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内輪ネタの面白さと怖さ

『日向坂で会いましょう』という、オードリーと日向坂46が出演しているテレビ東京の番組が好きで、だいたい毎週観るようにしている。

この番組がなぜ面白いかというと、オードリー関連の“内輪ネタ”が満載だからである。例をあげよう。

日向坂46のメンバーの1人である上村ひなのさんが、番組内のあるシーンで「パトラッシュ」と発言したのに対し、テロップで「天に召しますパトラッシュ」と入った。

なんて事のないテロップのように思われるかもしれないが、実はこの「天に召しますパトラッシュ」というフレーズ、歌手miwaさんの2017年横浜アリーナライブでの「サヨナラ」という曲の途中、サプライズ登場した若林さんのラップのリリックなのだ。下記にその歌詞を引用する。

好きなはずないよ だって聞いたよ
オールナイトもう聴いてないと
オールナイトメイトだったのは過去
今の気持ちはミューズノート
miwaを再度戻すリトルトゥース
長谷川陸みたくタイムリープ
坂口健太郎とMステで
手と手 合わせてんの見て目が点
「焼いちゃってんじゃないの?」って言われて
焼きチョコベイク食ってごまかして
だって俺はとってもシャイ兄
緊張するぜ一万二千人
ライブのゲストは一発勝負
ストレスフリースタイル
失敗したら目黒川にスプラッシュ
天に召しますパトラッシュ

あの番組を観ていて、そこまで気がついた人がどの程度いるかはわからないが、私のようにオードリーファンで、こういう細かい部分に気がつけると、何だかちょっと嬉しくなってしまう。この番組では、こういった内輪ネタがかなり細かく仕込まれている。『オードリーのオールナイトニッポン』のリスナー、リトルトゥースであればニヤッとしてしまうネタが特に多い。

このように、内輪ネタ、つまりコンテクストが共有されていることを前提とした話というのは、わかるととても気持ち良い。ある種の仲間意識のようなものを感じられるからだろうか。

一方で、わからない人にとっては、そもそもそれがどういう意図で発せられたのかが理解できず、場合によっては置いてけぼりを食らったような気分になる。言ってしまうと“村八分”のような感覚なのだと思う。

ところで、昨年訪れたEsxenceという、ミラノで行われたニッチフレグランスの展示会で、やたら内輪で盛り上がっているのを目にした。世界各国の200以上のニッチフレグランスブランドが集うこの展示会、今やニッチフレグランスを語る上では欠く事のできない存在となった。

ブランド間でのコミュニケーションはそこまでない。出展者はみんな大変忙しそうにしていた。一方で、そこに来場しているブロガー(本人たちは“ジャーナリストだ”と言い張るかもしれないが、彼らの活動の中心は自分の媒体での発信で、他の媒体に寄稿している量は少ないことから、ブロガーという言葉が適切だと判断した。誤解のないように付け加えると、どちらが上だ下だ、という話ではなく、発信方法の違いから、ブロガーという言葉の方が正しいと判断したということだ)がやたらと仲が良さそうにベタベタしていたのだ。

去年の展示会の1番の“話題”は、“あるブランド”が発売した“ある有名調香師”が作った“ある香水”だった。例によって“ある”が多くて恐縮だが、日本でも販売されている香水だ。

「あの香水試した?素晴らしいよ!」

とあるブロガーの方から強く勧められたので試したのが、正直私にはそれが新規性のある香りだとは思えなかったし、さらに言うと若干バランスが悪いようにすら感じられた。アニマルな側面が少し強すぎ、傾いているように思えたのだ。

展示会期間中の彼らブロガーたちのInstagramの投稿を見ても、みんながみんな“Best fragrance I've ever smelled”だのなんだの言って絶賛していたが、そこまで絶賛する理由がわからなかった。強いて言うなら、「有名調香師が作った、(強く香るという意味で)リッチな、親しみのある香り」程度が、この香水に対する適切な評価だと思う。

私は、この絶賛に関して、ブロガーたちが仲良く繋がっていなかったら生まれなかったのではないか、と密かに思っている。他にも評価されるべき香水はあったと思うのだが、不思議なほどに展示会の評価はこの香水に集中していた。

きっとある1人のブロガーがこの香水を「素晴らしい」と口にしたのが、ブロガーの繋がりの中でどんどん伝播して、それがコンテクストとして共有されたことでここまでの絶賛になった、というのが実際のところなのだと思う。展示ブランド数もかなりの数であったことから、ブロガーたちも全ての香水を試してはいないはずだ。“安全な”香水を絶賛しておく、という気持ちも、全く理解できないわけではない。

件の香水がよく売れているという話は一切聞かないし、展示会後にその香水について積極的に語るブロガーもいなくなった。本当に打ち上げ花火のように一瞬で消えた。

ニッチフレグランスの世界は、本当に小さな村だ。この中での話題や評価は、どこまでいっても内輪ネタで、残念ながら内輪でしか通じないことが多い。今日のコンセプチュアルなニッチフレグランスブランドは、この村の中での評価の高さに満足しきっているように思う。それ自体は別に悪いことではないが、彼ら彼女らが、その小さな小さな村こそが、香水の世界全てであるように捉えているように、私の目には映ってしまうのだ。

そして今、私は、村のみんなと仲良くできているかはともかく、この村の住人になっている。村での評価を気にして、内輪ネタが通じない世界のことを忘れないように、注意しようと思う。

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