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鉄・ガラス・コンクリートの20世紀から木・石・土等の自然素材への21世紀へ(建築設計事務所を運営している僕が設計において意識している3つのこと、その2:素材を活用すること)

本記事では建築設計事務所を運営している僕が、建築プロジェクトを進めて行くうえで方針としていること、つまり設計の哲学について掲載したいと思います。本記事はその2。
僕の設計の方針としては、次の3つあります。

①都市、環境に密着した設計
②素材を活用すること
③最新コンピューター技術を活かした設計

本記事では②について説明していきます。

②素材を活用すること

建築設計を進めて行くうえで、僕が考えていることの一つとしてどうしたら自然素材を積極的に活用できるかを考えています。
木の無垢材などがもたらす質感やにおいなどは、はるか昔から人々が親しんできた感覚であり、なかなか人口素材や工業素材では出すことができない価値であると思うからです。

・鉄、ガラス、コンクリートの20世紀とモダニズム建築

建築にとって20世紀は大きな転換点でした。
2度の世界大戦と冷戦の間に西側諸国を中心に資本主義化と工業化が進み、大量生産大量消費の文化が生み出されました。
建築も例にもれず大量生産大量消費の対象となり、建設業は国の経済発展を推し進めるエンジンとなりました。
実際にアメリカでは世界恐慌の救済策として1930年代に住宅ローン・システムが考案・実施されています。これは中間所得層が銀行にローンを組むことでマイホームを建てることができるようになる代わりに、家庭を養いながらローン返済のためにすごく働いて消費していくことで、大多数の中間所得層の消費購買欲が経済を動かしていくというシステムでした。戦後復興の高度経済成長に入った日本や西ヨーロッパ諸国でも同じ現象が起きました。

この経済エンジンとなりうる合理的・経済的な建築の原点は20世紀の初めにヨーロッパを中心に発展、アメリカでモンスターのように巨大化したモダニズム建築です。

20世紀に生まれ発達してきたモダニズム建築は偉大な発明でした。
ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナパヴィリオンを代表とするモダニズム建築は、徹底的な合理性と経済性のもとにその純粋幾何学に基づいた美意識と相まって、これまでの伝統建築を全て捨てさせてしまうようなインパクトを世界各地に与えたのです。
そしてその20世紀の建築を構成してきた材料は鉄、ガラス、コンクリートでした。

鉄、ガラス、コンクリートは工業化製品として極めて優れた素材です。
これらは世界中あらゆる所で採掘可能な鉱物を原料とし、比較的簡易な方法で大量に工業生産が可能な素材です。
特にコンクリートの汎用性の高さは驚異的です。
型枠を用意することさえできれば、あのドロドロした灰色の液体を型枠に流し込んで数日置いておくだけで、どんな形にも高強度で成型可能です。
発展途上国では手持ちの機械でセメントなどの材料をミキシングした後、バケツに入れて人力で運び型枠に流し込むだけで、そのうち巨大な建築物ができてしまいます。
そして世界中の大都市はあっという間に鉄、ガラス、コンクリートでできた高層ビルに覆われていきました。

丸の内ビル

(東京・丸の内のビル群、筆者iPhoneにて2021年4月に撮影)

・木、石、土などを活かす21世紀の素材感覚

モダニズム建築が繁栄していく一方で合理性、経済性の名のもとに世界各地で大切に使われて来た木、石、土などの自然素材の利用が廃れていきました。これらの素材は祖先の時代から身体的に馴染むものとして、人々に愛されてきたものです。

今多くの人々は鉄、ガラス、コンクリートだけで構成された空間にある種の窮屈さ、閉鎖的な感覚を抱き始めているのだと思います。
とりわけコロナ禍により家に閉じこもることが多くなったことで、快適な住まいの考え方や公共空間のあり方を考える人が増えたのではないでしょうか?

僕が掲げる建築家の使命の一つとして、この木や石などを新しい形で使用する方法を提示することにあると思っています。

近年の技術発展により木材は工夫をすれば構造として、大規模建築に使えるようになってきました。また住宅スケールなら木造は、鉄骨造やRC造より断熱性能に優れ、施工費も抑えることができます。
石も外壁材として高い環境性能を備えられますし、土は版築ブロック等の構法を応用することで様々な建築部位に用いることができそうです。


実際に木造の新たな構造の可能性を模索するワークショップをイタリア・シチリア島にて2013年11月に開催しました。(上写真)このワークショップは日本建築家協会(JIA)などが組織した若手建築家の海外活動を支援するプログラムの援助を受けて、僕とイタリア人建築家Salvator John Liotta氏、イタリア人建築家・教授と一緒に開催したものです。(ワークショップ主催体験記は別記事でそのうち記載します。)

このプロジェクトはシチリア島アグリジェントにて、古代ギリシャ遺跡の発掘調査の日除けシェルターとして実験的に建てられたものです。
ギリシャ遺跡は広範に渡るため、屋根と足場が着脱可能でかつ足場の位置調整が可能な構造が要望として求められました。また5日間と短期で与えられた期間で施工・完成できるようにすることも求められました。

そこで軽量かつ安価で、機械でも手でも加工の容易な現地の松材を構造材として活用することにしました。イタリアは松がたくさん存在する国で古代から松材が屋根の構造材として利用されてきた歴史があります。

梁や柱の工法として、日本の寺社の木造に着想を得たグリッド構造を採用しました。
このグリッド構造は垂直方向の束材として45mmx45mm角の木材を4本並べ、それらの角材のすき間に20mm x 60mmの梁材を各方向に挟むことで構成します。足場も同じ原理で構成します。
これらの束材と梁材は取り外し可能な同じ規格サイズのボルトで締めます。また足場と屋根グリッドの接合も同じボルトと接合用板材を挟み込んでつなげます。
これにより全ての部材で同じ穴あけサイズにて材加工・施工でき、しかも木材サイズ規格も2種類で済むので、短期間で簡易に施工することができます。

このプロジェクトはシェルター向けの構造材として提案しました。ですが、この簡易施工できるシステムは商業用インテリアや家具などにも応用できそうです。
例えば、天井にこのグリッド構造を配置すると間の配線や天井の構造体の汚れを隠すことができます。束材の下端の長さを場所に応じて変化させることで、それぞれの位置に応じた空間の高さを提案できそうです。また照明もいろいろ工夫できて斬新な空間が生まれると考えます。

21世紀に入って20年ほどが経ち、このコロナ禍が起きて人々の意識が以前よりも環境や自然素材へと向かっています。
そのような社会的な状況下において木などの自然素材の活用方法や素材としての利用ポテンシャルを考えていくことはとても重要なことではないでしょうか?

何も鉄、ガラス、コンクリートを使うなという意味ではありません。これらの素材は建材として優れた要素が多くあります。
20世紀の偉大な進歩を全否定するのではなく、これらの素材の利点も生かしながら、21世紀なりの新しい自然素材の使い方を考えるのがこれからの建築のあり方だと僕は考えます。

僕の建築設計では常に自然素材を積極的に活用できるポイントがどこにあるかを模索しながら行います。それは僕の意識だけでなく、クライアントからの積極的な提案で採用することもあります。

建築家とクライアント、施工業者(職人)の三者で、どうしたら自然素材を活用できるかについてアイディアを出し合って対話しながらプロジェクトを進めることが、21世紀的な素材感覚を育んでいく文化的土壌になると考えています。

その3へと続く。


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