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DX(デジタルトランスフォーメーション)について探ってみる

2020年に社会で注目され始めたワードとして「DX」というのがあります。DXは古い企業体質や業務内容をITシステムで改革するというニュアンスで使われています。

関連する代表的な例として,2020年9月頃に内閣府が行政手続きの押印を廃止すると要請したことで脱ハンコについて議論が交わされました。試算では9割の手続きはハンコが必要なく,日常的な契約は電子契約で済ませられることから実現できれば大幅な改革,つまりDXが行われたとなります。

この言葉を初めて目にしたとき「なんて読むんだろう。デラックス?」なんて思ったり,一部界隈で使われている変な用語かと疑ったりもしましたが,多くの企業が「DXに取り組んでいます!」と自社サイトやメディアでアピールしているのを目撃するようになって今流行っているのだと認識できました。

DXの流れは今後も続くでしょう。

私個人としては「アナログなことをふわっとデジタルにする」みたいな印象を持っていましたが,しっかりと調べたことがありませんでした。今回はDXについて整理しながら全体像を探ってみようと思います。


DXの流行りと定義

DXはDigital Transformationの略語です。

エンジニアの開発体験(DX = Development Experience)というのも最近言葉として流行っていますが別物なのでご注意ください。

ニュース等で認知が一気に広がったのは2019-2020年ですが,流行り始めは2018年頃のようで10月頃にDXに関するニュースが急激に増えていました。

2018年9月7日に経済産業省がDXに関するレポート[1]を出したのが大きなきっかけで,既存システムの負債やデータの活用ができていないことによって2025年移行に大きな損失が生じると警鐘したものでした。

日本だけでなく海外でも注目されていて,Meaningless Buzzword,Ultimate Set of Dirty Wordsのように揶揄される程度には広まっています[2]。

DXはいろんな団体で定義がされているようですが,ひとまず中立そうな経済産業省のガイドライン[3]から引用します。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

ぱっと見ると,ただのITやICTの活用じゃんと思うかもしれませんが,重要となっているのは「変革」というワードではないかと思います。


ITの利活用との違い

これまで多くの企業がITシステムを導入し,業務の最適化・効率化を行ってきました。しかし,これがDXかというと定義から見れば微妙なところです。デジタル化によって「どう変革できたのか?」という観点が抜けています。

一般的なIT化でも改革自体にはなりますが,そのインパクトが小さいとあまりDXとはいえなさそうです。契約の業務が少ない企業が電子契約のシステムを導入しても,業務改革というよりかは少し便利になったくらいにしかなりません。

改革の部分が抽象的であったり,色んなアプローチがあることからDXの理解が難しいのではないかと思います。

概念の話では理解しにくいと思うので美容室の例でDXについて考えてみましょう。

美容室に行くと美容師さんが顧客の情報が書かれたカードを持って散髪を始めると思います。

顧客カードには,名前・住んでいる場所・前回訪れた日時・サービス内容等が書かれていて,美容師さんはカードのおかげて前回のカット内容やお客さんの情報をスムーズに思い出せて,サービスの内容に活かすことができます。

顧客カードは手書きで紙に書かれていて情報の記録方法はアナログですね。

ではこの顧客カードを全てデジタル化してみましょう。

情報を紙から情報端末に移したことで紛失・消失のリスクは減り,検索によって顧客データへのアクセスが簡単にできるようになりました。

しかし,劇的に業務プロセスが効率化されたというと,そういうわけではありません。店舗を複数持たない美容室であれば顧客数も多くなく紙での管理で十分だったりします。

業務改善で効率化し浮いたコストよりも顧客管理システムの維持費用の方が高く,システムの導入が無意味と言えるでしょう。

こういう場合ではDXの効果が低いとイメージできますね。

効果が高い例としては,予約をWebシステムで受け付けられるようにしたり,床の掃除をロボットに任せたり,会計はキャッシュレスにしたり,でしょうか。

他では最新のテクノロジを用いた業務改革やUX(User Experience)の向上が考えられます。

例えば,お客さんの嗜好・美容師さんのスキル・今の流行り・季節等を取り入れたヘアスタイルをAIシステムが提案するとか,サービスを受けた後に毎回写真を撮っておいて次回の来店時にこれまでの写真と比較しながらヘアスタイルを決められるとかでしょうか。

ITシステムを導入して,業務プロセスを極限まで効率化し生産性を高め,サービスの質とお客さんの体験価値を上げられれば,DXできたといえるでしょう。

この例において,究極的には全自動美容師システムができたら最高ですね

エンジニアと経営の視点

立場によってDXに対するマインドというのは異なっています。

特にエンジニア側と経営側でしょうか。

デジタルやITというワードが出ていることからDX界隈にITエンジニアが絡んでいそうには思いますが,実際は微妙そうです。

既存の問題点を分析・分解し,IT技術で解決するソリューションでの改革や企業の構造改革がDXと称されるわけで,AIやIoTが流行ったときのような特定の技術が起源のバズワードとは異なります。

そのためかエンジニア界隈でDXがそこまで盛り上がっているようには見えません。むしろDXを連呼する会社や上司を揶揄するような記事・投稿が人気だったりします。

DXに注目しているエンジニアは就活の学生,ITコンサルタント,企画や戦略業務に関わる方がボリュームになっていそうです。違っていたらごめんなさい。

一方,経営側は大きく注目しておりセミナーやコンサル業,書籍が増えている気がします。このブームがきっかけで技術的負債を認識し,組織構造やビジネスモデル等をどう効率化し,収益をどう上げるのかを改めて見直す企業が増えたことでしょう。

ITシステムを導入する際にこれまでは社外のSIerやコンサルティングの企業に外注することが一般的でしたが,技術的負債や保守運営のノウハウの観点から将来的に大きな損失となる可能性が懸念されています。

例えば自社でIT部門を立ち上げIT人材を雇い,自社で開発・メンテナンスするような構造の改革とかです。

経営者がこのような意思決定をできるかが今後の分かれ目で,できない場合は企業としての成長が止まる可能性があることから経済産業省が警鐘しているというわけですね。

先に述べたようにエンジニアと経営のそれぞれでは熱量が異なり,話の基準が合っていなくて噛み合わなければプロジェクトは上手く進みません。企業の体質にもよるでしょうがDXは比較的に難易度が高いプロジェクトに思えました。

まとめ

DXについて軽く調べてみましたが考えるべき視点や問題点が多く,全体像は掴めたもののまだもやもやした状態ではあります。全体を詳細に理解するのには時間がかかりますので,私の中の基準として以下の3点を頭にセットしておきます。

・DXは「改革」を起こすこと

・IoTやAIのような技術目線ではなくビジネス目線での意味合いが強い

・開発陣と経営陣のすり合わせ・企業の構造などの要因で普通のITシステム開発案件より配慮する点が多く大変そう

あくまで私個人の調査内容と考えになりますが参考にしていただけると幸いです。

参考文献

[1] デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました (METI/経済産業省) : https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010.html

[2] Has 'digital transformation' become a meaningless buzzword? : https://www.information-age.com/has-digital-transformation-become-meaningless-buzzword-123489122/

[3] デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン),経済産業省,2018年,https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html



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