儚い2つの命
回答：
私の両手にある2つのものが、今にも消えてしまいかねない儚い命であることに気づいたのは、その時だった。
私は、水槽から掬い出された息も絶え絶えの2匹の金魚のようなそれらを抱え、家路を急いだ。いつもは何も考えなくとも家にたどり着くはずのその道が、その日に限っては全く知らない街の全く知らない裏路地のように感じられた。その上、水中をもがきながら前進しているかのように一歩一歩がとても重かった。
それでも私は急がねばならない。この儚い命の行く末は私にかかっているのだ。足よ、私を前へ運べ！もっと速く、もっと速く！
足がいつものリズムを取り戻し出したちょうどその時、目の前に轟々と音を立てる濁流が現れた。いつもは穏やかなその流れにささやかながら抵抗を見せていたささやかな橋は、とうの昔に遥か遠くへと流されてしまったようだ。
あぁ、万事休す。ここまでか…この命はこの濁流の前に力尽きてしまうのか…私は私の不運、そして無力さを呪った。
いや、諦めるのはまだ早い。きっと何か手があるはずだ。
するとどうだろう、急に空から青い光が差し込み、濁流の大きな音がみるみるうちに小川のせせらぎへと変わった。よし、今のうちだ、これなら向こう岸へと渡れるぞ！
流れをひらりと飛び越え、あとは家まで真っ直ぐ向かうだけ…そう思っていた矢先、目の前に現れたのは聳え立つ絶壁だった。いつもはなだらかな丘だったそれは、今日に限って私を拒絶していた。それは絶望の色をしていた。
あと少し…あとほんの少しで、この命は救われただろうに…ただどうだ、この絶望を前にして、私に何ができるというのだろうか…私は壁を前に打ちひしがれた。
いいや、ここまで来れたのだ、なんとしてでもこの絶壁を攻略してみせる。私は勢いをつけて、息もつかずに壁を駆け上がった。肺は空になり、喉は血で染まったが、それでも私は足を前へ前へと運び続けた。
気がつくと平地へと出ていた。そして目の前には家の扉があった。
故郷の村を密かに出る時に、同じく密かに私に思いを寄せていたあの女の子が託してくれた鍵が、その扉の鍵穴にぴたりとはまった。私はそのまま雪崩れ込み、2つの消えかかった命を救うべく、冷凍庫を開けた。
私は、勝利したのだ。儚い命を闇へと葬り去ろうとする悪魔を、美しい歌で私を誘惑するセイレーンを、完膚なきまでに打ちのめしたのだ。
今、冷凍庫には2つの可憐な命が、寝息を立てて夢を見ているところだ。
問題：
いつもより家から少し遠いコンビニで、ハーゲンダッツ『悪魔のささやき』及びMOW『バタースコッチ＆アーモンド』を購入した後に、ふと家に帰るまでにそれらが溶けてしまわないか心配になった時の、帰宅中における渡辺裕太の心情の変化を1,000字以内で説明せよ。ただし、「赤信号」は「濁流」として表現してよいものとする。
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