管理局長において相当と認める場合には、外国人は、地方出入国在留管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者であつて当該外国人から依頼を受けたものが、本邦にある当該外国人に代わつて第29条第1項に定める申請書等の提出及び前項に定める手続を行うものとする。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの


【6】1号行為における申請取次


ここから、法61条の9の3に関係する取次について、①対象となる外国人、②取次者が行うことのできる行為、の2点を概観していきます。

まずは、1号行為における申請取次について概観します。

 対象者

1号行為に関する施行規則の規定は下記の通りですから、対象となる外国人に特に制限はありません。

(出頭を要しない場合等)
第59条の6
 法第61条の9の3第3項の規定により外国人が自ら出頭して同条第1項第1号に規定する行為を行うことを要しない場合において、当該外国人に代わつて当該行為をしようとする者は、市町村の長に対し、当該場合に当たることを明らかにする資料の提示又は説明をしなければならない。

しかしながら、これらの届出は、本邦にある外国人が行うことが前提とされているものですから、通常は本邦にある外国人が対象となるものと解されます。

 取次者の業務範囲

「対象者」の項で述べた通り、特段の規制はありませんから、規則59条の6第5項に規定する「資料の提示又は説明」を行うことによって、1号行為を行うことができます。


【7】2号行為における申請取次


次に、2号行為における申請取次について概観します。

 対象者

2号行為に関する施行規則の規定は下記の通りです。

(出頭を要しない場合等)
第59条の6
 法第61条の9の3第3項に規定する法務省令で定める場合(同条第1項第2号に掲げる行為に係る場合に限る。)は、次の各号に掲げる場合とする。
 次のイからハまでに掲げる者が、外国人に代わつて別表第7の1の表の上欄に掲げる行為の区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる行為をする場合(イ及びロに掲げる者にあつては、当該外国人又は法第61条の9の3第2項の規定により当該外国人に代わつてしなければならない者の依頼によりする場合に限り、ハに掲げる者にあつては、同項の規定により当該外国人に代わつてする場合を除く。)であつて、地方出入国在留管理局長において相当と認めるとき。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの

ここで、行政書士が取次を行う場合には、①当該外国人からの依頼を受けて行う場合のほか、②法61条の9の3第2項の規定により当該外国人に代わってしなければならない者からの依頼を受けて行うこともできます。

本邦にない外国人からの取次を受けることは可能です。

②の法61条の9の3第2項は、⑴外国人が16歳未満の場合、⑵疾病その他の事由により自ら1号行為・2号行為ができない場合には、親族が当該行為を本人に代わって行わなければならないと規定しています。

 外国人が16歳に満たない場合又は疾病その他の事由により自ら前項第1号又は第2号に掲げる行為をすることができない場合には、当該行為は、次の各号に掲げる者(16歳に満たない者を除く。)であつて当該外国人と同居するものが、当該各号の順位により、当該外国人に代わつてしなければならない。
 配偶者
 子
 父又は母
 前三号に掲げる者以外の親族

 取次者の業務範囲

規則56条の6第2項1号本文には、「別表第7の1の表の上欄に掲げる行為の区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる行為」を行うことができると規定されています。

ここでは、それらの行為が具体的に何を指すのか説明していきます。
なお、同一の項目に記載している行為についても、手続の根拠条文が異なる場合があります。

⒜住居地以外の在留カードの記載事項の変更の届出(19の10Ⅰ)
⒝在留在留カードの有効期間の更新の申請(19の11Ⅰ)
⒞更新期間前の在留カードの有効期間の更新の申請(19の11Ⅱ)
⒟紛失時の在留カードの再交付の申請(19の12Ⅰ)
⒠汚損、毀損による在留カードの再交付の申請(19の13Ⅰ)
⒡再交付申請命令による在留カード再交付の申請(19の13Ⅲ)
  ①申請書等の提出
  ②旅券等の提示

⒢在留カードの受領(19の10Ⅱ、被準用あり)
  ①上記手続により交付される在留カードを受領すること

これらの規定により、取次者は、①申請書その他添付書類の補正、②申請の取り下げ、③その他の代理行為、が行えなず、書類の提出・在留カードの受領といった事実行為のみを行うことができるものと解されます(下記「【10】取次とは何か」も参照)。


【8】3号行為における申請取次


最後に、3号行為における申請取次について概観します。

 対象者

2号行為に関する施行規則の規定は下記の通りです。

(出頭を要しない場合等)
第59条の6
 法第61条の9の3第4項に規定する法務省令で定める場合は、次の各号に掲げる場合とする。
 前項第1号イ又はロ[行政書士・弁護士]に掲げる者が、本邦にある外国人又はその法定代理人の依頼により当該外国人に代わつて別表第7の2の表の上欄に掲げる行為の区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる行為をする場合であつて、地方出入国在留管理局長において相当と認めるとき(次号に掲げるときを除く。)。

3号行為を取次ぐ際に重要となるのは、①本邦にある外国人、または②本邦にある外国人の法定代理人の依頼でないと受任できないという点です。

「次号に掲げるときを除く」という部分がありますが、これは①受け入れ機関の職員、②公益法人の職員、③扶養者たる外国人が経営している機関又は雇用されている機関の職員であって地方入管局長が適当と認めた者については、⑴扶養者の扶養を受ける日常的な活動を行うとして家族滞在の在留資格をもって在留する者、⑵扶養者の扶養を受ける日常的な活動を特に指定されて特定活動の在留資格をもつて在留する者、の申請を行えるようにする規定であり、行政書士の業務範囲には何ら影響を及ぼしません(なお、2号において行政書士・弁護士も同業務を行えることが明記されています)。

在留を継続している外国人であっても、本邦にない外国人からの依頼を受けて、3号行為を取次ぐことはできません。

 取次者の業務範囲

規則56条の6第3項1号には、「別表第7の2の表の上欄に掲げる行為の区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる行為」を行うことができると規定されています。

ここでは、2号行為の際と同様に、それらの行為が具体的に何を指すのか概観していきます。
なお、同一の項目に記載している行為についても、手続の根拠条文が異なる場合があります。

⒜在留資格変更申請(20Ⅱ)
⒝在留期間更新申請(21Ⅱ)
⒞永住許可申請(22Ⅰ)
⒟在留資格取得申請(22の2Ⅱ、22の3)
  ①申請書等の提出
  ②旅券等の提示

⒠在留カードの受領(20Ⅳ①など)
  ①上記手続により交付される在留カードを受領すること

2号行為と同様、これらの規定により、取次者は、①申請書その他添付書類の補正、②申請の取り下げ、③その他の代理行為、が行えなず、書類の提出・在留カードの受領といった事実行為のみを行うことができるものと解されます(下記「【10】取次とは何か」も参照)。



【9】その他の申請取次


 在留資格認定証明書交付申請

在留資格認定証明書交付申請について規定した施行規則6条の2は、4項において以下のように規定しています。

 第1項の規定にかかわらず、地方出入国在留管理局長において相当と認める場合には、本邦にある外国人又は法第7条の2第2項に規定する代理人は、地方出入国在留管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者が、当該外国人等に代わつて第1項に定める申請書並びに第2項に定める写真及び資料の提出を行うものとする。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの[強調筆者]

ここで注意しなければならないのは、「本邦にある外国人又は代理人」のみが在留資格認定証明書の交付申請において取次を依頼できるという点です。

これから本邦へ入国しようとしている、現在本邦のそとにある外国人から行政書士が直接依頼を受けて申請を取次ことはできません。

 資格外活動許可申請

資格外活動許可申請について規定した施行規則19条は、3項において以下のように規定しています。

 第1項の規定にかかわらず、地方出入国在留管理局長において相当と認める場合には、外国人は、地方出入国在留管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者であつて当該外国人から依頼を受けたものが、本邦にある当該外国人に代わつて第1項に定める申請書等の提出及び前項に定める手続を行うものとする。
 弁護士又は行政書士で所属する弁護士会又は行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出たもの[強調筆者]

資格外活動許可申請においても、「本邦にある当該外国人に代わって」との表現が用いられていることから、行政書士に取次を依頼できるのは、本邦にある外国人に限られるものと解されます。

 申請内容変更の申し出

前述の通り、申請内容変更の申し出については規則21条の3第4項が、規則19条3項を準用していますから、上記「資格外活動許可申請」と同様の扱いとなります。

 再入国許可の申請

前述の通り、再入国許可の申請については規則29条3項が、規則19条3項を準用していますから、上記「資格外活動許可申請」と同様の扱いとなります。


【まとめ】取次の根拠と範囲


以上の関係を整理すると、下表のとおりとなります。

取次の根拠と範囲


【10】「取次」とは何か


ここまで長らくお読みいただきありがとうございます。ここから、いよいよ本題に入ります。
といっても、あくまで法解釈上の私見となりますので、その点をご承知の上でお読みください。

ここまで、入管法や施行規則の条文に「取次」という文言が出てこなかったのはお気づきでしょうか。
では、どこで出てくるかというと、入管内部の審査基準をまとめた資料である「入国・在留審査要領」に記載があります。

 行政解釈

「入国・在留審査要領」第2編第1章2には、下記の通り記載があります。

入管法が規定する「代理」は、本人に「代わって」申請・届出や在留カードの受領等をするものであるので、「代理」して行う者は、申請人・届出人として署名し、また、記載内容を直接訂正等することもできるが、取次ぎは、申請書や資料の提出等の事実行為を行うことが認められているにすぎないため、申請人・届出人として署名したり、記載内容を直接訂正することはできず……

すなわち、入管法施行規則によって認められている「本人の出頭を要しない」ために行政書士が地方入管等へ出頭して申請書の提出や在留カードの受領等を行う行為は「代理」ではなく、申請書の訂正等を行うことはできない、との解釈をとっています(実務上、申請書の訂正をする場合は、窓口で一応の訂正をした後、本人に訂正箇所の承諾を取ったうえで、7営業日以内に訂正した申請書を行政書士が地方入管局へ郵送します)。

 代理はできないのか

では、この解釈は本当に正しいのでしょうか。

入管庁は、入管法上の代理の性格について「本人に『代わって』申請・届出や在留カードの受領等をするものである」としています。ここで、「代わって」にあえて引用符が使われている点に留意すべきでしょう。

取次に関する施行規則の条文を見てみると、下記の通り「当該外国人等に代わつて」と記載されています。

(在留資格認定証明書)
第6条の2
 法第7条の2第1項の規定により在留資格認定証明書の交付を申請しようとする者は、別記第6号の3様式による申請書1通を地方出入国在留管理局に出頭して提出しなければならない。
 第1項の規定にかかわらず、地方出入国在留管理局長において相当と認める場合には、本邦にある外国人又は法第7条の2第2項に規定する代理人……は、地方出入国在留管理局に出頭することを要しない。この場合においては、次の各号に掲げる者……が、当該外国人等に代わつて第1項に定める申請書並びに第二項に定める写真及び資料の提出を行うものとする。[強調筆者]

規則別表第7の1の表、同第7の2の表(第59条の6関係)
上欄表題:外国人が自ら出頭して行うこととされている行為
下欄表題:当該外国人に代わつてする行為[強調筆者]

施行規則の条文上、行政書士は当該外国人に「代わつて」書類の提出や在留カードの受領を行うことができるのであり、行政解釈にいう代理と何ら変わりがないと解するべきです

 行政書士の法定業務との関係

本稿冒頭に記載した、行政書士の法定業務の条文をもう一度引用したいと思います。

第1条の3 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない
 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等……に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為……について代理すること。[強調筆者]

行政書士が代理申請業務を行う権限は、「他の法律」によってのみ制限することが可能できるのです。

よって、入管法61条の9の3に規定する手続について申請書を代理人として地方入国管理局に提出する行為はできません。
一方、施行規則によって本人出頭が義務付けらえている手続について、行政書士は行政書士法1条の3を根拠として、当然に申請書を官公署に提出する手続きを代理することができると解すべきです(入管法施行規則は省令であり法律ではないため)。

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