地方自治体の税収構造 ~京都市が観光バブルでも歳入が伸びない訳~
はじめに
京都市が財政破綻しそうだという報道が全国ニュースになって以来、市内外の方々によく言われるのが、「京都市は観光客があんなに来て賑わっているのに、なぜお金がないんだ」という趣旨のことです。
私の見解では、京都市の財政問題はお金の使い方に問題があるのですが、今回は、それをひとまず横に置いておいて、歳入面に焦点を当て、地方自治体の税収構造がどうなっているかを知って頂きたいと思います。
市町村(基礎自治体)は安定重視
地方自治体は大きく、都道府県(広域自治体)と市町村(基礎自治体)に分類されます。京都市は当然、基礎自治体です。
市町村は、水道、道路、橋梁、防災、消防、教育、保育、医療、介護、障害者福祉、ゴミ回収、公園などなど、市民生活に直結した施策を行っていますので、安定重視で、景気の上下によって市民サービスが左右されるのは望ましくないという基本的な考え方があります。逆に言うと、景気が向上してもあまり恩恵を受けない構造になっているのです。
京都市のケースで市税収入の内訳を見てみると、3,029億円の総税収のうち、固定資産税(+都市計画税)1,389億円、個人市民税1,138円、法人市民税299億円が主要税目であることがわかります。
固定資産税(+都市計画税)は、土地・建物の評価額×税率で税額が決まります。もちろん、景気の変動により、地価は上がりますし、新しい建物が増えれば、増収になります。京都市も地価は観光バブルで高騰しましたが、高騰するのは一部のエリアですし、市全体で言えば、景気変動に緩やかにリンクするというものです。
個人市民税は、所得水準×働く人の数×税率で税額が決まります。景気の変動により、個人所得まで上がれば増収になりますが、景気が個人所得にまで繋がるのには時間がかかり、こちらも景気変動に緩やかにリンクしています。
法人市民税は、法人所得(利益)×税率で税額が決まりますから、景気の敏感な税目です。しかし、中小企業の法人税等の表面税率23.6%(800万円の所得の場合)の内訳は、国16.5%・都道府県6.2%・市町村0.9%と、基礎自治体(市町村)への納税は、割合が非常に低いことがわかります。
参考までに京都府の府税収入の内訳を見てみると、法人税等に含まれる法人事業税や法人府民税、個人事業主の所得に課税される個人事業税など景気に敏感な税目の税収が多いことがわかります。
京都市の個別事情
市町村の税収は、先ほど確認しましたが、固定資産税(+都市計画税)と個人市民税、法人市民税の3つが主な税目で、特に、固定資産税と個人市民税が大きいことがわかります。
京都市の固定資産税の個別事情で言うと、固定資産税が非課税である神社仏閣や大学施設が他都市よりも多いため、固定資産税収入が相対的に低いのが1点。もう1点は、戦災を免れたエリアが広く、築年数の古い木造家屋が多いので建物の価値が低く、固定資産税収入が相対的に低いという事情があります。
個人市民税では、人口の10%が大学生ということがあり、人口の中の納税義務者(働いて稼いでいる人)の割合が少ないことと、観光関連産業を中心に非正規雇用の割合が多く所得が低い傾向があることで、個人市民税の税収も相対的に低い事情があります。
市税収入が増えると地方交付税が減る
もう1つ、厄介なのが地方交付税です。地方交付税というのは、全国どこの市町村でも最低限の市民サービスが提供できるように、税収が足りないところに国から渡すお金です。
これも、市町村財源の安定に寄与する制度なのですが、上記の趣旨の通りのため、税収が増えると交付税が減るという建付けの制度設計になっているのです。具体的には、市税収入が100増えると地方交付税が75減ります。従って、景気変動などで仮に税収が増加しても、地方交付税と合計した歳入で考えると実際の増加分は税収増の1/4となってしまうのです。
余談ですが、京都市には、ホテルや旅館に宿泊すると掛かる「宿泊税」という税金が独自にあります。また、居住実態のない住宅に課税する「空き家・別荘税」も導入予定です。これらは、地方自治体の課税自主権を活用して創設したもので、「法定外税」と呼ばれます。
地方交付税の計算は、全国の自治体で課税することが地方税法で定められている「法定税」で行われるため、「法定外税」は計算に含まれないことになっています。そのため、「宿泊税」や「空き家・別荘税」で税収が増えても地方交付税は減りません。
市税収入以外への影響
一方で、観光バブルの恩恵を受けたものもあります。代表格が、市バスや市営地下鉄の運賃収入です。京都市は、特に市営地下鉄の赤字を補填するために多くの負債を抱えてきた経緯がありますが、コロナ禍になるまでの数年間の観光バブルでは、市バスも市営地下鉄も単年度で黒字を計上できていました。
その後、コロナ禍で観光客が激減し、経営健全化団体に転落したニュースも全国で報道されましたが、観光バブルに支えられていたことがよくわかります。
もう一つは、地方消費税の分配分です。市税収入ではなく、京都府からの交付金という形で分配されるのですが、その分配基準の中心に「消費額」があるため、観光バブルで市内消費が増え、分配にも大きくプラスの影響がありました。令和4年度の予算ベースで京都市の地方消費税交付金は、337億円ありますので、歳入ベースでは法人住民税を超える規模となっています。
まとめ
市町村は、市民生活に直結した市民サービスが多いため、安定重視で、景気の変動をうけにくい税目で構成されている。そのため、観光バブルの恩恵も税収面では少ない。
神社仏閣、大学、古い木造住宅が多く、固定資産税が少ない京都市の個別事情がある。
大学生が多いため、納税義務者が少なく、個人住民税が少ない京都市の個別事情がある。
市税収入が増えると、地方交付税が減るため、歳入全体では、景気変動の恩恵も吸収されてしまう。
市バスや市営地下鉄の運賃収入は、観光バブルの恩恵をかなり受けていた。
市税項目に上がっていないが、地方消費税の分配は額も大きく、観光バブルの恩恵を大きく受けている。
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