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いい映画とは、いい香水とは

私はあまり映画を観ない。

取り立てて嫌い、というほどでもないが、少なくとも「好き」と言えるほどには観ていない。

タイタニック、ハリーポッター、スターウォーズ等々…一度も観たことがない、誰もが知ってる名作も多い。

1時間半〜2時間、スクリーンの前でじっとしているのは、どうも性に合わないのだ。


そんな私だが、ひょんなきっかけで、ここ最近映画に携わる人と話す機会が多かった。

彼ら彼女らは、なんらかのきっかけで、映画や演じることに魅了され、この世界に入っている。


そんな方々に、「いい映画とは何か?いい映画をどう定義するか?」という質問を投げかけてみた。

この質問は、当然視聴者の好みがあることは否定できない一方で、全体的な評価として「素晴らしい映画」と評されるものも、「駄作だ」という烙印を押されるものもあり、つまりそれは好みとは別の、映画そのものがもつ良し悪しのようなものが存在するのでは、という仮説が前提となっている。

これに対して、今まで自分が納得できる回答を得られてこなかったが、最近話したある女優さんの「共感があるかどうかは、一つ大切な要素」という言葉に、腑に落ちるところがあった。

もう少し言葉を足すと、「人間の中にある程度共通して眠る感覚に訴えかける作品は良いものとなる」といったところだろうか。

これが使い古された構図だと安っぽくなってしまい、ニッチ過ぎると今度は共感されなくなる。その境目の部分、まだ誰も触れてはいないけれど、実は多くの人に共通する感覚を揺さぶるものが、不朽の名作となる資格をもっているのだろう。自分でもその存在を知らなかった、心の奥底に眠る琴線に触れるような作品…そういったものが、歴史の荒波を乗り越え、残っていく。


ところで、香水の話。

常々、「香りの好みは地域によってバラバラで、国ごとで売れる香水にかなり差がある」と書いてきた。それは間違っていない。

一方で、ベストセラーとなっている香水は、どの国でも必ずベストセラーだ。

これが、好みとは別に、「良い香水」というものが存在するのではないか、という私の仮説の一つの根拠となっている。好みとはまた違う、香水の良し悪しを決める普遍的な尺度がなんらか存在しているから、好みの地域差とは関係なく、どこに行ってもベストセラーになる、ということだ。

この「普遍的な尺度」が、実は先程の女優さんが言っていた「共感できるかどうか」なのではないか、と考えるようになった。

あまりにもベタな共感だと、“悪い意味で”万人受けする香りになるし、逆にあまりにもニッチだと、誰が使うんですかこの香り?になってしまう…その間に存在する、「今まで嗅いだことないけど、どこか懐かしい」香りが、名香として語り継がれていくのではないだろうか。


çanomaの香水は、多くの方から「この香り、なんだか懐かしいんだけど、どこで嗅いだか思い出せない」というコメントをもらう。実は作り手である私も、同じように感じる。

もしかしたらこれこそが、「自分でもその存在を知らなかった、心の奥底に眠る琴線に触れる」ことなのかもしれない。作っている張本人ですら気づいていなかった心の琴線に触れるものが、普遍性を持つ可能性を秘めているのだ。


それにしても、ブランドを立ち上げてから、以前にも増して異業種の方々と話す機会が増えた。そしてその中で、思ってもみなかった発見を得ることが多々ある。

そういったものが、香り、ブランド、そして人生に、深みや彩を与えるように感じる。

なんと素敵なことだろうか。


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